Swallow/スワロウ(2019)
SWALLOW
監督:Carlo Mirabella-Davis
出演:ヘイリー・ベネット、オースティン・ストウェル、デニス・オヘアetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
巷で今話題な作品に『SWALLOW』がある。Carlo Mirabella-Davisの長編デビュー作にしてマイナー映画祭で賞を獲りまくっている作品で、どうやらヒロインが色んな異物を飲み込んでしまうという内容らしい。予告編を観たらとても面白そうなので観てみました
…これが『レクイエム・フォー・ドリーム』級のトラウマホラー映画でした。
※日本公開は2021/1/1より邦題『Swallow/スワロウ』で決まりました。
『Swallow/スワロウ』あらすじ
Hunter, a newly pregnant housewife, finds herself increasingly compelled to consume dangerous objects. As her husband and his family tighten their control over her life, she must confront the dark secret behind her new obsession.
訳:新たに妊娠した主婦であるハンターは、危険な物体を消費することをますます強要されていることに気付きます。彼女の夫と彼の家族が彼女の人生に対する彼らの支配を厳しくするとき、彼女は彼女の新しい強迫の背後にある暗い秘密に直面しなければなりません。
※IMDbより引用
嚥下奇譚スワロウ・テイル
絵に描いたような豪邸、資産家のパーティで祝福の声が上がる。そんな家にいる若き妻ハンターは、一見幸せそうに見えるが顔は曇っている。夫は富も人脈もあり優しい。しかしながら、彼女の孤独感を癒してくれない。住むにはあまりに広すぎる空間を一人過ごす彼女は、パズルゲームをしたり、寝っ転がったりして退屈さを紛らわせている。そんな彼女はある日、自己啓発本を読む。そこには、
Every day,try to do something unexpected. Push yourself to try new things.
(毎日、思いもよらぬことに挑戦してみよう。新しいことを挑戦するために自分を後押ししてください。)
と書いてあった。
彼女は何気なく、ガラスケースの中にあったビー玉を手に取り飲み込んでしまう。そして、次の日、消化できず便として排出されたビー玉を洗い、部屋に大切に飾る。それ以来、彼女は異物を飲み込むことに取り憑かれていく。
THE HOLLYWOOD NEWSに寄せられた監督インタビューによれば、本作は孤独に悩まされた祖母のエピソードから着想して作られたとのこと。1950年代、主婦であった祖母は手洗いに取り憑かれ、週に4本の石鹸4本と消毒用アルコールの12本のボトルを使い切る程の狂気に駆られた。祖父はそんな彼女を精神病院に入れ、電気ショック療法、インスリンショック療法、そして強制的なロボトミーを施した。監督は、社会の期待に応えられないが故に罰せられる人を描くため、本作を制作したのだ。
そして、映画では痛みと快感の狭間というものをこれ以上にない恐ろしさで描いている。ビー玉を飲み込んだ彼女は、次に掃除機に引っかかっていたピンを飲み込もうとする。テーブルに手をつき、一線を越えようか越えまいか悩むシーンでは十分な間を設けることで観る者の脳裏に将来訪れる恐怖を再生させる。そして一度は飲み込みに失敗するのだが、再び挑戦しようとするところで、直視し難い想像上の苦痛を観客に与えている。
そして、一線を越えてしまった彼女は口紅やガラクタを次々と飲み込んでいく。痛みと引き換えに、あれだけ曇っていた顔が明るくなる。バレるかバレないかといった瀬戸際にある背徳感の蜜に溺れていくのだ。一度癖になってしまうと止められない。妊婦故、病院での検査でその癖が発覚し、監視員付きで自宅軟禁となる彼女だが、好きを見つけては異物を飲み込んだり、ネタを見つけてはポケットにしまいこんでしまうのだ。夫は、一見彼女に親身に向き合っているように見える。しかし、段々とハンターは気づいてしまう。彼にとって自分はパーティの華レベルの存在、アクセサリーでしかないことに気づき幻滅していく。
アイデンティティが失われ、自分らしさを与えられない彼女は、《物を飲み込み、痛みを伴いながら排出する行為》を通じて自分を認識し、生を感じるようになっていくのだ。未だに、主婦は楽な仕事として無意識なる男尊女卑社会の奴隷となってしまっている。そんな時代に突き刺す鋭く世にも恐ろしい嚥下奇譚スワロウ・テイル(A Swallow Tale)でした。
参考資料
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