【ネタバレ考察】『多動力 THE MOVIE』君たちは、原液広げる側だということに気づいた方が良い

多動力 THE MOVIE(2019)

監督:ハシテツヤ
出演:岩義人、福山聖二、加護亜依etc

評価:マイナス5億点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先週、初めて『邦キチ!映子さん』を読みました。『邦キチ!映子さん』とは服部昇大による日本映画紹介漫画で、柳下毅一郎同様、邦画の深淵を覗きに行くスタイルの映画紹介を行なっています。さて、どんな映画をプレゼンテーションしてくれるのだろう?と読んでみたところ、『多動力 THE MOVIE』という耳馴染みのない映画が紹介されていました。しかも、この作品2019年の作品だと言うのです。『多動力』といえば、ホリエモンこと堀江貴文のベストセラービジネス書。それが実写映画化したのだそうだ。

そして服部昇大によれば、ビジネス書映画なんてジャンルがあるらしく『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの《マネジメント》を読んだら(以下、《もしドラ》と表記)』や『神様はバリにいる』が実写映画化されているということ。通常、ビジネス書映画といえば、『ヤバい経済学』や『21世紀の資本』とドキュメンタリーとして映画化されるものですがどう実写化していくのだろうか?『もしドラ』の場合、もはやドラッカー関係ない安いアイドル映画に成り下がっていました。

『多動力 THE MOVIE』はなんとAmazon Prime Videoで配信されており、Twitterで話題になるもFilmarksには全然感想がアップされず、アップされていたとしても「酷い」と書かれているだけで、どう地獄が展開されているのかがわからなかった。実際に観たところ、狂気の映画であった。そして柳下毅一郎が研究している、日本映画のアンダーグラウンドに潜む搾取の構図すら見えてくる作品でありました。

今回は、じっくり本作の問題点や危険なところを10のポイントからネタバレありで考察していく。

『多動力 THE MOVIE』あらすじ


ホリエモンこと堀江貴文 原作の30万部を突破したベストセラー「多動力」が映画化!ビジネスシーンだけではなく、様々な場面で活用できる力、それが「多動力」。突如会社ごと無人島に転送された主人公たち、多動力を駆使してサバイバルを生き延びる!
Amazon Prime Videoより引用

ポイント1.ホリエモンは原液を作る側である

本作が何故、今までブンブンの耳に入らなかったのか?映画情報は隈無くチェックしているというのに。

答えは簡単です。ホリエモン万博たるところで限定上映されたからです。みなさんは、ホリエモン万博をご存知だろうか?映子さんは、愛知万博や大阪万博的なものをご想像されているのですが、明らかに規模が違います。試しに、今年行われたホリエモン万博のページをみてみましょう。

2019年に5,000人以上の参加者を集めた「ホリエモン万博」が帰ってくる。

と書いてあることに気づくでしょう。イベントに詳しい人であれば、とてもスケールの小さいイベントであることが分かります。しかし値段は、8,000~53,000と非常に高額となっています。ブンブンはオンラインサロンのことはよくわからないのですが、少なくともホリエモン信者や意識高い系からお金を搾取しているように見えます。そして、ホリエモンの『多動力』は映画だけでなく、漫画や小説と多数展開している。通常であれば後述する酷いクオリティの作品が出来上がっていたら、ホリエモンは怒るでしょう。獄中で『フェルマーの最終定理』を読んでいるような彼であれば、映画の《いろは》ぐらいは分かるだろうし、自分のビジネス書がこうも杜撰に映画化されていたら何かしらのアクションは起こすだろう。しかし、その形跡すら見受けられない。つまりだ、本作はホリエモンが他のコンテンツに展開できる権利を信者に売りつけるだけ売りつけているに過ぎないと想像することができる。映画の中で意識高い系が「原液を作る側になれ。原液が魅力的なら、広げてくれる人は現る。」と豪語しているが、ちょっと君よ、何を勘違いしておる。君は《原液を作る側》ではない。《広げる側》になっているぞ。と言いたくなる。

そもそもクラウドファンディングは大失敗していた

さてそんな『多動力 THE MOVIE』ですが、クラウドファンディングで映画化された作品であります。柳下毅一郎によれば、クラウドファンディングは金をもらうことしか考えてない人の集まりになっており、クラファン映画は危険だと『皆殺し映画通信』で語っている。実際に、ブンブンもよくクラウドファンディングで映画に出資するのですが、日本のクラウドファンディング映画は地雷が非常に多く敬遠しているところがあります。さて、本作はどれぐらいお金が集まったのだろうか?見てみましょう。

751,500円(目標額:3,000,000円)

25%しか集まっていません。75万円って、自主制作以下です。下手すれば短編映画すら作れない額しか集まっていないのです。オンラインサロンとかで幅広い人脈があるのでは?とも思うのですが、恐らく身内以外の出資者が数名程度の大惨事となっていました。そう考えると、後述するディザスターっぷりにも納得がいきます。

