『クイーン・オブ・ダイヤモンド』哀しみも喜びも無に返るカード捌き

クイーン・オブ・ダイヤモンド(1991)
Queen of Diamonds

監督:ニナ・メンケス
出演:ティンカ・メンケスetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

国立映画アーカイブでの特集「アカデミー・フィルム・アーカイブ 映画コレクション」でニナ・メンケスの『クイーン・オブ・ダイヤモンド』が上映されていたので観てきた。ニナ・メンケスといえば、映画における男性の性的消費の眼差しを批判した人として知られるが、本作の時点でこの手の眼差しを忌避する撮影が行われていた。

『クイーン・オブ・ダイヤモンド』あらすじ

従来のハリウッド映画が内包する権力構造や女性の描かれ方に対する批判的視座のもとにインディペンデントで映画制作を続けるニナ・メンケスの代表作。他の彼女の作品でも重要な役割を果たす実妹のティンカ・メンケスが主演し、ラスベガスでディーラーをしながら砂漠の町で生きる女性の日常を描いている。1991年のサンダンス映画祭において女性監督による長篇作品として初めてドラマ部門で上映され、高い評価を得た。2019年作製の復元版での上映。

※国立映画アーカイブサイトより引用

哀しみも喜びも無に返るカード捌き


ニナ・メンケスは2022年に発表した論文ドキュメンタリー『BRAINWASHED: SEX-CAMERA-POWER』にて『ファントム・スレッド』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などといった作品を例に挙げながら、映画における男性の性的搾取の眼差しを批判した。具体的に女性の胸や尻をアップにしたり、顔を舐めるように撮る撮影方法を示す。それを踏まえると、この映画の独特な撮影方法が腑に落ちる。『クイーン・オブ・ダイヤモンド』は行間が非常に広い作品だ。ラスベガスを舞台に、カジノディーラーとしての仕事、介護仕事に励む女性の肖像が描かれる。彼女は、豪華絢爛なラスベガスのイメージと反して、寂れたモーテルと職場を往復する毎日を送っている。彼女の顔に煌びやかさはない。そんな彼女を、カメラは少し離れたところから撮っていくのである。そして、決定的瞬間や男性目線のショットは徹底的に排除される。

例えば、線路を歩く場面に注目してほしい。女性が線路を伝って歩く。切り返しとして、3人の男が遠くからついてくる場面がある。次のシーンでは、鍵を無くした彼女が苛立っている。恐らく男絡みで嫌なことがあったのだろう。それは映画の中で直接描くことはない。また、介護の場面で爺さんが舐めるように彼女を観る場面を強調する場面も存在しない。結婚式の場面では、女性の胸にフォーカスが当たると思いきや少年にフォーカスがズレていく外しの演出があるのだ。『BRAINWASHED: SEX-CAMERA-POWER』を踏まえると、本作がいかに理論の映画であるかが分かる。

そして本作、最大の観所は、20分近くカードが捌かれる場面だろう。淡々とカードを配り、札を装填していく様子を、手元のショット、引きのショットを交差させて20分近く描く。カジノの音が木霊し、ASMR動画のような心地よさがある。この一連の運動の中には、賭けに勝った、負けたの悲哀が入り込むことはない。なぜならば、彼女にとってカジノは単なる働く場所。ルーティンの場所でしかなく、他者の勝敗は関係ないのだ。

今年はニナ・メンケスを追ってみようかと思った一日であった。

P.S.私の隣に座っていた外国人の男がずっと挙動不審だったのだが、ラスト10分でカノジョと思しき人と激しくイチャつきはじめて4DX上映という最悪な状態で鑑賞しました。しかもエンドロール中、自分に「スミマセン、エイゴワカリマシタカ?」と聴いてきて怖かった。ニナ・メンケス映画でそれはないよ。

※MUBIより画像引用