MISS VIOLENCE(2013)
監督:アレクサンドロス・アブラナス
出演:テミス・パヌー、Reni Pittaki、Eleni Roussinou、Sissy Toumasi、Kalliopi Zontanou etc
評価:70点
皆さんはGreek Weird Waveをご存知だろうか?
2000年代後半からギリシャで同時多発的に生み出された、ミニマムで不穏な空気に政治や社会問題を封じ込めた作品群を海外の批評家はGreek Weird Waveと呼んでいる。日本ではヨルゴス・ランティモスの作品や『PITY ある不幸な男』がその流れにあると捉えてもらえればイメージしやすいだろう。
今回は国際的にGreek Weird Waveが注目されるきっかけの一つとなった『MISS VIOLENCE』を観賞しました。本作は、第70回ヴェネツィア国際映画祭にて監督賞(アレクサンドロス・アブラナス)と男優賞(テミス・パヌ)を受賞しました。日本ではほとんど紹介されることのなかった作品ですが、ヨルゴス・ランティモス映画好き必観の作品に仕上がっていました。
『MISS VIOLENCE』あらすじ
On her 11th birthday, Angeliki jumps off the balcony and dies. While the police and Social Services try to discover the reason for this apparent suicide, Angeliki’s family insist that it was an accident. What is the secret Angeliki took with her? Why does her family try to “forget” her and move on?
訳:11歳の誕生日にアンゲリキはバルコニーから飛び降りて死んでしまう。警察や社会福祉課が自殺の原因を追及する中、アンゲリキの家族は事故だと主張する。アンゲリキが持っていた秘密は何なのか?家族はなぜ彼女を忘れようとしたのか、前に進もうとしたのか。
※MUBIより引用
ギリシャの奇妙な波
冒頭、11歳になるAngelikiの誕生日会が開かれる。家族団欒、楽しく過ごしていたら、突然彼女はベランダから飛び降りてしまう。音楽はピタッととまり、家族はベランダの方を振り返る。カメラはジワジワと下界に向かってパンをしていき、そこに酷い死が横たわっていることを提示する。
警察による事情聴取が行われる。家族は喪失感を抱く。観客は、死を乗り越えていく話かと推察する。しかしながら、どうも様子がおかしい。食事になると、父親が物凄い威圧感を与える。どこか居心地の悪い空気が流れているのだ。そして、段々と「何故、Angelikiは飛び降り自殺しなければならなかったのか?」が判明してくるのだ。
タイトル通り、この家族がひた隠しにしている暴力を、冷たいカットによって映し出される肖像画のように静止した人と建物の構図で紐解いていく。そしてヨルゴス・ランティモスしかり、『Attenberg』しかり、Greek Weird Waveあるあるといっても過言でないだろう、不気味なダンスがスパイスとなる。この映画において小さな踊りは、抑圧される女性の微かな自由の象徴とでも言えよう。
日本では注目されることなくスルーされてしまった作品だが、ギリシャの不条理劇が受け入れられるようになった今、注目すべき原点と言えよう。
※MUBIより画像引用