ごっこ(2017)
Gokko
監督:熊澤尚人
出演:千原ジュニア、優香、平尾菜々花、ちすんetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
Amazon Prime Videoに千原ジュニア主演の『ごっこ』が配信されていました。本作は映画芸術ベストテン2018で6位に輝いた作品。監督の熊澤尚人は『君に届け』や『近キョリ恋愛』、実写版『心が叫びたがってるんだ。』といった青春キラキラ映画を手がけているイメージが強いのですが、小路啓之の同名漫画、それもシリアスな内容に挑戦している。評判が高いので観てみました。
『ごっこ』あらすじ
小路啓之の同名マンガを千原ジュニアの主演、「ユリゴコロ」の熊澤尚人監督のメガホンで実写映画化。大阪のうらぶれた帽子店で仲むつまじく暮らす城宮とヨヨ子の親子。40歳目前にも関わらずニートの城宮と、5歳のヨヨ子は、けっして他人には知られてはいけない秘密を抱えていた。城宮が十数年ぶりに実家に戻ってきたことを知った幼なじみで警察官のマチは、突如として現れたヨヨ子の存在に疑いの目を向けるが……。城宮役を千原ジュニアが、ヨヨ子役をNHKドラマ「悦ちゃん」で注目を集めた平尾菜々花がそれぞれ演じ、優香、秋野太作、中野英雄、石橋蓮司らが顔をそろえる。
※映画.comより引用
芸人から芸を引き出すこと。この千原ジュニアに注目!
タレントやお笑い芸人が出てくる映画は警戒している。
それは、タレントから才能を引き出せていなかったり、芸人の芸の使い方を見誤った作品が少なくないからだ。しかしながら、熊澤尚人は『ごっこ』で千原ジュニアの隠された才能と芸を余すことなく引き出していた。シャッターが閉まる家に、悪ガキが集まり、エアガンで撃つ。「引きこもりがいる家なんだってーやーい」といった感じに。キレた千原せいじ演じる城宮はシャッターを開けて睨みつける。すると少年たちは一目散に逃げていく。そんな彼は、石井隆的鮮血の灯りに映る哀しげな少女と邂逅する。本能的に、虐待されている子だと悟った彼は、思わず誘拐してしまう。
5年間ニートをしていた城宮にとってどうやって彼女と接すれば良いのか分からない。しかし、孤独を抱えた者同士という共通点から親子ごっこを始めるのだ。この手の映画では安易に閉塞感を叫んだり、貧困描写をたっぷり描き御涙頂戴に持っていきがちだ。しかしながら本作は、壊れやすい関係の危機を寓話的世界の中で描くことに特化している。積極的に警察官と隣り合わせの関係を描くことで、儚い暮らしの壊れやすさを表現するのだ。と同時に、シャッター街となり閑散とした商店街の中で、路上にチョークでお絵かきしたり、動かないバイク遊具を「目を閉じてごらん」と空想の中で娯楽を生み出し、二人だけの最強の世界を作り出していくファンタジーのような世界も大事にする。そして、決して城宮を成長する人として描かない。彼は仕事もできなければ人間関係の構築も苦手な人間だ。彼女とは違い、「ありがとう」や「すみません」は言えるものの、表現力が乏しい故に感情が高まると暴力を行使してしまうのだ。彼だって虐待をしてしまうという問題を画面内にチラつかせることで、安易に社会問題を解決しないところに監督の強い意志を感じさせます。
そんな不安定な感情を表現する千原ジュニアが素晴らしい。やつれた全身から、なけなしの力を振り絞って醸し出される笑み。社会的欲求を満たせず、社会の底で引きこもっていた彼が、少女を通じてしっかりした大人になろうとする。自分の鏡のように映る少女を、そう簡単に改善されない本能を押さえつけながら前へ前へ進もうとする姿に思わず涙が出てくる。
そして本作を観ると、映画芸術が『万引き家族』を酷評し、本作を賞賛する理由も分かった気がする。無論、映画芸術は是枝裕和映画が嫌いなところもあるのですが、同じベクトルを向いていながら、『ごっこ』の方が社会問題と映画的寓話性のバランス面で優れていると言える。
反復されるBB弾、「ありがとう」を繰り返すことで「ありがとう」を知らぬ少女に概念が芽生える様、そしてラストに千原ジュニアが流す雫に私の魂が洗い流されました。
これは公開当時観逃したのが悔やまれます。
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