NOUS(2021)
WE
監督:アリス・ディオップ
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第79回ヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞した『Saint Omer』。監督のアリス・ディオップはフランス生まれのセネガル人。ドキュメンタリー作家であり、『Les Passagers du Roissy-Express(パリ郊外を走る列車からの旅日記)』を基にしたドキュメンタリーを撮る中で幼児虐殺裁判に立ち会い、フィクション映画に切り替えた。つまり『Saint Omer』は初の長編フィクション映画とのことだ。さて、MUBIには彼女の作品が5本も観られる。昨年、制作された『NOUS』を観てみた。
『NOUS』概要
A kaleidoscopic portrait of people from the Parisian suburbs, their lives and work connected by the RER B commuter train that cuts through the city from north to south. A migrant mechanic, a care worker for the elderly, a writer, and the director herself, all make up the “we” of the title.
訳:パリを南北に貫く通勤電車RER Bによって結ばれた、パリ郊外の人々の生活と仕事を万華鏡のように描いた作品。出稼ぎ労働者、老人介護士、作家、そして監督自身が、タイトルにある「私たち」を構成している。
パリ郊外、マリ出身の黒人は車上で暮らしており、ボコボコになった車を弄りながら停滞した時を過ごしている。故郷にはもう帰れない。遠い存在となってしまっている。彼は淡々と寒々とした空間で生きている。映画はそんな彼の孤独と比較するように、移民が家族団欒とするホームビデオ映像、祖国の映像を重ね合わせる。場面は教会へと変わる。フランス人が群れをなして祈りを捧げている。
本作は路線図のように2点を繋ぐ線を複雑に絡めていくことでフランスを語ろうとする。黒人/白人、個/群、大人/子供、ホームビデオ/美術館のアーカイブ映像など。アリス・ディオップの他の作品を観ると一貫して線路が登場する。恐らく、時間を共有し一つの方向へと進む様子を列車に象徴させているのだろう。彼女は、分断されてしまった関係性を紡いでいくことで、時間の列車へ乗せていく。中盤になると、黒人の子どもたちが群れをなして無邪気に遊ぶ。白人と黒人が対話をする場面が展開される。元々、歴史と社会学を学んでいたアリス・ディオップ。歴史とは「過去」を物語ることで紡がれる。フランスの街にバラバラ点在した要素を繋ぎ止めることで、社会の断絶を解消する視点を模索しているように見える作品であった。
※MUBIより画像引用