『マルモイ ことばあつめ』『タクシー運転手』脚本家が描くハードコア版『舟を編む』

マルモイ ことばあつめ(2018)
原題:말모이
英題:MAL-MO-E:The Secret Mission

監督:オム・ユナ
出演:ユン・ゲサン、ユ・ヘジン、キム・ホンパ、ウヒョン、キム・テフンetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年からオーストラリアの映画仲間に「『マルモイ』はゼッテー観てくれよな!」と釘を刺されていました。本作は、日本がかつて韓国を植民地にしていた際に行なっていた同化政策や皇民化国語教育描いており、日本の黒歴史に向き合っている為、公開できないだろうと思っていた。実際に、韓国映画配給に定評あるツインさんは配給せず、インターフィルムさんが掬い上げた。これには感謝しかない。なかなかテレビでは宣伝しづらい題材なのだが、シネマート新宿では意外とお客さんが入っており個人的に嬉しい状況での観賞となりました。そして、本作は『タクシー運転手 約束は海を越えて』の脚本家オム・ユナ初監督作でありながら、前作に負けないぐらい力強い傑作となっていました。

『マルモイ ことばあつめ』あらすじ


1940年代の日本統治下の朝鮮半島で言語が朝鮮語から日本語に変わり、名前も日本式となっていく中、母国語を遺したい思いで全国の言葉・方言を集めた「マルモイ(ことばあつめ)作戦」の史実をベースに描いたドラマ。親日派の父親を持つ裕福な家で育ったジョンファンは、失われていく朝鮮語を守るために朝鮮語の辞書を作ろうと各地の方言などあらゆる言葉を集めていた。盗みなどで生計をたてていたパンスは、ジョンファンのバッグを盗んだことをきっかけに、ジョンファンとかかわるようになる。学校に通ったことがなく、朝鮮語の読み書きすら知らなかったバンスはジョンファンの辞書作りを通して、自分の話す母国の言葉の大切さに気づいていく。「タクシー運転手 約束は海を越えて」の脚本家オム・ユナが初監督と脚本を担当。バンス役を「ベテラン」「王の男」のユ・ヘジン、ジョンファン役を「犯罪都市」「ゴールデンスランバー」のユン・ゲサンが演じる。
映画.comより引用

『タクシー運転手』脚本家が描くハードコア版『舟を編む』

映画館の前で、チンドン屋の男が大げさな演技で呼び込みをしている。まるで渥美清のような暑苦しさ、ニカッと笑うと西川貴教に豹変する最近の映画では見かけない個性的な風格を持つ男パンスをユ・ヘジンが好演している。彼は映画館のチンドン屋をクビとなり、息子の教育費の為に彷徨う中で表は本屋、裏は辞書づくりを営むところに転がり込み雑用係を任される。真面目な編集長リュ・ジョンファンと対立関係にあったものの、生の言葉を饒舌に語る彼に辞書づくりメンバーは魅了されていき、いつしか同化政策に包まれ、抑圧される社会の中での闘いに加わることとなっていく。

韓国映画の凄いところは、この手のシリアスドラマでもエンターテイメントに吹っ切れていることだ、序盤は、まさしく『男はつらいよ』であり、頭は悪いが人情厚く、彼が怒る時の間合いや、彼が引き起こす騒動とその解決に明け暮れる人の動きが爆笑を引き起こす。常に遅刻魔である彼が、娘を生贄に差し出し許しを求める。堅物なリュ編集長も娘にはメロメロで、ホットクを買い与えていく。しかし、娘愛を奪われたパンスは嫉妬で、入れたばかりの知識でマウントを取ろうとするが、あっさりとリュにカウンターされる一連の流れはコメディとして秀逸だ。

そこから、凶悪な同化政策の波が押し寄せていく。息子は日本語を強制されるだけではなく、日本人の名前で呼ばれることとなり、組織から辞書づくり業に関わっているとのことで狙われ始める。いつ捕まるかわからない状況で巧みにアイデアを練っていき、言葉を集めていく過程が楽しい。人情コメディとサスペンスの間に韓国社会が持つ言葉のアイデンティティを封じ込めた本作は、やはり日本でも観られるべき代物でありました。

オススメです。

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