【JAIHO】『涙の塩』引きずる粘り気、ガムを剥がした粘着力

涙の塩(2020)
原題:Le sel des larmes
英題:The Salt of Tears

監督:フィリップ・ガレル
出演:ロガン・アンチュオフェルモ、ウラヤ・アマムラ、アンドレ・ウィルム、ルイーズ・シュヴィヨット、スエリア・ヤクーブetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

動画配信サイトJAIHOにて2022年4月7日までフィリップ・ガレル新作『涙の塩』が配信されている。今回も 『パリ、恋人たちの影』、『つかのまの愛人』に引き続きレナート・ベルタの美しい撮影で愛について葛藤する物語が描かれる。『涙の塩』を今回観てみたのだが、フィリップ・ガレルの集大成ともいえるシンプルながらも奥深い迷える恋が紡がれていた。

『涙の塩』あらすじ

美術工芸大学の試験を受けるため、地方からパリにやってきたリュックは、バスの行先を教えてもらった若い女性ジェミラと恋に落ちる。その後、父の住む故郷に戻ったリュックは、かつての恋人ジュヌヴィエーヴと再会すると、ジャミラを捨てすぐに復縁するが、ジュヌヴィエーヴの妊娠を知り彼女の元を去る。やがて試験に合格してパリに住むようになったリュックは、ベツィという新しい恋人と付き合いはじめるが、今度は彼がベツィに翻弄される…。

JAIHOより引用

引きずる粘り気、ガムを剥がした粘着力

バス乗り場に立つ一人の男リュック(ロガン・アンチュオフェルモ)、彼はふと斜め前を見る。すると女性が一人立っている。彼は彼女をチラチラ見つめ、そして決心したかのように話しかける。そして一緒にバスへ乗り込む。パリに慣れていないリュックはその女性ジェミラ(ウラヤ・アマムラ)に話しかけるが会話が続かない。目の行き場に困る様子を別の女性客への眼差しのショットで強調させる。バスから降りる。ここで別れが訪れる。ここで別れたら一生出会うことがないだろう。リュックはその一期一会に何かを感じ、ジェミラへ歩み寄りデートの約束をする。そして、束の間の愛が始まる。

しかし、目線によるサスペンスがあったバスでの出来事に対し、デートの場面になるとドライなものとなる。リュックにとって、デートするまでが恋のゴールになってしまったかのように。一方で、冷たい表情を魅せていたジェミラはときめき、リュックの粘着質が伝播したかのように追跡していく。だが、リュックは、学校の試験が終わると故郷へ帰り、ジュヌヴィエーヴ(ルイーズ・シュヴィヨット)と親密になる。でもこの恋もあっさり終わりを告げる。彼はパリの学校に合格し、彼女の腹に抱えた子を邪魔に思い、切り捨てるのだ。

本作は、粘着質に女性を追い回す男が、結ばれると途端に冷たくなり、去ってしまう様子とまるで壁に張り付いたガムを剥がしても粘り気が残るように過去が彼を追い回す様子をシンプルなカット繋ぎで捉えている。レナート・ベルタによるドライさとねっとりしたカメラワークの強弱が独特のリズムを生み出していて、クズ男の救いようもない話にもかかわらず、自分の醜さに蝕まれていく様子に惹きこまれるものがある。

特に、リュックとジェミラが建物の内側で接吻をする場面が決定的であり、リュックは接吻をするとするっと外の方へ出ていく。一方で、ジェミラは建物の内部を歩いていき、扉の中へ入る。その際の丁寧な手つき、そして感情の高まりを抑えきれない表情を確実にカメラへ収めていく。その直後に、交差点でリュックが後ろを振り返り、彼女のことを一瞬考えて去っていく姿が映し出される。

恋はするが自由の為に家族を拒絶する男のべっとりとした肖像画に何故だか私は魅了されたのであった。

※Allocinéより画像引用