ハネムード (2020)
Honeymood
監督:タリア・ラヴィ
出演:ラン・ダンカー、アヴィゲイル・ハラリetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第16回大阪アジアン映画祭で評判が高いイスラエルのコメディ映画『ハネムード』を観ました。東京国際映画祭のプログラマー矢田部吉彦が数年前に、イスラエル映画が熱いみたいなことを仰っておりましたが、私もいよいよ確信に変わりました。
近年、アルゼンチン映画『ライオンハート』がフランスで『おとなの恋の測り方』としてリメイクされたり、『サニー 永遠の仲間たち』や『おとなの事情』がアジア圏でリメイクされたりと、グローカルリメイクが流行っている。『ハネムード』はグローカルリメイクにぴったりな毒とユーモアと大衆性を併せ持った傑作でありました。
『ハネムード』あらすじ
やる気のない徴兵女性兵士を描いたコメディ“Zero Motivation”(2014)が世界中の映画祭で話題になったイスラエルの才媛監督タリア・ラヴィ(1978~)の長編第2作。豪華ホテルで挙式を上げたエリノア(アヴィゲイル・ハラリ)は、階上のスイートルームで新郎のノアム(ラン・ダンカー)と晴れて二人きりになるが、ノアムが元カノから指輪をプレゼントされていたのを知り、嫉妬する。怒ったエリノアはウェディングドレスのまま夫を伴い、元カノに指輪を突き返すため深夜エルサレムの街に飛び出すが──。
恋愛コメディの中でも、自由奔放なヒロインが常識ではあり得ないシチュエーションを呼び覚まし、抱腹絶倒のドタバタのうちに感動のハッピーエンドに至る作品群を、映画史は「スクリューボール・コメディ」と呼んで特化している。これは古き良きハリウッドに黄金期をもたらしたこのジャンルを、現代イスラエルを舞台に復活させた一作。
真夜中から明け方までに二人が出会う人物たちのユニークさ。脱線を重ねながらも超絶技巧的に着地する脚本の見事さ。馬鹿馬鹿しくも惚れ惚れするミュージカル・シーンと、映画を観る歓びに震える傑作!
※第16回大阪アジアン映画祭より引用
ルンバを抱えた花嫁によるスクリューボールコメディ
『赤ちゃん教育』をはじめとしたスクリューボールコメディは、女性=ドジっ子という方程式のもと描かれることが多い。フィルム・ノワールにおけるファム・ファタールにドジっ子属性をつけた感じだ。現代においてスクリューボールコメディをやる際に、その方程式に当てはめることは若干古臭さを与える。本作の場合、花嫁の行動に理由を明確に与えることで説得力のあるドタバタが紡がれている。
新婚カップル、エリノア(アヴィゲイル・ハラリ)とノアム(ラン・ダンカー)が浮かれてスウィートルームで暴れていたら、ルームキーを部屋に忘れて締め出されてしまう。それが運の尽きだった。ノアムのポケットからポロっと落ちた、元カノからの祝儀。そこに指輪が入っていたことに激昂したエリノアは夜な夜な元カノに会いに行こうとする。何故、彼女が指輪を返すごときで躍起になっているのか?それは彼女はかつて女優になりたかったのだが、周囲の人の言葉の呪いによって女優の道を断念し後悔していることにある。自分が「やりたい」と思ったことを「やらない」ことに強い抵抗を感じているのだ。そして夢から外れた人生の退屈さから抜け出すように冒険を求めている。それが彼女の行動に繋がっている。イスラエル社会にある言葉の呪い問題は普遍的なものがあり、それだけに日本人が観ても彼女の奇行に段々同情の心が芽生えてくるのです。
さて、この物語で斬新なのは指輪の使い方にある。二人をひっちゃかめっちゃか掻き乱す装置として指輪が使われるのだが、ルンバを使って、指輪を吸わせることで姿大きさを変えることに成功している。指輪一つで荒唐無稽巨大な騒動に発展していくのを象徴するように、指輪を吸ったルンバをカップルが抱えて夜道を彷徨う姿は爆笑である。そのルンバを、街の清掃車がまた吸ったりして、ドンドン事態が悪化していく。そして指輪をなんとか救出すれば、今度は映画学校で紛失する。指輪が右往左往する中で、二人が引き裂かれていく。この登場人物を制御する指輪の使い方に魅力を感じずにはいられません。
一晩の物語とは思えぬ程、ホテル、元カノの家、映画学校、ノアムの実家と舞台が疾風怒濤の如く移り変わり、次から次へと個性的な人たちが現れ、現実ではありえない形のハッピーエンドを迎えるのだが、演出技法の巧みさと現代にアップデートされたスクリューボールコメディの形に感銘を受けました。
これはフランス、南米あたりでリメイクされるんじゃなかろうか?
※第16回大阪アジアン映画祭より画像引用