水を抱く女(2020)
Undine
監督:クリスティアン・ペッツォルト
出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ、Anne Ratte-Polle etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ジワジワと日本でも人気を集めている監督クリスティアン・ペッツォルト。第70回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(パウラ・ベーア)を受賞した『水を抱く女』があつぎのえいがかんkikiに来たので観ました。水の精霊ウンディーヌが人間ハンスと代償つきの恋に落ちるという物語を現代ドイツに置き換えた意欲作。いろんな人の感想を読むと、小難しいアート映画の印象を受けたが、これが爆笑ラブコメでありました。
『水を抱く女』あらすじ
「東ベルリンから来た女」のクリスティアン・ペッツォルトが監督・脚本を手がけ、“水の精・ウンディーネ”の神話をモチーフに描いた恋愛ドラマ。ベルリンの都市開発を研究する歴史家ウンディーネは、アレクサンダー広場に隣接するアパートで暮らしながら博物館でガイドとして働いている。恋人ヨハネスが別の女性に心変わりし悲嘆に暮れる彼女の前に、愛情深い潜水作業員クリストフが現れる。2人は強く惹かれ合い、新たな愛を大切に育んでいく。やがて、ウンディーネが何かから必死に逃げようとしているような違和感をクリストフが感じ取ったことをきっかけに、彼女は自分の宿命に直面することになる。「婚約者の友人」のパウラ・ベーアが神秘的なウンディーネを妖艶に演じ、2020年・第70回ベルリン国際映画祭で女優賞を受賞。クリストフ役に「希望の灯り」のフランツ・ロゴフスキ。
初めて見たよそんな心臓マッサージする人を
博物館でベルリンの都市計画について解説する女性ウンディーネ(パウラ・ベーア)はヨハネス(ヤコブ・マッチェンツ)から別れ話を振られて悲しみに暮れていた。そんな彼女は、カフェでクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)と出会い恋に落ちるというシンプルな話ながらも独特な演出が唯一無二の物語を紡いでいく。
例えば、ベルリンの模型が映し出される。カメラは建物にズームしていく。すると、ヨハネスが見えてくる。お客さんから声がかかると、カメラは引いていき模型に戻る。失恋に明け暮れた女性の心の浮遊をユニークなカメラワークで捉えている。また、本作において電車の反復を使った恋愛表現が魅力的である。ウンディーネとクリストフの恋を、走りゆく電車を彼女/彼が追っていく描写を繰り返す事で表現し、終盤トボトボと走りゆく電車の横を歩いていくウンディーネのカットを置くことで彼女の喪失感が強調させている。さらには、フラグの張り方が丁寧である。冒頭、ヨハネスにウンディーネが「貴方を殺すことになるかもしれない」と語る描写は実行されるのを筆頭に、潜水服を着た像の足が破壊される様子が後のクリストフを象徴させていたり、丁寧にフラグを立てている。
このように映画理論を緻密に積み上げていく作品ではあるが、時折異様なシーンが挿入されることで爆笑のシーンが誕生していく。何と言っても、心臓マッサージのシーンは感動すら覚えます。溺れているウンディーネを助けたクリストフが何故かビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」に合わせて心臓マッサージをし始めるのです。クリスティアン・ペッツォルト監督は毎回音楽の使い方が面白いという噂を聞いていたが、まさか「Stayin’ Alive, Stayin’ Alive…」と言いながら心臓マッサージするとは思いませんでした。
ただ、本作は丁寧過ぎて物足りなさを感じた映画でもある。謎めいた雰囲気をもっているのに、水に帰ったウンディーネの正体をクリストフが解き明かそうとする後半20分は蛇足だと思った。ウンディーネが水に帰ったところで映画が終わってもバチ当たらないのではと感じた。また、ベルリンという土地と映画の関連性が見えてこないのも玉に瑕でした。土地に囚われた水の精ウンディーネというテーマなんだろうけれども、ベルリンを強調している割にはベルリンの象徴にウンディーネが見えなかったのは残念だった。
※映画.comより画像引用
第70回ベルリン国際映画祭コンペティション映画関連記事
・【ネタバレ考察】『DAU. ナターシャ』現実世界に爆誕した《脳内ソヴィエト連邦》
・【東京フィルメックス】『逃げた女』ホン・サンスの呼吸 壱ノ型 急接近
・【東京国際映画祭】『デリート・ヒストリー』情弱がいっぱい、不快もいっぱい
・『FIRST COW』A24×ケリー・ライヒャルト ドーナツで人生を変えろ系西部劇
・【東京フィルメックス】『照射されたものたち』3画面に刻む記憶
・『17歳の瞳に映る世界』生も死も最後に選ぶのは自分
・【東京フィルメックス】『日子』おっさんずラブbyリー・カンション
・【超長尺映画】『ベルリン・アレクサンダープラッツ』シン・ベルリン・アレクサンダー広場