【ネタバレ考察】『無頼』井筒和幸のジャパニーズマン

無頼(2020)
BURAI

監督:井筒和幸
出演:松本利夫、柳ゆり菜、中村達也、清水伸、松角洋平etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年末に井筒和幸監督8年ぶりの新作『無頼』が公開された。井筒監督といえば『ガキ帝国』、『パッチギ!』、『ヒーローショー』と荒々しい作品を作り続ける巨匠だ。しかし、2012年の『黄金を抱いて翔べ』以降沈黙していた。ようやく現れた新作は池袋シネマロサを始め小さな映画館でひっそりと公開され、映画ファンの間でも中々話題に上らなかった。そんな『無頼』があつぎのえいがかんkikiに来たので観てみました。井筒映画と相性悪い私ですが、この集大成は面白かったです。というわけでネタバレありで書いていきます。

『無頼』あらすじ

「パッチギ!」「ガキ帝国」の井筒和幸監督がやくざ者たちの視点から激動の昭和史を描いた群像劇。敗戦後、貧困と無秩序の中から立ち上がった日本人は高度経済成長を経て、バブル崩壊まで欲望のままに生き抜いてきた。昭和という時代とともに、40年以上続いたその勢いは終わりを告げた。そんな時代の片隅で、何者にも頼らず、飢えや汚辱と格闘し、世間に刃向かい続けて生きてきた男がいた。やがて一家を構えた「無頼の徒」は、社会からはじき出された者たちを束ねて、命懸けで裏社会を生き抜いていく。「EXILE」の松本利夫が主人公を、妻役を「純平、考え直せ」「東京アディオス」の柳ゆり菜が演じるほか、木下ほうか、ラサール石井、升毅、小木茂光、隆大介、外波山文明、三上寛、中村達也らが脇を固める。

※映画.comより引用

井筒和幸のジャパニーズマン

マーティン・スコセッシがギャングのクロニクルを『アイリッシュマン』でスタイリッシュに描いていた。日本では今『ヤクザと家族』、『すばらしき世界』、『孤狼の血 LEVEL2』と空前のヤクザ映画ブームとなっているが、そこに井筒監督は重厚なクロニクルとして『無頼』を置いた。アイリッシュマンに対して、これがジャパニーズマンであると言いたげに。

本作は戦後、鉄くずや雑用バイトをして日銭を稼いできた無頼漢・井藤(松本利夫)が何度もブタ箱にぶち込まれながらもファミリーの結束を強め、巨大な組織になっていく様子を荒々しく描いている。予算の関係か、あるいは2時間半の時間に収まらないのか駆け足、乱雑に時代を駆け抜ける部分に製作の苦労が表れている。特に終盤、結局必要な場にいることで組織をまとめていたに過ぎず、自分の無頼漢でありつつも組織に依存していた井藤が、黄昏にカンボジアで貧しくも逞しく生きる少年たちを救いたいと人生に新たな目標を見出す場面で、急にダイジェスト映像が雑に挿入される部分は厳しいものがあった。あと1時間かけて、フラフラと修羅場を切り抜けながら生きてきた男が腰を据えて人生に打ち込むきっかけを描く必要があったと思うのだが、製作時の問題が脳裏をチラつき切なくなる。

ただ、そういった問題はあれどもパワフルな本格ヤクザ映画に魂が揺さぶられた。アクションシーンに一切の妥協がなく、警察が警備をするヤクザ事務所に、拳銃とダイナマイトを持ってカチコミに行く場面や会食中に唐突に襲撃されて鮮血の晩餐会と豹変するところのカット割り、爆発、銃声、火花の切れ味はかつて日本にもあった強烈なスプラッター描写を彷彿とさせハラハラドキドキとさせられる。

さらにエンドロールでは「動物に危害を与えていません」とお馴染みのテロップが表示されるが、劇中そのテロップの限界に挑戦しているところもスリリングだ。草原で繰り広げられるサーカスのようなイベント会場で、ヘビと小動物を戦わせたり、休憩中のライオンとトラを棒で刺激してバトルを引き起こさせようとしたりする場面は、今の映画では中々観ることのできない緊迫感があります。

そんな緊迫感と組織内の安らぎをエッジの利いた緩急を用いて描くことで、ヤクザ世界の「居場所」という存在に説得力が帯びてくる。決して褒められた活動をしているわけではないが、社会からあぶれた者同士が荒々しくぶつかり合いながらも共助しあう。本質は居場所作りなので、薬物に溺れている人がいれば叱咤し更生させていくのだ。暴走族の生き様を描いたドキュメンタリー『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』でも描かれていたことだが、どんな組織であれ本質はルールと秩序をもって自分たちの居場所を作ることが活動の原動力になっている。

だから、世間の目がヤクザに厳しくなって金を借りることができなくなってきても、無闇な殺人や脅迫はしない。バキュームカーで汚物を銀行にぶちまける嫌がらせに留めていたり、警察官に怪我させることは回避していたりするのは、自分たちの居場所を守る為にあるのだ。

だからこそヤクザとは無縁な私でも興奮する。自分たちの組織を大きくする。生きづらい閉塞感ある世界でも、仲間同士力を合わせて最強の世界を作っていくところは普遍なのです。そして、潔く潮時を感じたら後継者に椅子を譲りわたす井藤の姿にノックアウトされました。

※映画.comより画像引用