『ベイビーわるきゅーれ』日本にS・クレイグ・ザラーがいた件

ベイビーわるきゅーれ(2021)

監督:阪元裕吾
出演:髙石あかり、伊澤彩織、三元雅芸、秋谷百音、うえきやサトシ、春園幸宏、福島雪菜、本宮泰風、水石亜飛夢、辻凪子、飛永翼、大水洋介、仁科貴etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Twitterで密かに高評価の声が上がっている『ベイビーわるきゅーれ』。私の行きつけの「あつぎのえいがかんkiki」で上映されていたので、会社帰りに観て来ました。確かに面白い。

『ベイビーわるきゅーれ』あらすじ

社会不適合者な殺し屋の少女たちが、社会になじむため奮闘する姿を描いた異色青春映画。高校卒業を目前に控えた女子高生殺し屋2人組のちさととまひろ。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たちは、高校を卒業したらオモテの顔として社会人をしなければならない現実を前に、途方に暮れていた。2人は組織からルームシェアを命じられ、コミュ障のまひろは、バイトもそつなくこなすちさとに嫉妬し、2人の仲も徐々に険悪となっていった。殺し屋の仕事は相変わらず忙しく、ヤクザから恨みを買ったことから面倒なことに巻き込まれてしまい……。ちさと役を高石あかり、まひろ役を伊澤彩織がそれぞれ演じる。監督は「ファミリー☆ウォーズ」「ある用務員」の阪元裕吾。

映画.comより引用

日本にS・クレイグ・ザラーがいた件

仄暗い空間、バイトの面接に来た金髪の若者まひろ(伊澤彩織)は辿々しい口調で受け答えする。

「えっ本業ゲーマー?」

「うちの息子ゲームで稼ぐと言い始めてパソコン捨てちゃったよ。野原ひろしはこう言うだろう『夢は逃げない。逃げているのは自分』だってね。あんたもまともに働きなよ。」

カチンと来た、彼女は店長を射殺する。そして店を出ようとすると、刺客に囲まれている。『COWBOY BEBOP 天国の扉』の有名なコンビニアクションシーンの構図を引用しながら、実際に提示されるのは泥臭い肉弾戦だ。刺客に、手足掴まれた彼女は絶え間なくナイフを刺すことで切り抜ける。だが、次から次へと激しい攻撃が繰り出される。いよいよ窮地に立たされてかと思うと、相棒ちさと(髙石あかり)の銃弾で閉幕となる。

そして、おっさんが語る薄っぺらいギャグを押し並べて嘲笑う。

この時点で私はすっかり映画に惹き込まれた。思春期にありがちな未来がふわふわとしているが故に時間が無限に続くかに思えてダラダラとした日常に身を沈めているゆるさに唐突な暴力の緩急。ダラダラとした会話はタランティーノのようなタダの駄話と言うよりかは、S・クレイグ・ザラーのような重厚さがある。会話にまで緩急あるアクションを設けようとする意気込みに私の心はドギマギした。

そして、そのオープニングの勢いは留まることを知らない。社会人としての自立をするため、殺し屋をしながらも社会人として家事にバイトをする二人の女。怠け癖のある二人の溶けたような身体の動きが、ビンタをしたり、ソファから転げ落ちるときだけ鋭い動きに変わる。殺し屋の本能的暴力をチラつかせながら日常は進んでいくが、運命のようにヤクザの暴力が近づいていく。

今回、彼女達が対峙するファミリーヤクザが曲者だ。

夜な夜な団子を購入するヤクザ。店員がジョークを言うと、真顔でキレ始め、団子の串を耳に突き刺す。そして仲間が死んだと慌てる息子のチンピラに対して「食うか?」と血のついた団子を差し出す。この恐怖とギャグの境界線を重厚な面持ちで歩くこの親分がとてつもなく面白く、とてつもなく怖い。

彼は「パパ活は立派なしのぎだ。ヤクザも女性の働き方を考える時代だ。『オーシャンズ8』を観てないか?」と多様性を訴え、仕舞いには息子を連れてメイド喫茶に挑戦しようとするのだが、常時滑稽さと禍々しさが渦巻く。

ザ・ファブル』2部作が不得意としたギャグのコントロールを本作では完璧に演出している。その面白怖さは、かつて北野武が得意とした演出を彷彿とさせる。久しぶりに日本映画でその丁寧な間のギャグアクションを観たなと感じた。

確かに、本作は『ジョン・ウィック』ばりのスタイリッシュなアクションが注目されがちだが、台詞回しによるアクションも注目してほしい。時事ネタギャグのこれ以上にない使い方含め、本作は驚きに満ち溢れていた。

確かに今、映画館でオススメな映画であった。

P.S.長年の映画友達でありエキストラマニアの春園幸宏さんが血祭りにあげられる役で出演していたのですが、ダンディな優しさとスケベさの二面性を醸し出す雰囲気が面白かったです。今度会ったとき、お話でも伺おう。

※映画.comより画像引用