『彼女はひとり』立教大学大学院映像身体学科が熱い!

彼女はひとり(2018)

監督:中川奈月
出演:福永朱梨、金井浩人、美知枝、中村優里、三坂知絵子、櫻井保幸、榮林桃伽、堀春菜、田中一平、山中アラタetc

評価:70点

皆さんは、大学映画を観たりするだろうか?

アメリカだと、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツが力を持っており、第71回カンヌ国際映画祭のコンペティションに学校のプロジェクトで作った映画『Yomeddine』を出品したり、セネガル出身監督ママドゥ・ジャの『Baamum Nafi』を第72回ロカルノ国際映画祭で2冠(Golden Leopard – Filmmakers of the Present,Best First Feature)に導いたりしている。

では日本ではどうか?

実は私は立教大学大学院映像身体学科の映画に注目している。『SHARING』の篠崎誠が教鞭を取っているここから排出された作品は学生映画とは思えない独創的な世界を魅せてくれる。先日、観た服部正和監督『FRONTIER』は日本のインディーズ映画という殻から破るようにクリストファー・ノーラン作品のようなSF叙事詩を生み出していた。

今回、試写会で観た『彼女はひとり』もまた独特な世界が私を魅了してくれました。

『彼女はひとり』あらすじ

インディーズ映画界の登竜門として知られる田辺・弁慶映画祭の2019年(第13回)コンペティション部門で、主演の福永朱梨が俳優賞を受賞した作品。橋から身を投げて自殺を図ったものの、死ぬことができずに生還してしまった高校生の澄子。幼なじみの秀明が教師の波多野とひそかに交際しているという秘密を握っていた澄子は、煩わしい日々が続く中で、その秘密をネタに秀明を脅迫し始めるのだが……。監督の中川奈月が立教大学大学院映像身体学科の修了制作として手がけたもので、脚本の完成度の高さから、黒沢清作品などを多数担当してきた撮影監督の芦澤明子が参加。田辺・弁慶映画祭の俳優賞のほか、第15回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のSKIPシティアワードなどを受賞。田辺・弁慶映画祭の受賞作品を特集する「田辺・弁慶映画祭セレクション2020」(20年11月20日~12月10日、東京・テアトル新宿)で上映され、2021年10月には単独で劇場公開。

映画.comより引用

立教大学大学院映像身体学科が熱い!

勝沼秀明(金井浩人)は、何かに怯えるように付き合っている女を振り、執拗にまとわりつく友人から「金を貸してくれ」と言う。この異様な空間の影から、幼馴染である戸田澄子(福永朱梨)が現れ、脅し始める。彼女は知っているのだ。勝沼が学校の先生と情事に明け暮れていることに。そしてその写真を持っていることに。

秘密を人質に、彼女は破壊願望からくる暴力で持って勝沼の人生を破壊しようとする。思春期、息苦しい学校生活に全て壊れて欲しいと思うことがある。だが、日常はそんな破壊願望を他所に流れていく。だが、外側の世界にだって閉塞感に苦しんでいる姿がある。勝沼の場合は、父が単身赴任で中々帰ってこず、愛情に飢えていたのだ。

本作は、痛みや苦しみの避雷針を見つけられない者の破壊願望を禍々しく魅せる。そのアクションが振り切れることを拒むことで、妙な肌触りが修羅場のドミノ倒しを形成し、飽きることがない。

勝沼に目を向ければ、執拗に追い回す友人、幼馴染、そして先生が身動き取れなくさせていく。肉体的接触は少ないのに、空間的接触が多く、彼の安全圏は汚染されていくのだ。これは、学校という狭いコミュニティの中における行き場の無さの表象として興味深いものがある。『本気のしるし』で魅せた福永朱梨のファムファタールたる魅力も健在で面白かった。

中川奈月監督は、深田晃司や濱口竜介のような人間の辛辣な間合いを捉えるのに長けた監督と見たので注目していきたい。

2021年10月23日(土)よりK’s cinemaにて公開。

※映画.comより画像引用