いよいよ気になる中身をみてみましょう。

ポイント2.カウンセリングしていないカウンセラー

大学のキャリア系の授業で流される映像かなと思しき質感で、映画は進行する。大学の就活カウンセリングシーンへ映る。開幕早々遅刻してきたチャラ男2人と対峙するカウンセラー。一人は安定を目指して自動車業界へ行こうとしているのが明らかにされる。「毎日365日働きます!」と24時間戦えますか時代へ行こうとするブラック企業ウェルカム感を醸し出しています。一方、主人公であるもう一人のチャラ男・鈴木くんは、「ZUZUTOWN」にエントリーすると言い始める。カウンセラーは「入ったら月に行くの?」と煽りを入れる。そうです、明らかに《ZOZOTOWN》に入ろうとしているのです。そして、毒にも薬にもならない個人の哲学なき入社理由を披露し、カウンセリングはそこで終わってしまうのです。カウンセラーよ。何もしていないぞ。

ポイント3.主演よりも目立つ《悪霊退散》のお札

こうして、ZUZUTOWNへ入社した鈴木くんですが、ZOZOTOWNから訴えられるぞ!と言いたくなるほどの、治安の悪いブラック企業っぷりが画面の中で余すことなく提示されていきます。社長の演説が始まると、従業員はかったるそうに立ち聞く。こともあろうことか、部長は《報・連・相》が分からないことが発覚する。仕事中に、スマホは弄るは、ペチャクチャどうでも良いおしゃべりをするは、終いには演説中にマスコットのストラップをグルグル振り回す人までいる。このことから会社の知能偏差値が異様に低いことが伺える。なるほど、トレンディドラマにありがちな雑然としたオフィスを再現しているようなのですが、これではただ単に治安が悪い企業にしか見えないし、いくらZOZOTOWNが世間の嘲笑に晒されているからって失礼な気がする。

さて、映画を観れば誰しもが違和感に気づくオフィス描写があります。それは、何故か存在感が大きすぎる鈴木くんのパソコンに貼られた《悪霊退散》のお札です。呪術的なものに頼るヤバい企業感を出したいのだろう。鈴木くんのPCには《悪霊退散》のお札が貼られているのですが、異様に目立つのです。

これは、オフィスの色合いが全体的に黒く、鈴木くんのファッションもそれに同化した色合いのスーツを着込んでいる為、画面の色彩とはかけ離れた色を放っているお札が強調されてしまっているのです。観客は、このお札がノイズとなって、全然鈴木くんのセリフが入ってきません。呪術的なものに頼るヤバい企業感は、社長・部長の演説や、オフィス後方に飾られている立派な鳥居で十分説得力があるので、お札は無くした方がいいのではと感じました。

ポイント4.異様に長い飲み会風景に開いた口が塞がらない

さて、驚くところは続々と現れる。本作には7分に及ぶ大スペクタクル飲み会シーンがある。ここでは鈴木くんが遅れて合コンたる場所に参加し、合コン会場の飲み屋が会社の先輩である堀口が作ったものであることを知るという場面である。しかし、映画製作者がただ飲みたかっただけなのでは?と思う程、ただお酒を飲んでどんちゃん騒ぎしている場面なのだ。ビールを一気飲みする場面なんかもあるのですが、色々と不安になります。そして、店員は何故か5人ぐらいでカウンターにたむろしているのだ。そしてペチャクチャおしゃべりをするのだが、飲み会が開催されている店でこうも暇なことがあるものだろうか?クラウドファンディングの映画出演権を持つ30人を捌く為だけに配置していないかと思ったりします。そして、ア○ウェイが信者を増やす時に行う、海外展開・リア充感全開な不穏なトークまでが繰り広げられてしまう。

しかし、折角不穏な空気が流れているのに、映画はそれは完全にスルーしてしまうのです。

ポイント5.突然『漂流教室』展開迎える…しかしそれでも働くブラック企業の極み!

段々と香ばしくなってきました。

映画は途中から超展開を迎えます。彗星の磁場か何かが原因で会社が謎の島へ転送されてしまうのだ。ビルごと転送された設定にもかかわらず、映画では鈴木くんのいる部署しか映し出されない。他のフロアはどうしたんだ?というツッコミはさておき、そもそもこの展開、勘の鋭い方はこう思うでしょう。

「『漂流教室』のまんまじゃん!」と。

『漂流教室』とは、楳図かずおのホラー漫画で、荒涼とした未来に学校ごと転送されてしまった少年たちのサバイバルを描いた作品。『多動力 THE MOVIE』は、『漂流教室』における学校をZOZOTOWNのワンフロアに置き換えてみたようです。そのぶっ飛んだ発想力には脱帽します。

ただ、『漂流教室』とは違い、本作では異常事態だというのに通常業務を行おうと部長が言い始めるのだ。確かに、日本はコロナが蔓延しようが、イベントは中止にしても満員電車出勤はやめないブラック国家だ。『サバイバルファミリー』でも電気が失われた世界で通常業務をしようとするサラリーマンが描かれていたが、前半から積み重なる狂気の演出によって、誰が観ても異常だと分かる仕様となっている。

しかも、サバイバルしなければいけないのに、水分が貴重だというのに、従業員はのほほんとしているし、口の中がパッサパサになるクッキーを何も考えずに貪り食っているのです。多分、君たちは生きていけるよ。と言いたくなる。

ポイント6.島の深淵で「1晩で10件ハシゴしろ」と説く。
それって馬の耳に念仏では?

