『DAU. THREE DAYS』ユニバース映画の戦略論〜クズ男の生態森羅万象〜

ダウ. スリー・デイズ(2020)
DAU. THREE DAYS

監督:イリヤ・フルジャノフスキー、Jekaterina Oertel
出演:Theodor Currentzis,Maria Nafpliotou,Radmila Schegoleva etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

《DAU》ユニバースの第4作目『DAU. THREE DAYS』が配信されたので観てみました。《DAU》ユニバースは各作品の年代がバラバラで、配信順番もテキトーなのかなと思っていたのですが、本作を観ると実に鋭いユニバース戦略が練られている作品であることがわかりました。

『DAU. THREE DAYS』あらすじ


It is 1956. Dau is a distinguished Soviet scientist who meets up with the love of his youth – Maria, a Greek actress – during her three day visit to Moscow. They haven’t seen each other for 25 years. Dau is a successful and prosperous scientist, but feels excruciatingly dissatisfied with his family life. Through Maria he hopes to regain lost harmony and beauty, but reality intrudes when Nora, Dau’s wife, returns home.
訳:時は1956年。ソ連の著名な科学者ダウは、3日間のモスクワ訪問中に、若き日の恋人マリア(ギリシャ人女優)と再会する。二人は25年ぶりの再会。ダウは科学者として成功し繁栄していたが、家庭生活に不満を感じていた。マリアを通して失われた調和と美しさを取り戻そうと願うダウだったが、ダウの妻ノラが帰国したことで現実が入り込んでくる。
DAUサイトより引用

ユニバース映画の戦略論〜クズ男の生態森羅万象〜

『アベンジャーズ』を始めとするMCU(マーヴェル・シネマティック・ユニバース)は、チェックポイントとして『アベンジャーズ』、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』そして『アベンジャーズ/エンドゲーム』があり、そこに向かって各キャラクターの物語を戦略的に並べていく新しい映画の作り方をしていた。この映画戦略は再現可能なのだろうか?その答えは《DAU》ユニバースが証明してくれた。

物理学者レフ・ランダウの生きたソ連時代を中心とする14作品にも及ぶユニバースは各作品年代も主人公もバラバラである。そして配信順も、一見するとバラバラのように見えるが、『DAU. THREE DAYS』まで観ると、驚くべき戦略が施されていたことに驚かされる。

1作目『DAU. NATASHA』ではランダウ時代の裏側を魅せることで、その時代の空気感と、クズに溺れていく様というこのユニバース全体のテーマを提示している。そして『DAU. DEGENERATION』では老体に鞭打ち、宴と混沌に身を投じるランダウを描く。『DAU. NORA MOTHER』では、すぐそばにランダウの存在がありながらも、物語はランダウの愛を欲する女の脳内補完で完結する。そして『DAU. THREE DAYS』で、ランダウがメインに登場し彼のクズさが明らかにされるのだ。

妻のいない間に、旧友であるマリアを家に連れ込み、日夜思い出話に更けるランダウ。しかし、そこへノラが帰ってきてしまうのだ。気まずい修羅場。本来であれば、ランダウは慌てふためくのだが、まるで召使いのようにノラを扱い始めるのだ。冷めた家庭から見えた輝ける過去を全力で遊び尽くそうとするクズっぷりが発揮されるのだ。これはある意味、岡村隆史が女にチヤホヤされ天狗になってしまった経緯と似ている気がする。無論『DAU. DEGENERATION』を観る限り、彼は『好色一代男』の色気で満ち溢れ岡村のようなコンプレックスの塊はない。しかし、このユニバースの行く末に、公開説教みたいな展開があってもいいのではと思う。

ただ、この作品、《点》で観ると弱いところがある。2作目以降、階段が特徴的なランダウ邸が舞台になっているのだが、ドキュメンタリータッチの生であまり階段の高低差を使った階級差みたいな表現が見受けられない。確かに安易なクリシェに陥りそうな舞台装置ですが、使ってみてもいいのではと感じた。

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