『ブレスレス/Dogs Don’t Wear Pants』肉体と精神を繫ぎ止める痛みの存在

ブレスレス(2019)
原題:Koirat eivät käytä housuja
英題:Dogs Don’t Wear Pants

監督:ユッカペッカ・ヴァルケアパー
出演:ペッカ・ストラング、クリスタ・コソネン、Ilona Huhta、ヤニ・ヴォラネンetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第72回カンヌ国際映画祭監督週間で話題になったフィンランドの変態映画『Dogs Don’t Wear Pants』を観ました。日本ではトーキョーノーザンライツフェスティバル2017で上映された『2人だけの世界』のユッカペッカ・ヴァルケアパー監督がメガホンをとっています。

※2020/12/11(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて公開決定!

『Dogs Don’t Wear Pants』あらすじ


Juha has lost his wife in a drowning accident. Years after he still feels numb and unable to connect with people. Meeting Mona, a dominatrix, changes everything.
訳:溺死事故で妻を亡くしたユハ。あれから何年も経っても、彼は人とのつながりを持てず、無感覚なままだった。SM嬢のモナとの出会いがすべてを変えてしまう。
IMDbより引用

肉体と精神を繫ぎ止める痛みの存在

Juhaは妻が溺死していこう生きた心地がしなかった。普段は外科医として手術に励み、一方で娘のElliの面倒をみる生活をしているのだが、心に何かが抜けてしまっており、娘はビーガンにもかかわらず目玉焼きを出してしまったり、娘からの頼みごとをすっぽかしてしあったりする。彼は、水中の深淵で藻に覆われながら誰かが救いの手を差し伸べてくれることを待っているようだ。ある日、ヤスリで指を擦ってしまい血が滲む。同僚にみられないようスッと隠すが、どこかその痛みに癒しがあった。そうこうしているうちにSM嬢のMonaと出会う。

彼女は、Juhaを拘束し、鞭を打つ。

「坊や、靴をお舐め。お前は私の犬なのよ。」

と誘惑する。彼に激痛が走るが、その痛みに生を感じ、彼は分離してしまった肉体と精神がくっつき悦楽の渦へ溺れていくのだった。

本作は『フィギュアなあなた』、『甘い鞭』の石井隆映画のようにサイケデリックなネオンの中、肉体と精神の哲学を焼き付ける秀作である。痛みは克己できない苦痛を和らげる働きがある。誰かに見られるのかもしれないという背徳感をスパイスにして、乗り越えることのできない妻の死をインモラルに癒していく様子を詩的に描いている。水中の深淵に沈められたような気持ちに押しつぶされそうな男がSM嬢の手を借りて復活を遂げる。しかし、今度は悦楽の渦に溺れていき、手術中にもネオンが眼前にチラつく負のスパイラルは、大人の寓話でありながら極めてリアルな世界を描き出している。

単にフィンランドのSM映画というイロモノに留まらない面白さが詰まった作品でした。

※IMDbより画像引用

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