【アニメシリーズ】『かげきしょうじょ!!』2020年代の縦社会魅せてあげます

かげきしょうじょ!!(2021)

監督:米田和弘
出演:千本木彩花、花守ゆみり、上坂すみれ、大地葉、佐々木李子、松田利冴、松田颯水、花澤香菜、小松未可子、寺崎裕香erc

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今、Amazon Prime Videoで歌劇をテーマにしたアニメが配信されている。その名は『かげきしょうじょ!!』。斉木久美子の同名漫画のアニメ化である。これが、よくある青春キラキラもの、縦社会もののあるあるを次々と覆していく凄まじい作品であった。今や、コンプライアンスが重要視され、今まで習慣として存在していたものがパワハラ、セクハラとして認定される中でいかにして建設的な「高み」を目指す世界を描いていくのか。また、2010年代後半から『ハル×キヨ』、『羽柴くんは152センチ』などといった高身長をコンプレックスとして描く漫画が増えていった一方で、「アイドルマスター」の諸星きらりや「ウマ娘」のヒシアケボノ、「呪術廻戦」の高田ちゃんといった高身長を個性として捉えたキャラクターが次々と生まれていった。現実社会でも、2010年代後半からyoutubeやインスタグラムで高身長を売りにしたり高身長あるある動画でコンプレックスを共有する動きが出てきた。つまり日本において高身長女子の表象に多様性が生まれてくる中で、このアニメが制作されたことは非常に重要な意味を持っているのだ。今回、第11話まで観たのですが、毎回面白いギミックが凝らされていたので語っていきます。

『かげきしょうじょ!!』あらすじ

未来のスターを目指し、輝く舞台へ情熱をそそぐ歌劇少女たちの〈青春スポ根ストーリー〉!!大正時代に創設され、未婚の女性だけで作り上げる美しく華やかな舞台で世代を超えて人々の心を魅了する「紅華歌劇団」。その人材を育成する「紅華歌劇音楽学校」に、高い倍率をくぐり抜け入学してきた第100期生たち。“オスカル様”に憧れる、178cmの長身を持った天真爛漫な少女、渡辺さらさ。夢も友達も、すべてに無関心な元・国民的アイドル、奈良田 愛。何もかもがバラバラな彼女たちの、希望と葛藤に満ちた音楽学校生活が今、幕を開ける──!!

※Amazon Prime Videoより引用

2020年代の縦社会魅せてあげます

狭き門「紅華歌劇音楽学校」を潜り抜けた、才能ある少女たち。彼女たちが目指すのは紅華歌劇団。華やかな舞台に立てることを夢見て切磋琢磨技術を磨く。その狭いコミュニティ。強烈な縦社会は、先輩や教師による理不尽な叱咤や仲間同士の軋轢を思い浮かべてしまう。

しかしながら、本作は違う。確かにクリシェに沿って、野島聖といういじめ役キャラクターが配備されているが、彼女一点に留めている。生徒は先生に「それはセクハラですよ」とハッキリ言う。仲間同士はライバルにはなれども、共に上を目指す同士として互いの才能を認め合うのだ。ある種の競争社会の理想を魅せつけてくれる。

また、先生による言葉の呪いも説得力がある。例えば、『ロミオとジュリエット』のティボルトを完璧に演じてみせる渡辺さらさ。彼女の演技に対して安藤先生は「あんたはトップになれないよ」と言う。歌劇に疎い私は、誰よりも上手かった彼女になんて酷い言葉を投げかけるんだと思っていたのだが、それには合理的な理屈がつく。彼女はDVDの役者の演技をコピーしていたのであって、彼女のティボルト像がそこにはなかったのだ。つまり、モノマネに過ぎなかったのです。彼女は「おそろしい子」である。天然で頭は悪いが、演技を見れば一発で完全コピーできる。また強烈なオーラで人々を世界に引き摺り込む能力がある。だからこそ、彼女の才能を腐らせないよう先生は釘を刺したのです。

こうしたような物語のディティールは、登場人物の深掘りに繋がっており、話を追っていくうちにどのキャラクターにも愛着が湧いてくる。さらさの対として登場する奈良田愛。幼少期に性的虐待を受けて男嫌いになった彼女が何故かアイドルグループに所属する。これは、男がいない世界で輝ける場所に惹き込まれたからだ。しかし、握手会でキモオタクに拒絶反応し、それが原因となって芸能界をやめ、さらに男に対するトラウマが増強される。その経緯を経て「紅華歌劇音楽学校」に通う。昨今、『ジェニーの記憶』を初めとする性的虐待の告白や、女性として生きることの息苦しさの表象にスポットライト があたるようになった。それだけに、アニメでここまでハードな展開を余すことなく描く。それもキモオタクの心理に寄り添う展開にまで持ってくる点で2020年代的価値観の作品だと思わずにはいられない。

また、ストイックなキャラクター星野薫の掘り下げ回も魅力的だ。芸能一家の娘・星野薫。意識が高く、日傘をさしながら学校に通い、「紅華歌劇音楽学校」を目指すが受験に落ちてしまう。祖母は「春の白雪姫」と言われた人気の春組娘役トップスター故、常に比較され息苦しさを感じるが、それをバネとして合格を目指す。そんな彼女が、似たような境遇の野球男子と出会う。いつもベンチを温めている野球男子。彼の兄は野球で大成功を収めているため、常に劣等感が付き纏う。二人は惹かれ合っていく。それまでの話では、さらさのオーラに掻き消され、ただのストイックなモブとしての印象しか残らなかったキャラクターが、感情を吐露させ悩む轍を魅せることで、本作の登場人物の背景にある「歴史」が意識される。このアニメでは徹底的に人間を描く意気込みが溢れているのだ。

さて、話をさらさに戻そう。彼女は『赤ちゃん教育』のキャサリン・ヘプバーンみたいに豪快だ。178cmと高身長であり、スマホで撮影しようにもフレームに収まらなかったりするが、そんなこと気にせず豪傑さを突き通す。非常に厳しい世界ながらも、先生や先輩、仲間に容赦無く語りかけ、嫌味もキャンセルしてしまう。全くコントロールできない存在として描かれている。そんな彼女を中心に置くことで、分断されてしまう縦社会をつなぎとめているのが興味深い。また、意外なことに彼女にカレシが最初からいるのも慧眼だ。通常、青春キラキラ物語ではヒロインが恋に堕ちることを物語の推進力にしがちだ。しかしながら、彼女の場合既に成熟しており、歌舞伎の世界で頑張る者と歌劇の世界で頑張る者の関係性、つまりプロフェッショナルとして認め合う存在として描写されているのだ。これは、恋愛に頼ることなく青春を描いてやろうという強い宣言のような者で画期的だ。だが、青春キラキラあるあるもさりげなく挿入したりしており、大運動会のシーンでは、男役の先輩がさらさに壁ドンをする。それもある種の逆身長差壁ドンとなっているのだ。

このように『かげきしょうじょ!!』は徹底してクリシェを外し、原作こそ2012年のものながら2020年代の物語へと昇華させることに成功している。また、歌劇の魅力も十分伝わってきたので、宝塚の『シティーハンター』を観劇したくなってきました。

今年最重要のアニメであることは間違いありません。

※Amazon Prime Videoより画像引用