【ケリー・ライカート】『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』ワシらはデカいことしたいんじゃい

ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画(2013)
Night Moves

監督:ケリー・ライカート
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ダコタ・ファニング、ピーター・サースガード、アリア・ショウカットetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

渋谷イメージフォーラムでケリー・ライカート特集が大盛況で、彼女の新作『ファースト・カウ』も日本公開が決まった。2020年からコロナ禍にもかかわらず彼女の映画の魅力を発信し続けたGucchi’s Free School(グッチーズ・フリースクール)の尽力あっての快挙であり私も嬉しく思っています。さて、昨年の前半にケリー・ライカート祭をした際にジェシー・アイゼンバーグ主演の『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』を観たのですが、あまりの退屈さとジェシー・アイゼンバーグ特有の不穏さが引き出せていない印象を受け低評価をつけた。しかし、スペースでケリー・ライカート会を開くにあたって再観したら、これがとてつもなく面白かった。恐らく、昨年PC画面で観たことが関係しているのだろう、テレビの大画面で観たら、何が映っているのかがよく分かった。と同時に、本作こそ映画館で上映されるべき作品であると感じた。故に、当ブログで紹介しようと思う。

『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』あらすじ

過激な環境保護論者たちが企てたダム爆破計画の顛末を、「ソーシャル・ネットワーク」のジェシー・アイゼンバーグ、「アイ・アム・サム」のダコタ・ファニング、「17歳の肖像」のピーター・サースガードら豪華実力派キャスト共演で描いたサスペンスドラマ。アメリカ、オレゴン州。過激なエコ思想を持つ青年ジョシュは、アフガン帰りの元軍人ハーモンや裕福な少女ディーナと共謀し、水力発電ダムの爆破を企んでいた。作戦は順調に進み成功するかに見えたが、トラブルが起こったことで完璧だったはずの計画がほころびはじめる。監督・脚本は、「ウェンディ&ルーシー」の女性監督ケリー・ライヒャルト。

映画.comより引用

ワシらはデカいことしたいんじゃい

ケリー・ライカートは一貫して、「どこへでも行けそうでどこにも行けないアメリカ像」を捉えてきた。本作は、フィルム・ノワールのじっとりとした質感で、行き場のない若者を捉えている。

環境活動家の集会に行けども「大きなことをするよりも小さなことの積み重ねが重要だ」と言われムッとした環境テロリストは3人という少人数でダム爆破を企てる。アフガン帰りの元軍人ハーモン(ピーター・サースガード)は女性(ダコタ・ファニング)がこの計画に携わることに懸念を感じるが、ジョシュはなんとか説得して3人がかりでダム爆破を企てる。そしてダム爆破をなんとか成功させるのだが、そこまで大きなニュースにならず、罪意識が彼らの中で芽生え始める。

本作最大の特徴は、大袈裟な邦題に反してダム爆破シーンはフレームに映し出されないということです。もちろん予算の関係もあるでしょう。しかし、重要なのはダム爆破を通じた心理の変化である。『鵞鳥湖の夜』に通じる、溝口健二『山椒大夫』テイストの不思議な舟と水が織りなす陰影の中に登場人物を押し込め、爆破は逃げる彼らのバックで音だけが木霊する。これにより、3人は確かな手応えを感じる様子を捉えている。次の場面では、ニュースで事件の様子が語られる。それにより、想定と結果の突合が行われ、その差によって苦しめられるギミックとなっているのだ。この演出は現実に即したものとなっており、現実におけるテロも意外と地味なものである。準備段階、ダコタ・ファニング演じるディーナが化学物質を購入しようと交渉する際の地味ながらも手汗握る攻防が繰り広げられる。実行よりも、爆薬を作るシーンを強調して描く。それにより、彼らの努力が思いの外実らなかった現実が重く彼らにのしかかるのです。

そして、環境活動家の集会では「見る」立場だった彼らが、罪意識により「見られる」ことを認知し、それが精神を蝕んでいく様子をケリー・ライカートはじっくりと熟成させながら画に投影させていく。彼らは移動する。だが、どこまで移動しても抑圧が追いかけていく。

大きなことをしたいという欲望は、外へ出たい欲望でもある。しかし大きなことをしても外へ出られない。その絶望の淵を経てのラストシーン。ジェシー・アイゼンバーグが静かにあのアクションを引き起こす。それは説得力のあるものでした。

ケリー・ライカート中級者が増えて来たので、もうそろそろ本作も注目されて欲しいなと思う。

※amazonより画像引用

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