雲のむこう、約束の場所(2004)
監督:新海誠
出演:吉岡秀隆、萩原聖人、南里侑香、石塚運昇、井上和彦、水野理紗、木内秀信、岩崎征実、竹本英史、平野貴裕etc
評価:30点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『すずめの戸締まり』に併せて新海誠過去作である『雲のむこう、約束の場所』を観た。新海誠映画は独特な気持ち悪さが時たま取り上げられる。醸造された感傷的な表現がそうさせているのだろう。実際に観てみると、これがなかなか強烈なものであった。
『雲のむこう、約束の場所』あらすじ
2002年に発表したフルデジタルの個人制作アニメーション「ほしのこえ」で一躍脚光を浴びた新海誠が、初めて挑戦した長編監督作。津軽海峡を挟んで南北に分断された戦後の日本を舞台に、世界の謎を背負った1人の少女を救うため葛藤する少年たちの姿を描いた。米軍統治下の日本。青森に暮らす中学生の藤沢浩紀と白川拓也は、海峡を挟んだ北海道に立つ巨大な塔に憧れ、いつかその塔を目指そうと廃駅跡でひそかに飛行機の組み立てにいそしんでいた。ある夏休み、2人はもうひとつの憧れの存在・同級生の沢渡佐由理に飛行機の秘密を打ち明ける。3人は一緒に塔を目指す夢を共有し、ひと時の幸せな時間を過ごすが、中学3年の夏、佐由理は理由を告げることなく転校してしまう。飛行機で塔を目指す夢もそのまま立ち消えとなり、3年の時が過ぎる。それぞれの道を歩んでいた浩紀と拓也だったが、世界情勢に暗雲が漂い、塔の秘密が次第に明らかになったことをきっかけに、2人は再会する。声の出演に俳優の吉岡秀隆、萩原聖人。
落下による破壊は上昇でもって救う
定期的に細田守映画と新海誠映画の見分けがつかないというツイートが流れてくる。実は分かりやすい基準がある。細田守は自分がいる世界と別の領域を移動することで物語を進めることが多く、反対に新海誠は物理的移動を通じた物語推進を図る。仮想世界や異世界を通じて人間の感情に迫るか、今いる世界の実態を掴むことで人間の感情に迫るかの違いがあると思う。
本作は、天にまで昇る謎の塔に憧れ飛行機を作る男と、彼が愛した女の物語である。新海誠監督は『君の名は。』も『天気の子』も落下のアクションがトリガーとなって不可逆的な大きなイベントを発生させる傾向がある。この作品も、爆弾の落下と思しき爆発、そして少女の落下がトリガーとなるように、男から彼女を遠ざける。目に見えるけどはるか遠い存在である塔は、憧れや恐怖といった登場人物の心理を反映し、やがて戦争が恐怖一色に染め上げていく。そんな状況下で、男は上昇することで抵抗する。執筆時点では、『すずめの戸締まり』を観ていないのだが、予告編に触れたイメージやTwitterから漂う不穏な雰囲気からすると、大惨事レベルや落下の構図は『雲のむこう、約束の場所』に近いものなのではと推察できる。予告編では、川に飛び込むも上昇するヒロインの姿が映る。そして都市の上空で問題を解決しようとする。落下が悲劇の象徴なら、上昇することで悲劇を回避しようとする。だが、『君の名は。』も『天気の子』を踏まえると、大惨事をなかったことにしないのが新海誠監督の哲学ともいえる。だから部分的な解決を果たし、共に悲劇と共に歩む流れになるのではないだろうか。
このように理論立ててはみたものの、『雲のむこう、約束の場所』は映像作品としてレベルが高いものではない。確かに個人制作でこの作画は凄いものの、映画ではなく観るノベルに止まってしまっている。感傷的な語りが画に貼り付けられているだけなのだ。場面と場面が乱暴に繋げられたこの紙芝居は、映画を観ているというよりかはノベルゲームをしている感じに近い。だが、本作が新海誠映画の原石であることには変わりない。その後の作品の片鱗を味わえる珍味として私は堪能したのであった。
※映画.comより画像引用