こうして異様なサバイバル生活が幕を開ける。のほほんとした従業員をよそに、鈴木くんは意識高い系先輩・堀口氏と共に多動力を駆使して生きていく道を探っていきます。赤坂太輔は『フレームの外へ──現代映画のメディア批判』の中で、Youtube動画がすぐに忘れ去られてしまうのは、ロベール・ブレッソンやロベルト・ロッセリーニのようにフレームの外側を意識したショットがなく、画面中の文字情報に支配されているからだと理論を展開している。まさしく、この作品は赤坂太輔の理論におけるダメな例を突き進んでいる。

堀口が格言めいたことを言うと、テロップが表示されるのだが、それは言葉や行動で格言を説得力もった形に落とし込めない諦めを感じさせる。そして、そもそもその格言は無理に映画にねじ込もうとしている為、言葉のドッヂボールとなってしまっている。例えば、謎の島でサバイバルしているというのに、「1晩で10件ハシゴしろ」と言い始めるのだ。島には、酒場なんて1件もありません。「寿司屋の修行なんて意味がない」と語り始めるのも、サバイバルと無関係で馬の耳に念仏な気がする。

好意的に『仮面/ペルソナ』的、自問自答を繰り返すうちに内なる自分に気づく演出故に、関係ない格言が挿入されていると捉えようにも、堀口は仁王立ちで格言を述べるだけで「原液を作る側になれ。原液が魅力的なら、広げてくれる人は現る。」という格言以外はアクションに結びついていないので擁護し難いものがある。いや、待てよ、ひょっとして意識高い系が言葉だけが達者でアクションできていない様を皮肉っているのか?

ポイント7.そもそも堀口さん、人生にワクワクしていなそう

さて給料の3倍副業で稼いでいる堀口氏ですが、彼は口癖として「ワクワクしたい」とよく言う。彼に言わせれば、事務の仕事なんてゴミだそうで、上司との飲みもワクワクしないと避けている。確かに、ホリエモンとかイケダハヤトとか、あの辺のギラギラした方々は、ひたすらにワクワクしたことを追い求めている。ただ、堀口には彼らのような好奇心が微塵にも感じられないのだ。オンラインサロンのトップには立てず、幹部として少し成功しているだけの二流感しか漂わないし、そもそも彼が人生にワクワクしているのかに疑問を抱く。そして、そんなカリスマ性0な二流に追従しようとする鈴木くんが可哀想に思えてきます。

折角ホリエモンのビジネス書を映画化するなら、骨の髄まで搾取したるぞ!俺は日本のジェフ・ベゾスになるぞ!と意気込むギラついた人を配置しないといけなかったのではと感じた。

ポイント8.料理人になりましたと言われても…

さて、結局なんやかんだで、日本に戻ってきた鈴木くんは堀口氏に感化され、会社を辞める。そして夢だった料理人になるのですが、先述の通り何一つ説得力のない作劇なので、ケーキにイチゴ乗せましたレベルのエピソードにしかなっていません。地震が起きたら崩れてしまいそうな設定である。

ビジネス書はプロセスしか書かれておらず、それを読んで実践した人の結果が反映されないもの。映画は、その先を描けるコンテンツだけに、堀口氏のアドバイスやサバイバル生活をどのように生活へ活かして行ったのかを捉える必要があるのですが、進研ゼミの漫画よろしく。結果しか描かれていない。結局、鈴木くんの人生は原液を広げるだけの人生なんだねとしか思えないのです。

ポイント9.誰しもが「自分の時間を取り戻せ。」と言いたくなる。

さて、80分かけて本作を観た。あまりのぶっ飛び具合に想像以上の快感を得たのですが、それでも本作を観るくらいなら城定秀夫映画を観ていたいし、日本未紹介映画を発掘したいなと思う。本作のキャッチフレーズは「自分の時間を取り戻せ。」なのですが、それはこっちのセリフだと言いたくなりました。

ポイント10.《多動力》って結局何?

さて、最後にこの言葉でお別れしましょう。

いかがだったでしょうか?

多動力のことがわかりましたでしょうか?
あなたも多動力を駆使して人生をワクワクしたものにしていきましょう。

…んっ結局《多動力》ってなんだったのだろうか?

P.S.映画関係者は『泳ぐひと』観て我が振り直していただきたいなー
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