【Netflix】『シカゴ7裁判』脚本が笑うアーロン・ソーキン

シカゴ7裁判(2020)
The Trial of the Chicago 7

監督:アーロン・ソーキン
出演:サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マイケル・キートン、マーク・ライランスetc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

劇場で限定公開され高評価の口コミが相次ぐ『シカゴ7裁判』。テーマ的にアカデミー賞最有力なのではと名高いこの法廷劇、Netflix配信始まりましたので観賞しました。監督のアーロン・ソーキンといえば『ソーシャル・ネットワーク』の畳み掛ける会話劇、『スティーブ・ジョブズ』における名シーンの裏側からスティーブ・ジョブズの性格を肉付けするトリッキーな演出を盛り上げる名脚本家だ。

その超絶技巧の脚本から『モリーズ・ゲーム』ではようやく監督デビューしたのだが、演出はさほど上手くなく、自らの脚本を使いこなせない劣化版スコセッシ映画のような佇まいであった。それだけに『シカゴ7裁判』は不安であった。サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、マイケル・キートン、マーク・ライランスと名優を揃えているからだ。名優を揃えた演技合戦映画は、名優の演技で誤魔化されている場合が多く、『8月の家族たち』のように映画として観た時につまらないケースがある。ましてや脚本のアーロン・ソーキン故、世間の評価は彼の圧倒的セリフ量に飲まれているのではという猜疑心を抱く。で実際に観たわけだ。アーロン・ソーキンの演出はレベルアップしている。しかし、案の定であった。

『シカゴ7裁判』あらすじ


平和的に行われるはずの抗議デモが、警察との激しい衝突に発展。その責任を問われ逮捕・起訴された7人は、米国史上最も理不尽な裁判に立たされる。
Netflixより引用

脚本が笑うアーロン・ソーキン

アーロン・ソーキンの脚本は常に笑っている。膨大な情報を畳み掛け、右から左から無数の登場人物が出ては消えを繰り返したり、言葉のグルーヴが織りなす高揚感にアーロン・ソーキンがニヤついているのが目に見える。だが、そんな鼻につく脚本をデヴィッド・フィンチャーやダニー・ボイルはスタイリッシュな演出で彩るので、その臭みはだいぶ中和されていた。『モリーズ・ゲーム』の場合、映画的画面作りに弱くノリと勢いのパワー不足により説明ゼリフのつるべ打ちが露骨に見えてしまった。その点、今回の場合一体感のないシカゴ裁判の7人(一部8人になる)の掛け合いは映画的に映る部分もあった。裁判長が言いそうな言葉を先回りして被告が言い放つ場面や、隊列を組んで、騒乱が画面の端にチラつく描写を魅せてから警察が広場を取り囲む場面を捉える演出など映画的表現が沢山あった。序盤、己の正義を揺さぶられながら、「法律は《どう使うか》が重要だ。君は最初の判例を作るのが仕事だ。」という銃を突きつけられる場面なんかは、アーロン・ソーキンの脚本が冴え渡っているのはもちろん、画面から漂う緊迫感が重なり極めてドラマティックであった。

ただ、それでもやっぱりイマイチに感じてしまうのが、裁判が脚本家の手によって操られている印象を強く受けたからだ。パズルのように登場人物を動かし、アダム・マッケイ映画のような小ボケを入れつつセリフ量で興奮の大津波を引き起こす様が「あざとい!」と感じてしまった。舞台は裁判故、もう少し真面目にやってほしい。茶番にしか見えない裁判描写にドンドン気持ちが遠ざかっていく思いでした。

恐らく次のアカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞にノミネートされるだろう。高評価な理由もなんとなく分かるが、Not for meな作品であった。

※IMDbより画像引用

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