【ネタバレ考察】『日本沈没2020』で登場する《エストニア》とはなんだったのか?

日本沈没2020(2020)

監督:湯浅政明
出演:上田麗奈、てらそままさき、村中知etc

評価:30点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Netflixで配信となった『日本沈没2020』が物議を醸しているらしい。監督は『映像研には手を出すな!』の湯浅政明。彼が小松左京の不朽の名作『日本沈没』をアニメシリーズ化させた。『日本沈没』といえば、国家が消滅することによる混乱を政治的マクロな視点と、庶民的ミクロな視点を織り交ぜて描いた作品。東日本大震災の時にあまりに描写が似ていたことからも注目された作品だ。そして本作は何度か映画化されている。さて、今回は東日本大震災を経てのアップグレード版だ。期待して観たのだが、想像の斜めを行く問題作であった。個人的には酷評であるが、非常に興味深い描写が多かったので考察していこうと思う。

『日本沈没2020』あらすじ


度重なる地震に見舞われ、沈み始めた日本列島。この未曽有の惨事に混乱しつつも、前向きに生き抜こうと模索する一家には、数々の試練が待ち受けていた。
Netflixより引用

奇妙な日本人の行動を捉えた珍品

これはハリウッド映画ならありえないだろう。

あまりに冷静沈着に動く人物に現実感がないからだ。しかしながら、東日本大震災を経験した者からするとそれは真実であった。突如大きな地震が発生する。列車は止まり、人々はどよめくが、冷静にスマホから流れる速報を確認し、工事現場の職員は安全を確保し、中途半端になっていた作業は上司が蹴りをつける。陸上競技場では、コーチの指示に従い、安否を確認する。そして震度4とか5に対してため息をつくが、狼狽することはない。もはや慣れた手つきで身を守る体制を取るのだ。この光景は、外国人が日本に来て驚くポイントであるが、紛れもない今の日本人である。幾多の大地震を経験し、建物はそう簡単には崩壊せず、市民もパニックに陥って社会を混沌の渦に晒すことは回避しようとするのだ。その異様な光景は、ハリウッドのワーワーギャーギャー騒ぎがちなディザスター映画やゾンビ映画とは違う。そんなガラパゴスのディザスターと市民の関係性を緻密に描こうとするのだ。

フィリピンから日本へ降り立とうとする母の視点、そして地上の視点で巨大地震をダイナミックに描く第一話は、フィリピン人と日本人家族という2020年を意識した脚色によって観る者を惹きつけるのだが『マインド・ゲーム』の狂人・湯浅政明が滲み始め、観る者に不安を与え続ける奇妙な作品となっている。

対位法を意識して、凄惨な街破壊、人々の死を描写しつつ、その世界を美しき空、感傷的な音楽で包み込むのだ。そして、主人公の家族は両親共にスピリチュアルなまでにポジティブで、どんなに避難民が疲労困憊していようと「一緒に写真撮りましょ」と言い始める私のようなTwitter廃人が見たらドン引きするレベルにキラキラしている。しまいには、大麻で人々を支配する新興宗教の世界に足を踏み入れてしまい、息子が大麻カレーを美味しそうに食べていたり、仲間が大麻栽培に人生の生き甲斐を感じているのに、全くそれに危機感を抱かず、ハイになって絡んでくる輩にもHaHaHaと陽気に対話する鬼畜っぷりを魅せています。

この異常なポジティブシンキングは、確かに最強最悪の絶望下において非常に強力な武器となるのだが、彼らのポジティブシンキングが通常では見られない異様な肯定を見せつけてしまっており、困惑せざる得ない。

本来であれば、中盤で足を踏み入れる麻薬宗教の世界。一人、また一人と洗脳されていってという過程が必要なのだが、この家族は違う。最初から大麻を許容し、宗教的儀式にも拒絶感を示さないのだ。そして、大地震がこなければそのまま永住する気満々なのだ。そして、あれだけ冷静だったカイトが大麻でラリって、それをヒロインの武藤歩に見られて恥ずかしく思う描写があるにもかかわらず、それが脱出のきっかけになることはない。つまり、感情の遷移がなく、ポジティブさで押し通してしまっているのです。

これだけクレイジーな家族故に冒険の先々で対峙する敵との対話にも違和感が出てくる。純血な日本人だけを乗せる移動する日本列島が登場する。そこに家族が乗り込もうとするのだが、武藤剛が英語を使うまで、全く疑うことなくスタッフは彼らを日本列島に案内しようとするのだ。過激派右翼であれば、外見だけで排除しそうだし、そうでなくても強引なこの家族に嫌悪感を示しそうだが、その挙動が遅すぎる。斬新すぎる設定に、リアリティがうまくついて来れず所々に綻びが生じ、それが全体的な不満を高める結果となってしまっている。

『日本沈没2020』で登場する《エストニア》とはなんだったのか?

ただ、それでも興味深い作品である。

特に私が注目しているところは《エストニア》だ。武藤剛が度々、《エストニア》に憧れを抱く場面がある。しかも、フィリピン要素よりも強調されてエストニアが描かれているのだ。これはどういうことだろうか?実はエストニアはIT先進国であり、エストニアの理想的国家思想を日本に当てはめシミュレーションした作品と考察することができます。エストニアは、1991年にソ連から独立した。しかし、天然資源が少ないエストニアにはそれに変わる資源を生み出す必要があった。そこで注目されたのが、インターネット技術。積極的にインターネット技術を活用し、公的文書のほとんどを電子的に処理。しかも、データを複数箇所に分散管理させることで、例え国が滅んでも再現可能な国家を実現させた。現在ではSkypeを始め、ブロックチェーン企業Guardtimeを排出し、世界各国のIT企業から視察訪問が絶えない国となっている。

『日本沈没2020』では、災害が多い日本。ひょっとすると東日本大震災より大きな災害が押し寄せ、日本が壊滅するかもしれない。そうなった時に、日本はいかにして復活を遂げるのかを考察している。そのキーワードとしてあるのがアーカイブであり、ネットワークを通じていろんな国に日本の記憶をアーカイブ化させていき、いつでも再現復活できる状態にするのが良策なのではと本作は物語っている。

実際に最終回では、2028年の世界で復活した日本領土にアーカイブデータを付き合わせていき街並みを再現する様子が描かれている(何故か新世界国際劇場もアーカイブデータに含まれている)。これはエストニアが万が一滅びた後、IT技術で復活する様を日本に置き換えているのだ。とはいっても、今の汚職と虚言で二進も三進も行かなくなった日本ではこの作品のように上手く行くとは到底思えないし、10話駆け足で進んでしまったので、日本からロシアへ移民となった武藤歩、武藤剛に対する差別描写がなかったりする物足りなさはある。そもそも、裏テーマであるエストニアについてあれだけ強調していたのに、その考察が最終話で軽くまとめられているだけというところに不満が残ったりする。

というわけで、出来の悪い『日本沈没』でありましたが、それでも今の時代に観なくてはいけない作品の一本とも言える作品でした。

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