【ウィリアム・キャッスル特集】『ミスター・サルドニクス』結末は観客に委ねられた。

ミスター・サルドニクス(1961)
Mr. Sardonicus

監督:ウィリアム・キャッスル
出演:ロナルド・ルイス、オードリー・ダルトン、ガイ・ロルフ、オスカー・ホモルカ、ウラジミール・ソコロフ、エリカ・ピータースetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

松永伸司「ビデオゲームの美学」にて、映画、絵画=鑑賞、ゲーム=受容の方程式を提示された。ゲームは、自らのアクションによってゲームキャラクターが反応する。その相互作用を楽しむため、鑑賞とは別の用語を当てはめた方が良いとのこと。この理論を踏まえると、映画系VTuber界隈を中心とした同時視聴文化や応援上映は映画体験を鑑賞から受容のものへと変換しているのだと考えられる。こうした時に、ウィリアム・キャッスル映画を本格的に掘り進める必要があり、昨年3本だけに留まったウィリアム・キャッスル映画特集を再開することにした。今回は、映画の受容的体験を語る上で重要な『ミスター・サルドニクス』について書いていく。

『ミスター・サルドニクス』あらすじ

A mysterious and cruel Baron, whose face has become frozen in a horrifying grin, demands that a prominent London physician apply experimental treatments on him to restore his face.
訳:顔が凍りつき、恐ろしい笑みを浮かべるようになった謎の残忍な男爵は、ロンドンの著名な医師に顔を元に戻す実験的な治療を施すよう要求する。

IMDbより引用

結末は観客に委ねられた。

「世にも奇妙な物語」のタモリが如くウィリアム・キャッスルが登場し映画を盛り上げる導入を作り出す。そして、映画は欲望と狂気に包まれた話へと発展していく。亡くなった父が遺した宝くじが当選していたことに気づくサルドニクス。墓を掘り起こす際にトラウマを抱き、顔がおかしくなってしまう。映画は、50年代頃の怪奇映画のようにのっそり進むのだが、マスクの滑稽さが今観ても退屈させないものへと昇華させている。

本作では終盤に、ウィリアム・キャスルが観客に語りかけてくる場面がある。劇場で配布された指を突き立てた紙の説明をする。サルドニクス氏にハッピーエンドをもたらすかバッドエンドをもたらすかを観客に決めさせるのだ。ウィリアム・キャッスルの自伝『STEP RIGHT UP!』によれば、ラストシーンを巡ってコロンビア社と揉めたことで考案されたギミックとのこと。ハッピーエンドを望むコロンビア社に対してバッドエンドで行きたいウィリアム・キャッスル氏は、投票システム”the Punishment Poll”を採用し、結末を観客に委ねた。そして観客はウィリアム・キャッスルの味方をしたのだ。

2019年末にNetflixが『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』で、観客の選択により変わる物語を配信し話題となった。その原型をウィリアム・キャッスルはやってのけたのである。しかも、投票シーンはVTuberをはじめとする動画配信者にとっては参考になるものが多いだろう。客席を覗き込むようにして、紙を集計しているそぶりを魅せる。そして、結末は言葉で言及せずに映画へと誘導していく。まるで、その場にウィリアム・キャッスルがいるかのような素振りは動画配信で応用できそうなものがある。

ウィリアム・キャッスルの軋轢をエンターテイメントに変える情熱に視惚れたのであった。

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