アングスト/不安(1983)
原題:Angst
旧邦題:鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜
監督:ジェラルド・カーグル
出演:アーウィン・レダー、シルビア・ラベンレイター、犬etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。ギャスパー・ノエがオールタイムベストだと賞賛し、『CLIMAX/クライマックス』冒頭のテレビインタビューシーンで積まれていた怪作『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』が邦題『アングスト/不安』改め日本公開となった。コロナ禍でフラストレーション溜まる血に飢えた映画ファンが多数押しかけ、連日満席が相次いでいる通常だったらありえないヒットの仕方をしており、不安になります。シネマート新宿では勢いに準じて、劇中殺人鬼K.が食べるフランクフルトを完全再現して販売。《不安クルト》はK.が装備していた黒手袋も付ける本気の入れ方で大盛況でした。
『アングスト/不安』の公開を記念致しまして、劇中で強烈な印象を与える"フランクフルト"をイメージした、その名も「不安クフルト」(ふあんクフルト)をご用意致しました‼️
ご来場の際には、ぜひ、狂人と同じように、かぶりつてください‼️
劇中同様、黒の手袋もお付け致します…
※お味は保障致します pic.twitter.com/sxkScSueAW— シネマート新宿 映画館 (@cinemart_tokyo) July 1, 2020
座席には、ソーシャルディスタンシングと称してマ・ドンソクが鎮座する圧の強い状態で観賞してきました。
『アングスト/不安』あらすじ
1980年にオーストリアで実際に起こった殺人鬼ベルナー・クニーセクによる一家惨殺事件を映画化した実録スリラー。83年にオーストリアで製作され、日本では88年に「鮮血と絶叫のメロディ 引き裂かれた夜」のタイトルでレンタル用VHSとして発売された作品を2020年に劇場初公開。刑務所出所後の殺人鬼が感じる不安、プレッシャーによる異様な行動や心理状態、それらを冷酷非情で凶暴なビジュアル、斬新なカメラワークで表現。陰惨な世界観を「U・ボート」「アンダーワールド」のアーウィン・レダー演じる殺人鬼のモノローグでつづっていく。音楽を元「タンジェリン・ドリーム」のクラウス・シュルツ、撮影をアカデミー短編アニメ賞を獲得した「タンゴ」やジョン・レノン、ミック・ジャガーなどのMVを手がけたズビグニェフ・リプチンスキが担当。監督は本作が唯一の監督作品となるジェラルド・カーグル。
※映画.comより引用
犬目線、ボール目線、誰目線?
ステディカムを使っているのだろうか?それとも自撮り棒を使っているのだろうか?35年以上前の作品にもかかわらず、浮遊感溢れる動きで殺人鬼K.を捉え続ける。彼は突撃隣の晩ごはん感覚で、扉をノックし、出てきたおばあさんを射殺する。カメラは奇妙なことに天井付近からおばあさんを捉え、死を様々な角度から反復して描いていく。このシークエンスだけでも、撮影監督ズビグニュー・リプチンスキの非凡さが伺える。
刑務所から釈放されたK.は殺しがしたくてウズウズしている。そして不安にかられている。彼の挙動不審な行動に、彼の独白が挿入される音声ガイド付く。脳内ではイメージ完璧、冷酷残忍な殺人鬼であるのだが、ホラー映画における殺人鬼とは違い、現実の殺人はそう簡単にうまくは行かない。一軒家に侵入するも、不安にかられはじめて右往左往するばかり。部屋から障がい者の男が出現し、「パパ、パパ、、、」と言い始めると、パニックとなってしまう。家族がやって来るのだが、ダックスフンドに見つかり怯える。殺しを行うのだが、若い女性を縛り付けるのが下手すぎて、逃げられそうになったり、おばさんを殺すのにやたらと時間がかかるのだ。
通常の映画であれば、殺人のショットは短く割ってしまうものだが、本作は睡魔を誘うムーディーな音楽に合わせて長回しで見せるのだ。じっくりじっくり、不器用な殺人を捉えていく。『ストップ・メイキング・センス』のデヴィッド・バーンみたいにぐにゃぐにゃ身体を動かしながら、でも脳内ではそのアクションに対して言い訳しながら殺していく様子に思わず爆笑してしまう。
あまりに荒唐無稽だからだ。
映画が進むと滑稽さが増していく。
何故か、カメラは相米慎二『ションベン・ライダー』のようにクレーン撮影長回しでK.を遠くから追い始める。必要性を感じられないクレーン撮影、撮影難易度が高い割にK.が家の周りを右往左往するだけという奇妙な撮影が執拗に挿入され、そして今まで殺人者目線、あるいは神の目線で描かれていたものが、突然犬目線、さらには逃げ惑う女性が蹴り飛ばしたボールの視点が長々と描かれ始めるのだ。どれだけボールに興味あるんだと言いたくなるほどに珍妙なショットがここにはあった。
終いには、ダックスフンドがK.になつき、凄惨な殺人が目の前で行われているにもかかわらず、K.と行動するようになる。K.がSASUKEと言わんばかりに、柵の縁を渡り歩いて車を目指すのだが、しっかり犬も付いて来るのだ。
こういう映画が注目されるのは私としても嬉しいことである。
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