【ネタバレ考察】『カイジ ファイナルゲーム』まさしくパソナVSアパホテル!日本暗黒風刺戯画

カイジ ファイナルゲーム(2019)
KAIJI FINALGAME

監督:佐藤東弥
出演:藤原竜也、福士蒼汰、新田真剣佑、吉田鋼太郎etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

時が経つのは早いものですね。闇のゲームもの火付けとなった『カイジ』シリーズ。すっかり、この手のジャンルに必要不可欠となった藤原竜也人気作2作目『カイジ2 人生奪回ゲーム』から9年が経ちました。一般的に、映画において後出しジャンケン、説明台詞過多な作品は過小評価されがちだ。映画は視覚的メディア故、視覚以外のものに頼ろうとする姿勢が批判の対象となるからだ。しかし、2010年。一般市民の間にコンピュータが普及し、SNSを使うようになり、大衆が情報の洪水に呑まれることが普通となった今、説明過多を研ぎ澄ますはある種の個性となり、肯定される武器となるだろう。

アニメの世界では、その流れが来ており2010年代は『キルラキル』に始まり、『夜は短し歩けよ乙女』、『斉木楠雄のΨ難』といった情報過多、言葉のドッヂボールが生み出す美学を追い求めた傑作が生まれいき成功を収めた。さて、そんな時代だからこそ、藤原竜也の暑苦しい説明台詞と叫びが味となっている『カイジ』は再評価されるのではないだろうか?

そんな期待を抱きつつ、私は映画館へ向かった…

本記事はネタバレありで考察していく。

『カイジ ファイナルゲーム』あらすじ


福本伸行の人気コミックを藤原竜也主演で実写映画化した「カイジ」シリーズの3作目。前作「カイジ2 人生奪回ゲーム」から9年ぶりの新作となり、原作者の福本が考案したオリジナルストーリーで、「バベルの塔」「最後の審判」「ドリームジャンプ」「ゴールドジャンケン」という4つの新しいゲームを描きながら、シリーズのフィナーレを飾る。2020年・東京オリンピックの終了を機に、国の景気は急激に失速。金のない弱者は簡単に踏み潰される世の中になっていった。派遣会社からバカにされ、少ない給料で自堕落な生活を送るカイジは、ある日、帝愛グループ企業の社長に出世した大槻と再会。大槻から、金を持て余した老人が主催する「バベルの塔」という、一獲千金のチャンスを含んだイベントの存在を知らされ……。福士蒼汰、関水渚、新田真剣佑、吉田鋼太郎らがシリーズ初参戦し、過去作からも天海祐希、松尾スズキ、生瀬勝久らが再登場。監督は過去2作と同じ佐藤東弥。
映画.comより引用

まさしくパソナVSアパホテル!日本暗黒風刺戯画

2020年東京オリンピック後の日本。経済成長が見込まれた東京五輪はあっけなく失敗に終わり、ハゲタカ外資が日本を搾取する。そして消費税は30%となり、年金受給年齢は引き上げられる。社会保障は40%カットされ、労働者は派遣労働者として、巨大派遣会社支配の元こき使われている。あれだけ『カイジ』といえば、クズが地下で働く様子をハハハと笑い飛ばす世界だったのに、もはや日本全体があの地下帝国、ペリカの国になってしまったのだ。

果たして、観客は笑っていられるだろうか?

ざわっ、ざわっ、、ざわっ、、、

と漆黒の騒めきが観るものの心の中で木霊するだろう。

そうです、今や虚構新聞のどうかしている世界観を笑い飛ばす時代は過ぎ去ってしまったのだ。現実が虚構を超えてしまったのだ。消費税30%は、IMFが日本に対して、「2030年までに消費税率を15%に上げないとヤバイですよ。」と煽り、それに従属した日本の行く末が見え据えている。今回の宿敵である国と結託している大手派遣会社とはパソナそのものである。そしてそれに立ち向かう不動産王には、東京五輪後不動産バブルが弾け、フラストレーションが溜まっている会社、、、強いていうならばアパホテルの残像がチラつきます。住居を失った者は、スタジアムで暮らしているのだが、そのスタジアムは、明らかに例の悪名高き新国立競技場の末路を彷彿とする。原作者であり、本作の脚本を手がけている福本伸行のもはや架空ではないという危機感が冒頭から滲み出ているのだ。

