『レイジング・ファイア』トップダウンの圧力に業火の拳を

レイジング・ファイア(2021)
原題:怒火・重案
英題:Raging Fire

監督:ベニー・チャン
出演:ドニー・イェン、ニコラス・ツェー、チン・ランetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021年映画ベスト10スペースを開催した際にTERRA_sun( @terra82mater )がスペシャル・メンションとして香港映画『レイジング・ファイア』を挙げていました。2022年良い映画ライフを祈願する為、TOHOシネマズ日比谷で映画初めとして『レイジング・ファイア』観てきました。

『レイジング・ファイア』あらすじ

「イップマン」シリーズのドニー・イェンと「孫文の義士団」のニコラス・ツェーがダブル主演を務めたポリスアクション。正義感あふれる警察官チョンは、麻薬組織の壊滅作戦中に謎の仮面をかぶった集団に襲撃され、仲間を殺されてしまう。やがてチョンは、事件の黒幕が3年前に警察組織にはめられ投獄された元同僚ンゴウであることを知る。チョンは自身にとって弟子のような存在だったンゴウと、激しい攻防を繰り広げるが……。警察官チョンをドニー、復讐に燃える狂気の男ンゴウをニコラスが演じる。2020年に急逝した香港アクション映画界の巨匠ベニー・チャン監督の遺作となった。「るろうに剣心」シリーズの谷垣健治がスタントコーディネーターを務めた。

映画.comより引用

トップダウンの圧力に業火の拳を

数年越しの麻薬組織壊滅ミッション中に、謎の仮面集団に襲われ警察軍団が大打撃を受ける。殉職する者もいる。正義感溢れるチョン(ドニー・イェン)は、警察組織の圧力に反発しながらも、時に単身敵陣に乗り込み仮面集団の正体を探る。本作は、意外にも『香港画』で描かれた警察の苦悩と重ね合わさる部分がある。2019年-2020年香港民主化デモで香港人は分断された。警察も人間である。生活のために、弾圧に加わってしまうケースもある。『レイジング・ファイア』はそんな警察組織における個と集団の葛藤を描いており、同僚の中にはトップダウンの命令に従うしかなく、チョンと対峙してしまう。チョンは、トップダウンでの命令に疑問を抱く。本質は、事件を解決することである。組織内政治によって本質が歪められてしまうことに怒りがあるのだ。

本作は谷垣健治がスタントコーディネーターを務め、人間離れしたアクションがある。特に道路での先頭は圧巻であり、渋滞で無数の車が止まる中、その合間をぬってバイクが警察を血祭りにあげていき、バイクのタイヤごと車のガラスにめりこむ。横滑りし、子どもに突っ込んでいく車からドニー・イェンが飛び出し、壁キックしながら救助する場面はまるでスポーツのスーパープレイを観たときのような高揚感があります。

その一方で、上記のように香港情勢に対するベニー・チャンの強いメッセージが込められている。それが最も象徴的に現れるのは、終盤チョンが処分のために呼び出されるシーン。無数の仲間が部屋に押し寄せ、彼の処分を撤回するよう懇願する。通常であれば、その情に負けて撤回する展開になるだろう。しかし、ここではワンクッション置く。チョンを裁く者として、どうしてもトップダウンの法則に従わなければならない。しかし、群による説得に胸打たれ、気の利いた妥協案を提示する。組織に入れば回避不可な選択をしないといけないことがある。でもやり方次第で社会を変えることができる。この粋な計らいこそが香港の希望だと謳っているようだ。

そのままドニー・イェンとニコラス・ツェーとの壮絶な戦いが始まる。2時間ノンストップで駆け抜ける熱々の戦いはまさしくニューイヤーアクション映画にぴったりである。大満足で劇場をあとにしました。

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※映画.comより画像引用