『Première Année』フランス医学部の壮絶な勉強バトル開幕

プルミエ・アネ(2018)
原題:Première Année
英題:The Freshmen

監督:トマ・リルティ
出演:ヴァンサン・ラコスト、ウィリアム・リブヒール、Michel Lerousseau etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

医者であるトマ・リルティの『ヒポクラテスの子供達』、『Médecin de Campagne』に次ぐ医学物語シリーズ第3弾。『Première Année』は監督の大学時代が反映されており、studyramaの監督インタビューによれば彼が実際に学んだ大学で撮影されました。『ヒポクラテスの子供達』では意識高い系研修医の挫折が描かれていたが、今回はフランスの教育制度を壮絶に批判した作品となっていました。

『Première Année』あらすじ


Friendship sparks between newcomer Benjamin and held-back Antoine during the first year of medical school.
訳:新人のベンジャミンと、医学部1年のアントワーヌの友情が火花を散らす。
IMDbより引用

フランス医学部の壮絶な勉強バトル開幕

本作について語る前にフランスの教育制度について語るとしよう。フランスにはPACES(Première année commune aux études de santé)という制度があります。PACESでは医師、歯科医、助産師、および薬剤師の職業に従事する人を制限するために大学1年生のテストの結果で、職業を分類する制度である。テストを通過できるのは上位20%でありその中で華である「医師コース」はトップ2%しか入れない。2000人いたら300人ぐらいしかテストにすら通過できない過酷な世界。しかも、掲示板で成績順位が張り出され、コース選択も公開で順番に成績上位者からコースを選んでいく残酷なものだ。かつて医者よりも映画の方が好きだったが、医学の勉強に注力したトマ・リルティは20年ぶりに医大へ戻り、より一層過酷になっている教育現場を批判すべく本作を作った。以前より生徒数が増え、選択排除のシステムの中に取り込まれ、競争心からくる個人主義によって壊れていく状況に警鐘を鳴らしています。

冒頭、成績352番のAntoine Verdier(ヴァンサン・ラコスト)は直前で「医師コース」の定員が埋まってしまった為、留年を選ぶ。辛酸を舐め、もう一度医大1年目をやり直す彼の前に現れたのはヒヨッこBenjamin Sitbon(ウィリアム・リブヒール)だ。学校は戦争である。ホール前には長蛇の列ができているのだ。皆場所取りに必須で、席が埋まれば1時間後のクラスを受けなければならない。Antoineが席取りに失敗し学生と揉めていると、颯爽とBenjaminが現れ、「おら席空いとるんだろ?」と押しのけ彼を助ける。こうして二人は出会い、勉強仲間となる。授業に遅れてきた彼を先生は追い出そうとするが上手いこと論破して中に入れさせる。だが、そう医大は甘くない。

「ポーリー反応は3つの成分から構成されている。スルファニル酸、塩酸、後一つは?」

と訊かれる。

彼は「硫酸銅(II)」と答えて一応入れてもらえるが、後で呼び出されて「硫酸銅(II)ではない、亜硝酸ナトリウムだぞ。」と言われる。2度欠席したら単位を落とす壮絶さの中で、二人は勉強をしていく。来たる試験会場は、東京ビッグサイトを思わせる大きな空間。ここに数千人近い人が押し込められ、3時間にも渡るテストを行う。運命を決める大事なテストだけに、緊張で気分の悪い人も出ている状態だ。テスト結果が張り出されると、学生は我は我はと群がり、順位を確かめる。だが、Benjaminを教える立場にいたAntoineはあっさり順位を抜かされ、Antoineが218位に対して132位を叩き出していたのだ。そこから、Antoineはドンドンと精神が壊れていってしまう。

自分の通っていた高校も成績上位から行きたい学部にいける仕組みだったので似たような軋轢はたくさん見てきました。ある学部になると成績上位10位に入らないといけなかったりするので、ゆるい学校といいつつも割と厳しかった記憶があります。高校3年生になるとどの教科も90点以上が続出して割と鬱病になった記憶があるだけに、このヒリヒリとする勉強バトル映画は心に刺さるものがありました。『ヒポクラテスの子供達』を観るとわかる通り、Benjaminはトマ・リルティ監督の分身であり、それ故ラストのびっくりするエンディングは実話なのかなと思うものの映画としては美容な着地点になってしまっているのが玉に瑕だが、詰め込み教育や、成績至上主義による孤独の問題を辛辣に描いた秀作だと思いました。

これは日本公開してもいい気がします。

参考資料

studyrama:”Première année” ou la PACES vu par Thomas Lilti”

※movies.chより画像引用

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