そういった危機感を風刺してみせた作品が、去年あった。ナントカ放浪記というのですが。それは無残にも横滑りして終わってしまった。それは、ただ要素を並べただけにある。本作は違う。

確かに本作は全2作同様カーナビ映画である。

5秒先、左方向、伏線です。

と言わんばかりに、観客が置いてけぼりにならぬよう全部説明してくれる。そして『遊戯王』さながら、顔芸ハッタリの後出しジャンケンゴリ押しで物語が進んでいく。説明過多を研ぎ澄ませ、圧倒的個性を見出すのかと思いきや、エンジンがかかるまでが非常に遅く、切れ味は悪い。しかしながら、本作における政治風刺は、全て物語上必要な要素として組み込まれているのである。

本作における代理戦争的騙し合いを軸に、人を捨て駒にしか扱わない派遣会社のボスが派遣社員の個性を軽視下が故に、しっぺ返しを食らう場面。派遣会社と政府が結託して、土地の価値を暴落させていく展開など、社会問題を幾つか組み合わせて大きな皮肉を連鎖的に作っておくことで、無駄なく問題提起することに成功しているのです。俗な作りをしているものの、職人技のように要素を組み合わせていく福本伸行の手腕に感銘を受けました。

また、本作は前2作から成長しているところがあります。

それは、観客を傍観者から参加者へ引き込む力であります。

前2作はあくまで観客は傍観者の位置から出ることはなかった。テレビのバラエティ番組を観ている感覚に近い。しかしながら、本作は段々と観客は、映画の世界に没入していく仕組みとなっているのです。なんといっても、カイジこと藤原竜也の観客の巻き込み方が素晴らしい。最初は、冷静沈着だったカイジが、《最後の審判》後半で一発逆転に見せかけた大技を仕掛け始める。そして吉田鋼太郎が怯んだ隙を見計らって、煽りの逆転劇を始めるのだ。画面から滲み出る圧力にグイグイと引き込まれていきます。

時計の針からコインが落ちていって、逆転優勝する無茶苦茶すぎる展開が待ち受けているのだが、それすらも愛らしく思えるほどに感動的な勝利を収めるのです。この興奮は、サッカーの試合を観て勝利した感動に似ている。そしてその勢いで、黒幕とのじゃんけんバトルが始まる。『カイジ』といえばじゃんけんだが、もうこの頃になると観客も、「奴は何を出すのか?」と自らをカイジに重ね合わせてしまうのだ。

そしてこのじゃんけんゲームが非常に面白い。

3回じゃんけん勝負をする。金の卵を持った状態で勝利すると、価値が高い金の卵を持ち帰ることができる。しかし、金の卵を持って勝利するにはグーを出さなくてはいけない。カイジは取引で3回中1回勝利する必要がある。あいこは負けである。さてどうするか?最後にグーを出すと不利だ。では最初にグーを出すべきか?

相手は、じゃんけん研究者だ。心理戦の達人でもある。私は悩んだ挙句、最初にパーを出しました。負けました。カイジと共に。

1作目の限定ジャンケンでは感じなかった興奮がそこにありました。

最後に

本作は通俗なエンターテイメントである。誰でも分かるように、謎解きは全部教えてくれるし、謎解きに必要な伏線は、ちゃんと使う10秒前ぐらいに教えてくれるので、観る者は自分で謎解きに成功したと錯覚する接待演出となっています。だから、映画を沢山観ている人は貶すかもしれません。ただ、私はこの映画を賞賛したい。ここまでブラックに日本を風刺してみせ、なおかつエンターテイメントに仕上げていく。日本にも『パラサイト 半地下の家族』のような映画はあったではありませんか!

無論、韓国でリメイクしたら恐らく本作を軽く超えた傑作が生まれるとは思う。でも、私はこの作品が好きだ。

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