『フランコフォニア ルーヴルの記憶』「過去」が層をなす美術館

フランコフォニア ルーヴルの記憶(2015)
Francofonia

監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、ベンヤミン・ウッツェラート、ヴィンセント・ネメス、ジョアンナ・コータルス・アルテetc

評価:85点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第35回東京国際映画祭にてアレクサンドル・ソクーロフ新作『フェアリーテイル』が上映される。本作はディープフェイクを用いてヒトラーやレーニン、イエスキリストを同時共存させる作品とのこと。彼は今までにレーニンや昭和天皇を歴史上の人物から個人の存在として映画に落とし込んでいた。そんな彼が、フィクショナルな存在として演出しているように見えるがどういうことか。その鍵を握っているであろう前作『フランコフォニア ルーヴルの記憶』を観てみた。

『フランコフォニア ルーヴルの記憶』あらすじ

ロシアの巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督が、ルーブル美術館を主役に据え、人類の芸術と戦争の歴史を紐解く。ソクーロフ監督自身と、美術品を運ぶ途上で船が嵐に遭っている「船長」によるSkypeでの通信を描いた「現在」。第2次世界大戦中、ドイツ軍のパリ市外侵攻に伴い、ルーブルから美術品の大疎開を敢行したジャック・ジョジャール館長と、美術品保護の責任者としてパリに派遣されたナチス高官・メッテルニヒ伯爵の対話を描いた「1938年~1940年」。諸国から略奪した美術品をルーブルに収容した、フランス皇帝「ナポレオン1世」と、「民衆を率いる自由の女神」で描かれるフランスの象徴「マリアンヌ」が語り出す「時間の狭間」。実際のルーブル美術館で撮影し、現在と過去を往来した3つのエピソードで構成され、12世紀から現在にいたるまで要塞、宮殿、美術館と形を変えながら、そのすべてを見てきたルーブル美術館の「記憶」をたどっていく。

映画.comより引用

「過去」が層をなす美術館

ソクーロフ監督がビデオチャットで大嵐の中、美術品を運ぶ男と通信を取る。不安定な通信はやがて途絶えてしまう。ソクーロフは、眠っているチェーホフの写真を提示し起きることはないと語り、そこからフッテージを構成してルーブルの歴史を語ろうとする。歴史を語るとはどういうことか?無数に並ぶ「過去」を並べて物語ることだ。「過去」を並べて語るとき、時空を越えることができる。映画は、時空を越える様子を画の質の変容でもって表現する。写真はもちろん、戦時中のフッテージ、そして再現ビデオが入り乱れる。戦時中では表現が難しかった高所をシームレスに動くカメラワークはドローンで演出される。現実にCGの戦闘機を登場させることで時を越えることができるのだ。

彼は何をしようとしているのか?それは美術館に隠れてしまった権力や人の思惑を掘り起こそうとしているのだ。戦乱の中、ドイツ人とフランス人が犬猿の中ながらも美術品を保護する物語。美術館には無数の過去の断片が蓄積されているが、なぜそこにあるのかは素通りしてしまいがちだ。ソクーロフ監督は我々がなんとなく楽しんでいる美術館の空間から歴史を現出させることをしている。『エルミタージュ幻想』では、ワンカットで美術館に眠る歴史性を呼び覚ました。『フランコフォニア ルーヴルの記憶』では「過去」の断片を切り合わせ再構成することで歴史を語ろうとした。ビデオチャットで運ばれてくる美術品はまさしく運ばれてくる「過去」のメタファーであり、ソクーロフはユニークな手法で「過去」を運んだ。

『フェアリーテイル』では、ディープフェイクを用い、形而上の観点から歴史を語ろうとしているのではないだろうか?このように考えた際に『フェアリーテイル』の予習として本作を観ることをオススメする。

頭でっかちな作品ではあるが、それでも横移動に多重露光で前進の運動を重ねたり、窓から引くと鏡が出てくるのだが真正面からの画にもかかわらずカメラが映っていないことによる神の視点感など視覚的面白さも多い作品なので楽しい作品と言えます。