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【日本未公開】『ジェニーの記憶 The Tale』パワハラ、セクハラが作り出す霧の轍

【日本未公開】『ジェニーの記憶 The Tale』パワハラ、セクハラが作り出す霧の轍

ジェニーの記憶(2018)
The Tale


監督:ジェニファー・フォックス
出演:ローラ・ダーン、エリザベス・デビッキetc

評価:80点

町山智浩がラジオで賞賛していたものの、HBOのテレビ映画故か、内容のハードさ故か日本公開(後述)が決まっていない作品『The Tale』。先日、鑑賞することができました。よくあるパワハラ、セクハラ映画と思ったら、これが非常に深い作品でした。

『The Tale』あらすじ

ドキュメンタリー監督として成功しているジェニファー・フォックス。そんな彼女の元に、母から知らせが届く。それは、家から出土した幼少期のジェニファーの手紙に、大人によるセクハラの事実を匂わせることが書かれていたということだった。しかし、彼女にはそのような記憶はない。そこで、幼少期の関係者を訪ね歩くことにするが…

ドキュメンタリー作家が自分を撮る時

1987年のデビュー作『Beirut: The Last Home Movie』で注目され、それ以来30年間ドキュメンタリーを撮り続けてきたジェニファー・フォックス(『ナイトクローラー』のプロデューサーにも同名の人がいるが、彼女とは別人)が初めて挑む劇映画。本作は、ドキュメンタリー作家が劇映画としてパワハラ、セクハラを描いたことに大きな意味がある作品だ。ドキュメンタリーとは、主観的観点を、できるだけ客観的に描く側面がある。故にドキュメンタリーは虚構だと言われている。しかし、自分自身の、それこそトラウマにまつわる話をドキュメンタリーとして撮ったらどうなるのだろうか?ドキュメンタリーが持つ《真というベールに包まれた虚構》が《偽というベールに包まれた虚構》になってしまう。どんな人であれ、自分を語るときには嘘や誇張が混ざるものだから。それでは、ドキュメンタリーとしての強み、面白さが損なわれてしまう。ジェニファー・フォックスは、自分の身に降りかかった人生最大級であろうこのエピソードを、フィクションとして描く。《偽というベールに包まれた虚構》という要素を強烈に打ち出すこととして、《真というベールに包まれた虚構》が滲み出る。ドキュメンタリー映画ならではの面白さが滲み出る非常に面白い作品となった。《The Tale(=作り話)》というタイトルに負けない強烈さがある。似たような作品に、監督の戦争体験をアニメーションで描いた『戦場でワルツを』がある。しかしながら、今回実写で描いてみせたことで、ドキュメンタリー映画史上非常に重要な作品となった。

パワハラ、セクハラが如何にアイデンティティを形成するか

そして、本作はドキュメンタリー畑で30年キャリアを積んできた監督の作品だけに、普遍的で深い次元の話になっている。単純に、パワハラ、セクハラに対する復讐になっていないところが重要だ。本作、最大の見所は、パワハラ、セクハラの被害者の心理がどのように変化していくのかを緻密に捉えていく。徹底的に自問自答して、出てきたものを映画に収めようとしているのだ。何故、監督の記憶から、パワハラ、セクハラの記憶が欠落したのか?これは『サウルの息子』にも通じる話である。あまりに凄惨な体験をすると、人は心の奥底にその記憶を封じ込める。無意識の彼方に追いやり、鍵で封印してしまうのだ。しかし、無意識にあるトラウマは、突然意識層に飛び出すことがある。それがフラッシュバックで、監督は恋人と肉体関係を持つとき、愛はあるにも関わらず嫌悪感を抱くのだ。

また、思い出は綺麗なもの。人は、自分の過去を美化する傾向にある。自分の人生の中で大切なものが記憶に残り、悲しい体験であっても自分を大人っぽく記憶することでブラッシュアップすることで記憶に止めようとする。監督は、自分は大人っぽい幼少期だったと思っていた。しかし、取材をするうちに、当時の自分が如何に幼稚で無知な存在であったのかを思い知る。

このことから、監督は無意識のうちに、幼少期の自分を《大人っぽい存在》だと認知し、無理矢理加害者と同等の立場を作り上げ、「合意の元付き合った」という偽の記憶を自分自身に植え付けることで、凄惨な事実を消化していたことが分かる。ある種のストックホルム症候群を捉えた貴重な作品と言えよう。

最後に…

ここ1年、#MeToo運動が盛んになり、有名人のセクハラ、パワハラが次々と告発されるようになった。ハーヴェイ・ワインスタインやジョン・ラセターといった映画界の大御所が業界から追放された。また、ウディ・アレンは告発により新作が撮れなくなり、ジェームズ・ガンは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』の監督から降板した。確かに、被害者の抱える傷は深い。一昔前は、過去のトラウマは自分で消化しないといけなかった。自分が不幸でいる先に、加害者は有名となって金と名声を手にしているのを横目に、被害者はひっそりと生きるしかなかった。業界全体で隠してきた悪を正すために必要な運動ではある。しかし、ここ最近、SNSを中心にドンドン過激化し、まるで魔女狩りのように、人のキャリアを潰しにいっているような気がする。これでは、ただの消費でしかない。ある種の集団リンチ、殺人なのではと思う。だからこそ、今多くの人に本作を観てほしい。告発し、加害者の人生を終わらせるのが正しい行為なのか?本作は、被害者の心理を読み解くことにより、将来の被害者に対するサプリメントとなっている。非常に建築的だ。行き過ぎた社会の流れにブレーキをかける作品として、ブンブンは本作を応援したい。

確かに、暴力的なシーンは少なく、地味な作品。しかもテレビ映画なので日本公開は難しいと思うがこれは公開して欲しい。

…と思ったらスターチャンネルで放送決定!

Twitterのフォロワーさんから教えていただいたのだが、スターチャンネルで10月放送されるとのことです。邦題は『ジェニーの記憶』に決まり、下記の日程で放送されるので、興味ある方は是非!

・10/12(金)よる   8:45
・10/15(月)午後   2:15
・10/27(土)夕方   4:30

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