ケイコ 目を澄ませて(2022)
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美(HIMI)、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
先日、映画の飲み会で三宅唱監督最新作『ケイコ 目を澄ませて』の話を聞いて興味を持ったのでテアトル新宿まで行ってきました。三宅唱は、なんとなく輝ける青春の中に苦みを含ませるようなタッチを得意とした監督だと認識している。今回も例に漏れずその傾向を貫く作品であった。
『ケイコ 目を澄ませて』あらすじ
「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督が「愛がなんだ」の岸井ゆきのを主演に迎え、耳が聞こえないボクサーの実話をもとに描いた人間ドラマ。元プロボクサー・小笠原恵子の自伝「負けないで!」を原案に、様々な感情の間で揺れ動きながらもひたむきに生きる主人公と、彼女に寄り添う人々の姿を丁寧に描き出す。
生まれつきの聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコは、再開発が進む下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。嘘がつけず愛想笑いも苦手な彼女には悩みが尽きず、言葉にできない思いが心の中に溜まっていく。ジムの会長宛てに休会を願う手紙を綴るも、出すことができない。そんなある日、ケイコはジムが閉鎖されることを知る。
主人公ケイコを見守るジムの会長を三浦友和が演じる。
筆記による「声」、拳による「声」で!
寂しげな更衣室。そこでケイコ(岸井ゆきの)は着替える。外では、熱気ある声と拳が響き渡る。聴覚障がいを抱える彼女は、声に負けんじと筆記による「声」、拳による「声」で食らいつく。ボクシング空間は音によって幾つかの層を形成していく。耳の聞こえない彼女は、時に同じ空間で罵声が飛び交っているのに、それに気づかず自分の世界にいる状況を発生させる。このジムにおける空間構成は物語の軸となっており、ケイコのプライベート描写にまで波及する。家ではヒモのような男(有識者曰く、弟とのこと)が、女を連れてきては音楽の練習をしている。二人きりになると手話で親密な対話が生まれるが、どこか孤独である。街中も当然ながら孤独であり、その孤独さというのは、コンビニでの応対、警察からの職務質問、道で男とぶつかった時の反応に現れる。彼女はなぜ熱心にボクシングへ励むのか?それは、「己のため、そしてリングに上がる時に自分の存在を遺すことができるからだ。」と分かってくるのだ。
試合に向かって邁進していく日々に差し込む光は青春の光であり美しい。しかし、一方で孤独との闘い。苦味が染みるものとなっている。それを、寂れたセピアのような空気でもって包み込む。『THE COCKPIT』の時にも感じた、何かに向かう時、それは自由だが、どこか閉塞感のある質感をもって映画における身体コミュニケーションの可能性を探った意欲作であった。
P.S.フレデリック・ワイズマンの『ボクシング・ジム』やロベール・ブレッソン『田舎司祭の日記』、小津安二郎映画を丁寧に自分の演出に落とした感じが強い作品でもありました。
※映画.comより画像引用