【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『メメント』逆行する時間、直進する時間※ネタバレ

メメント(2000)
Memento

監督:クリストファー・ノーラン
出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、ジョー・パントリアーノ、マーク・ブーン・ジュニアetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

遂にクリストファー・ノーラン集大成『TENET』が公開されます。本作は彼の原点回帰であること間違いなし。何故ならば『メメント』でも物語の軸となっていたのが《時間逆行》なのだから。さて、せっかくなので前夜祭として『メメント』を観ることにした。本作は2009年8月16日。中学3年生の頃に観賞しており、ブログで「犯人が最初で分かってしまうのだが、数々の斬新な映像に引き込まれていった。」と書いている。10年ぶりに観賞し、インスピレーション掻き立てられたのでネタバレありで感想/考察を書いていきます。

『メメント』あらすじ

強盗犯に襲われて妻を失い、頭部を損傷し、約10分間しか記憶を保てない前向性健忘という記憶障害になったレナード。彼は、ポラロイド写真にメモを書き、体中にタトゥーを彫って記憶を繋ぎ止めながら、犯人を追う。実在するこの障害を持つ男を主人公に、時間を遡りながら出来事を描くという大胆な構成が話題を呼び、全米でインディペンデントでは異例のヒットを記録。監督は本作が第2作の新鋭、クリストファー・ノーラン。
映画.comより引用

逆行する時間、直進する時間

クリストファー・ノーランの映画は難解と言われているが、比較的序盤で世界観の設定がなされている。『インセプション』では懇切丁寧に、他者の記憶に入り込む際の副作用について語られている。『メメント』の場合、オープニングから説明は始まっている。殺人現場が捉えられたポラロイド写真。通常、写真を振ると画が鮮明に浮かび上がるのだが、何故かドンドン見えなくなっていく。そして逆再生でポラロイドカメラに写真が戻っていく。ここで、本作は時間逆行の物語だとわかる。そして、妻殺しの犯人ジョン・Gの正体を突き止め、銃で殺害する。次の場面では、そのシーンの少し前から始まり、モーテルのフロントでのやりとりが繰り広げられ、シーンが繋がることで、さらに前のシーンへ遷移していく。丁度ゲームのローディング画面のように、その転調の合間には白黒で、レナードが狼狽する様子を記憶をたどるようにして挿入されていく。

本作は単に、時間を逆再生させている映画ではない。逆再生の中で生まれる表現技法の手数が多いのだ。まず、本作にしか出せない魅力は、A→B、B→Cの行間を埋める面白さだ。結末から始まる映画は数多くあるが、それをこの映画では無数に展開する。観客は、レナードに待ち受けるその後の展開を知っている。例えば、後にモーテルにたどり着くのだが、どのような経路でモーテルにたどり着くのかというワクワク感がある。特に強烈な展開があった場合、そこに至る経緯がブラックボックスになっているため、そこへの好奇心、犯人は分かれども何故犯人なのかというプロセスが欠如していることによる好奇心が刺激されるのだ。

そして、主人公が短時間記憶ができないことを知っている人物による戦略を垣間見ることができる。例えば、レナードの相方として度々登場するテディ。観客は冒頭でテディ=ジョン・G=犯人という方程式を知っているので、彼が飄々とレナードを撹乱するよう誘導している風に見える。また、ナタリーは彼が記憶喪失になるのを利用して、口論の後、車に戻りしばらく経ってから再びレナードに会うという奇妙な行動に出る。よくよく考えたら、そうそううまくは行かないのだが、ヒッチコック映画のように、登場人物の行動原理に疑問を思う隙間がないほどに次から次へと新しい展開を挿入していくことで、映画的嘘を容認するよう促す。ノーランお得意の論理的にみせたハッタリである。

さらに、中盤ではレナードが走っているのだが、彼が敵を追い詰めていると思いきや、敵に追われていることがわかる。時間逆行アクションの醍醐味は、時間は逆行しているのに、映画の中の時間は進行している。その矛盾がいい意味で混乱を呼ぶギミックが施されているのだ。

こうして観客は結論、全てを知ったような気持ちでレナードを追っているのだが、段々とレナードは信用できない語り手なのではないかという疑惑が湧いていく。通常、記憶より記録は信頼できる。記憶は曖昧だから。しかし、記録はある人の真実に過ぎない。その記録が意図的に歪められている場合もある。映画では、序盤で記憶<記録という位置関係を定義しているのだが、それがレナードの策略だったことが分かるのだ。冒頭で登場する廃屋で、レナードは人を殺している。自分の殺人を隠蔽するように記憶と記録を歪め、テディだけでなく観客もろとも弄んでいたことが明らかになる。

本作が画期的だったのは単に時間逆行の物語という斬新さだけではない。それだけなら、『パルプ・フィクション』が既にやっているからだ。クリストファー・ノーランが素晴らしかったのは、「信頼できない語り手」の話法に、時間逆行を持ち込んだ新奇性だろう。観客という神の視点を時間逆行で強調し、レナードの周りで蠢く人物は彼を利用しているように見えるが、黒幕はレナード自身だった。これを公開当時観た人は衝撃的だっただろう。

そんな訳で、今日は午後休取って『TENET』観てきます。

 

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