『新生ロシア1991』物理的抵抗の力強さ

新生ロシア1991(2015)
The Event

監督:セルゲイ・ロズニツァ

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

渋谷シアター・イメージフォーラムにて現在公開中のセルゲイ・ロズニツァ監督作『新生ロシア1991』。映画仲間に推薦されていたこともあり、2023年映画館初めはこの映画にした。相変わらずセルゲイ・ロズニツァのパワフルなフッテージ芸が炸裂する作品であった。

『新生ロシア1991』あらすじ

「ドンバス」「ミスター・ランズベルギス」のセルゲイ・ロズニツァ監督が、1991年8月にソ連のモスクワで起きた「ソ連8月クーデター」を題材に手がけたドキュメンタリー。

1991年8月19日、ゴルバチョフ政権によって進められていたペレストロイカに反対する保守派勢力が、ゴルバチョフ大統領を軟禁し軍事クーデターを宣言した。しかし、速報を伝えるはずの公共放送は「白鳥の湖」を流し、混乱したレニングラードの人々はモスクワの状況を知ろうと街に繰り出した。宮殿広場の集会に押し寄せる人の波はいつしか大群衆となり、人々はそこである出来事を目撃する。

8月クーデターの3日間、レニングラードに集まった民衆による民主主義の決起を訴える8万人のデモなど市街の様子を、全編アーカイブ映像で描き、ソ連崩壊へとつながる歴史的な出来事を記録した。

映画.comより引用

物理的抵抗の力強さ

セルゲイ・ロズニツァ監督はフッテージを使うことで「群れ」の生態系を解き明かそうとしている監督だと考えられる。例えば、『バビ・ヤール』の場合、いつしか市民が凄惨な殺人の加担者になってしまう様子を暴いている。『アウステルリッツ』ではもはや、観光地化し歴史の痛みが風化しつつあるビルケナウの一面を悪気ない観光客の笑み、遊びを捉えることで暴いている。『新生ロシア1991』はクーデターにより街へと投げ出された市民の困惑を捉えている。「白鳥の湖」が流れる中、立ち尽くす市民は、やがて抗議のような、連帯のような一体感を帯びて新しい時代を迎えようとする。セルゲイ・ロズニツァ監督が捉える物理的人の動きの強烈さを前にすると、SNSで行われているデモの弱さを感じる。確かに、その場にいなくても膨大な賛同者が一体となって社会を変えることもあるが、それは仮想空間だけの話であって、そのSNSを遮断したら直視できないものとなる。一方で、物理世界で群れをなすことは、対象に直視せざる得ない状況を作り出す。物質的に人と人とが可視化されるため、仮想空間以上に暴力的で効果的なものがある。無論、SNS上での群れにも特有な群れの暴力性はあると思うのだが、セルゲイ・ロズニツァ監督の群れフッテージを観るとその怖さに背筋が凍るのである。歴史的背景に疎いこともあり、また『バビ・ヤール』と比べると分かりにくい部分が多かったので語れることは少ないが、物理的群れ/仮想的群れの関係性を考えるきっかけとなった。

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※映画.comより画像引用