『ナナメのろうか』「ナナメ」に引き裂かれる姉妹

ナナメのろうか(2022)

監督:深田隆之
出演:吉見茉莉奈、笠島智

評価:80点


ある惑星の散文』の深田隆之監督最新作が早くも9/10(土)よりポレポレ東中野で公開される。今回、夢何生さんのご好意で一足早く拝見した。

『ナナメのろうか』あらすじ

初の劇場公開作品となった「ある惑星の散文」が注目された深田隆之監督が、モノクロ&スタンダードで描くある姉妹の物語。空き家になった祖母の家を片付けにきた姉妹の関係が次第に変化していく様子をとらえた、44分間の中編作品。

聡美と郁美の姉妹が、改装される予定の祖母の家にやってくる。妹の郁美は妊娠し、シングルマザーになる決意をしている。2人は家に残された物を片付け始めるが、幼い頃に遊んだおもちゃ箱を見つけ、当時のように遊び始める。しかし、郁美のお腹の子どもをめぐって2人の間に横たわる溝が露わになっていき、2人は家の中ですれ違い、会えなくなってしまう。嵐の夜の中、姉妹は暗闇の中でお互いを呼び合うが……。

映画.comより引用

「ナナメ」に引き裂かれる姉妹

改装される予定の祖母の家にやってきた姉妹・聡美と郁美。ふたりは仲良く会話をしているように見えるが、妊娠している妹・郁美がシングルマザーになる件が露出すると価値観を巡って対立する。

本作は『ある惑星の散文』に引き続き撮影を担当した山田遼のテクニカルな構図の変化が特徴的となっている。廊下の「縦」を強調した構図。翳りがあり、閉塞感ある構図から横にカメラが移動し「横」に長い玄関の構図を捉える。そこには光が差し込んでおり、開放感へと繋がる。物語前半は、閉塞/開放の空間を交互に展開することで姉妹の亀裂を表現していく。この演出には遊びが数多く、例えば「縦」が強調された扉の画と、「横」が強調された庭を交差させる「だるまさんがころんだ」シーンが印象的である。

家という幼少期を繋ぎ止める空間。しかし、縦横の空間により遠心分離機のようにふたりの心が引き裂かれ、「ナナメ」に放たれる音によってふたりの心は完全に裂けてしまう。同じ空間にいるのに、ふたりは互いを認識できなくなり、闇の中を彷徨う。

もはやあの頃の親密さに戻れなくなった溝を、思い出の地の中で迷子になることで表象するアイデア。そして徹底的に、作り込まれた縦と横を強調した画の交差により引き裂いていくふたりの心の表象に惹きこまれた。

44分の小さく深い闇、是非覗き込んでみてください。

9/10(土)よりポレポレ東中野にて公開。
※映画.comより画像引用