【マシュー・バーニー特集】『クレマスター3』摩天楼でシステムの奴隷になる

クレマスター3(2002)
CREMASTER 3

監督:マシュー・バーニー
出演:マシュー・バーニー、リチャード・セラ、エミー・マランスetc

評価:75点

東京都写真美術館で開催しているマシュー・バーニー特集に行ってきた。3時間に及ぶゾンビ映画と聞いて観に行ったのだが、これが奇妙な作品であった。

『クレマスター3』あらすじ

ケルト神話の世界。
フィンガルの洞窟に住む巨人、フィンガルが海を渡ってきた。ジャイアンツコーズウェイの巨人、フィオン・マッカンヘイルを訪ねるためだ。
場面一転。ニューヨーク・マンハッタン。
アールデコ調の装飾がまばゆいクライスラー・ビルでは、ロビーに女性のゾンビが運ばれてきた。
彼女は見かけを変えた男性の死刑囚、ゲイリー・ギルモアだった。
黒塗りの1930年代型クライスラー・インペリアル・ニューヨーカーにゾンビが乗せられると、それを1967年型クライスラー・インペリアル5台が囲んだ。
『クレマスター』各作のイメージカラーに塗られた5台の車。それらがクライスラー社の旧エンブレムにも似た五角形のフォーメーションを組み始め、一斉にゾンビを乗せた黒塗りの車を潰しにかかる。
その頃、見習い職人はクライスラー・ビルのエレベーターにいた。与えられた仕事は、エレベーターの中をセメントで固めること。しかし、エレベーターはセメントの重みでロビーまで落ちてしまう。
一方、見習い職人はシャフトを登り上階へ。なんと「クラウドクラブ」に迷い込んでしまったのだ。そこでは、フリーメイソンたちが黒ビール片手に秘密会議を開いていた。
「クラウドクラブ」のバーテンダーと滑稽なやりとりをする見習い職人。いつの間にか、N.Y郊外のサラトガ・スプリングスに移動していた。
そこは名門競馬場。
何の因果か、ヒットマンに狙われるハメに…。気づけば、今度は歯科の治療台で改造手術を受けていたのだ。
そこにヒラム・アビフが登場。彼は建物の最上階に陣取り、クライスラー・ビル自体の設計をしていた。見習い職人をいちべつすると、口内に黒い鉄片を押し込んだ。
その鉄片こそ、ロビーでボコボコにされた黒塗りの車だった。ゾンビがエキスになるまで、小さく潰されていた。
突然、見習い職人の容姿が変貌!
フランク・ロイド・ライトが設計したN.Yのグッゲンハイム美術館に立つことになる。
美術館内をフリークライミングで縦横無尽に移動。豊かな胸を揺らすコーラスガールや激しく対峙するロックバンド、義足の女性や厳つい彫刻家が待ち構えるフロアを行き来するのであった。
最後にケルト神話の世界に戻ると…。
『クレマスター』全作の引用を散りばめ、シリーズ全体を締めくくる3時間の超大作。

https://www.tomosuzuki.com/post/cremaster3より引用

摩天楼でシステムの奴隷になる

ジャイアンツ・コーズウェイで巨人が生肉を食べる場面から始まる。シーンは一転してクライスラー・ビルとなる。高層階に黒塗りの車がある。そこに目掛けて周囲のクラシックカーが激突。粉々になるまで潰し合う。その横で、職人がエレベーターに侵入して高層階を目指す冒険が繰り広げられる。エレベーターに侵入するとスプリンクラーから水を出し、セメントを作りエレベーターを埋めていく。やがて、フロアに入り込んだ彼はバーでビールを注文しようとする。しかし、紐で繋がれたマスターは連鎖的に破壊をもたらす。グラスは粉砕し、樽からは泡が噴射し、混沌に包まれていく。

二つの破壊が荒れ狂う末に、舞台はグッゲンハイム美術館へと移る。各フロアで、パフォーマンスが行われていく中、姿が変わった職人は壁を伝って上を目指す。

正直、背景が分からないので延々とシュールな光景で殴りつけられる印象を受けた。一応解釈すると、資本主義における欲望の具現化といえよう。資本主義の中で人は高みを目指す。高みを目指す中で、破壊がもたらされる。作った車は無意味に破壊される。バーのシーンでは男に紐が取り付けられている。これはシステムの奴隷の比喩であろう。システムの奴隷になった男は無意味な動作を行う。ビールを置いてはこぼしを繰り返す。2回目で学習するものだが、システム上「置く」行為しかインプットされていないので失敗を繰り返し、無駄がたくさん生まれた末に改善される。

主人公の職人は正攻法ではない登り方をしている。彼は資本主義の高みを目指し破壊をもたらす行為に反発しているようだ。彼はセメントを作る。グッゲンハイム美術館を横から登ることで、新たな出会いをしていく。破壊に対して創造を行う存在として職人が配置されているように見える。ゾンビがシステムに操られ、中抜きされている存在であるとするならば、職人はそれに抗う存在であろう。

日本では絶対に作れない表象に衝撃を受けながら3時間体感した映画であった。

※IMDbより画像引用