【MyFFF】『幕あい』ワイスピ観にいくはずが『自転車泥棒』に魅せられた男

幕あい(2019)
Entracte

監督:Anthony Lemaitre
出演:Ahmed Abdel,LaouiMariama,GueyeIlies Kadri,Titouan Labbé etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルで好評な短編映画がある『幕あい』だ。『ワイルド・スピードICE BREAK』を観にきた若者が、タダ見できず『自転車泥棒』を観る羽目になる話らしい。粗筋だけで映画ファン大歓喜である。『クエシパン』、『バーニング・ゴースト』、『ジュゼップ』とハズレを連続して引き当てて、今年も潮時かなと思っていたのですが早速観ました。尚、短編故、結末まで触れているネタバレ記事です。

『幕あい』あらすじ


映画の幕あいに不意に訪れる、映画好き同志の幸せな出会いを、アンソニー・ルメートル監督がユーモアたっぷりに描く。
※MyFFFサイトより引用

ワイスピ観にいくはずが『自転車泥棒』に魅せられた男

本作について語る前に、フランスの映画館事情について語っておこう。フランスのシネコンは日本と違って、入口と出口が違うことが多い。入口でチケットをもぎられスクリーンに入る。映画が終わると、別の扉が開き、外階段から劇場を後にする。映画のタダ見防止作らしく、大きなシネコン程この方法が採用されています。パリにあるMK2 Bibliothèqueでは、エスカレーターが2F行き、地下1F行き一本ずつしか通っておらず、うっかりスクリーンを間違えると脱出不可能になります。昔、脱出できなくて困った時がありました。

閑話休題、この映画は父親に「高校卒業したら働け」と言われ不貞腐れている若者が主役である。映画の待ち合わせをしたのに、遅れてくる悪友。彼らと共に、映画館の裏口にスタンバイし、客が撤収するタイミングで忍び込もうとする。しかし、警備員に見つかってしまう。『ワイルド・スピード ICE BREAK』を観る金がない彼らは(フランスのシネコンは作品によって料金が違います)、なけなしの金で観られる作品を聞き、『自転車泥棒』のチケットを購入する。映画の途中で、ワイスピのスクリーンに潜り込もうという算段だ。悪友は、白黒映画、早い字幕にブーブー文句を言ったり、スマホをいじったりし、5分後に退出してしまう。しかし、主人公は『自転車泥棒』に惹かれて最後まで観賞するのだ。

映画が終わる。寂れたスクリーンで暇つぶしに来ていた人が去っていく。残されたのは余韻に浸る彼のみ。そんな彼の前に店員が現れる。彼女は半年前から映画について語り合うシネクラブを企画しており、この『自転車泥棒』は第一回上映作品だ。だが客は一人しかいない。警戒する主人公。しかし、映画の感想を訊かれたことで、心の奥にある感情がドバッと溢れ出す。考えてみれば不自然なシーンだ。シネクラブは大抵客がいるもんだ。フランスの観客が映画好きで、ベルトラン・ブリエの特集上映に沢山若者が集まっていたりするのを知っているし、議論好きなフランスの映画ファンがシネクラブをスルーして帰るなんて、しかもUGCがやらかすなんて通常はありえないだろう。この映画における最大のフィクションはこのシネクラブシーンにある。友人も軽いつながりでしかなく、家にも居場所がない。『大人は判ってくれない』のアントワーヌ・ドワネルみたいな人が、映画館に居場所を見つけるファンタジーが最大の見所なのだ。この場面での会話が粋だ?

「『自転車泥棒』に続編はないの?『バイク泥棒』、『自転車泥棒:リターンズ』みたいにさ」

次は何をやるの?『12人の怒れる男』?12人ってアベンジャーズより多いじゃん!

映画ファンが最初は、そういったツッコミを通じた好奇心から映画を観る始まりの道を会話で魅せてくれる心地よさがあるのです。

ただ、この映画は非常に危険な映画である。誰しもが通る道であろう、ハリウッドブロックバスター映画や通俗な映画に対して蔑視する瞬間が最後に描かれるのだが、これは映画ファンに断絶を呼びようだ。映画の魅力に目覚める話であり、映画の門を開く話にも関わらず、結構上から目線な映画にも見える。映画ファンとしては嬉しい描写しかないのだが、映画ファンの狭間を意識した時に、『ワイルド・スピードICE BREAK』のような映画を軽視する様子は良くないと思う。勿論、序盤で前作『ワイルド・スピード SKY MISSION』のラストについて熱く語る場面は多いけれども、悪い意味で『フェイドTOブラック』、根暗で閉鎖的な映画オタクのキツさが見えました。

この映画を自戒を込めて心に刻んでおこう。

おまけ:MyFFF記事対象外作品短評

1.バーニング・ゴースト(Vif-argent)
フランスのジャン・ヴィゴ賞を受賞作はクセが強すぎる作品が多い。ヤン・ゴンザレス『ナイフ・プラス・ハート』、アルベール・セラ『ルイ14世の死』、アラン・ギロディ『Ce vieux rêve qui bouge』、ブリュノ・デュモン『ジーザスの日々』などが過去に受賞していることからも明らかだ。故に毎回観る人を選ぶ。

『バーニング・ゴースト』は現世と黄泉の橋渡し的存在となった彷徨う男と彼が見える女のファンタジーである。陳腐な話ながらも、曖昧な死を表現する透明な人演出は面白い。虚無な人にひとつまみの役割が与えられ生を感じる物語、刺さる人には刺さるでしょう。私?あまり刺さりませんでしたが…余談だが、フランスでは『X-MEN』に出てくるクイック・シルバーのことをVif-argentと言います。

2.クエシパン ~ 私たちの時代(Kuessipan)
ケベック先住民インヌ族の区域に住む2人の少女の友情を描く。作家として上京したい子と高校を中退し子育てをすることになった子を通じて閉塞感を描くが、日本の真面目だけが取り柄な閉塞感ものに近い感じがした。

カメラを遠ざけていき心理的距離を示す描写は良いけど

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※unifranceより画像引用

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