【ブンブンシネマランキング2019】旧作部門1位は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』

11.トルチュ島の遭難者(Les Naufragés de l’île de la Tortue)

監督:ジャック・ロジエ
出演:ピエール・リシャール、モーリス・リッシュ、ジャック・ヴィルレetc

ゆるいヴァカンス映画に見えて毎回ハードコアな旅を描いている、まるでブンブンの人生のような世界を描くジャック・ロジエの中でも日本ではなかなか紹介されることのない作品。ロビンソン・クルーソー体験ツアーの添乗員がひたすらあたふたする地獄旅がここにはあった。ヒッピーたちが参加するこのツアーは、いきなりバスに黒人軍団が入り込み大暴れしたり、ツアー参加者に先回りしようとするも次々と押し寄せる難攻不落といったトラベルジャンキーが泣いて喜ぶ一期一会の狂気な体験が目白押し。しかし、そんなツアーに精神が病んでいくのは主人公のみで、参加者は何故かハイになっているのだ。ロードムービーは思いの外レールに敷かれた旅に見えがちだが、こればかりは予測不能の本物の旅が描かれていた。

12.KEYHOLE

監督:ガイ・マディン
出演:ジェイソン・パトリック、イザベラ・ロッセリーニ、ウド・キアetc

2010年代映画界の影で、デヴィッド・リンチとは別ベクトルで前衛を極めた監督にガイ・マディンがいる。彼の描く『ユリシーズ』は凄まじいものだった。

かつて、ジェイムズ・ジョイスは20年にも及ぶ物語『オデュッセイア』を『ユリシーズ』で1日に微分圧縮してみせた。2次元から1次元に微分され、もう分解できないかに思えた『ユリシーズ』をこともあろうか、害魔人ことガイ・マディンは微分してみせたのです。するとどういうことだろうか?
屋敷の中にマルチバースが生まれ、残存、時空が我々に語りかけてくるではないか!デヴィッド・リンチが映画を作らなくなり、沢山の監督が後継になろうと彼の作風に挑み二番煎じで終わる中、完璧にデヴィッド・リンチ的世界を再現し、尚且つクラシカルな映画の面をも吸収し、我々を異世界へと誘う。なんて恐ろしい作品なんだ!

13.簪

監督:清水宏
出演:田中絹代、笠智衆、川崎弘子etc

小津安二郎の影に隠れてしまっている清水宏が描くヴァカンス映画は、まさしく《情緒的が足に刺さった》一本である。温泉で拾った簪を巡って、これからやってくるであろう持ち主に対して妄想を膨らませ、その妄想を悟られまいと高尚な言葉で煙に巻く人たちは、スクリーンの外側からすると岡目八目。爆笑必至の喜劇となっていた。そんな恋の心理劇の裏で、少年は過酷すぎるイベントを用意し、ヴァカンスならではの豊かな時間の流れとは裏腹にあまりに酷な展開を魅せていく。来年は清水宏監督作品に力を入れたい。

14.ジョン・フロム(JOHN FROM)

監督:João Nicolau
出演:Julia Palha, Clara Riedenstein, Filipe Vargas etc

『不思議の国のアリス』は変態作家の生み出した対象年齢が最も低い官能小説であるが、意図的か無意識か、子どもの自由でありながら自由ではない様を捉えている。それを感じ取って『不思議の国のアリス』たるものを演出できている作品はあまりない。今年は幸運なことに2つの傑作と出会った。その一本『ジョン・フロム』は、ヴァカンス・シーズン。なんでもできるし自由なんだけれども、公共住宅から一歩も出られず退屈を強いられている少女が、メラネシアのタピオカ大佐やイケメンに想いを馳せながら妄想を膨らませていき、それが現実になっていく様子を描いている。自由だけど不自由が生み出す幻影を、現実と差異なく描くことで独特な味が紡ぎ出され、2010年代を代表とする『不思議の国のアリス』となっていた。

15.テザ 慟哭の大地(TEZA)

監督:ハイレ・ゲリマ
出演:アーロン・アレフ、アビュユ・テドラ、テジェ・テスファウンetc

エチオピアと聞くと何を浮かべるだろうか?地理専攻だと、人類の古をエチオピアから感じ取るだろう。政治専攻とかだと、最貧困とかコーヒーのイメージを抱くだろう。どちらにせよ、現代文明から隔絶された印象を受ける。

また、シネフィルや映画評論家はフランス映画、アメリカ映画、中国映画は国ごとにラベリングするのに対してアフリカはアフリカ一纏めにしがちである。そして、文明とは隔絶された異次元の映画を物珍しげに褒めがちだ。数年前、アフリカ映画を観漁っていたブンブンも結局のところ、国ごとの特色は把握できず、かといってアフリカ映画監督の作家性を見分けることはできなかった(セネガル映画くらいはしっかり分析したかったなー)。そんなブンブンに怒りの雷か!エチオピアの凄い作品と邂逅し猛省した。

『テザ 慟哭の大地』はあっと驚くショット、文明と隔絶された土地と都会、海外との対比により、非常に高度な社会批判を魅せてくれた。

本作は言うならばエチオピア版『ブルックリン』だ。『ブルックリン』では、何故留学帰り、海外帰りの人は「かぶれているのか」という謎を解明した作品。留学した人ですらまともに語れていない視点と、「かぶれ」の先に待つ二重のアイデンティティの確立の美しき世界を魅せてくれた傑作だ。

このシチュエーションがエチオピアに移るとハードなものへと変わる。貧しき国エチオピアの代表としてドイツに青年は渡る。留学先で、黒人女性が差別を主張し、白人のルームメイトとバトルをする。浅くて主観が強すぎる喧嘩に青年は辟易する。彼は知識を得て、エチオピアの政治がよくないと思い活動するのだが、ドンドン疲弊して負傷してしまう。トラウマを抱え、挫折を抱え、村に戻ると、彼の知識は一切通用しない。悪魔に取り憑かれたのではと水をかけられたり、よそよそしく彼を避ける。エチオピアという国全体も変えることができなければ、村一つ救えない。エリートだが、何もできずにただ路傍の石として存在するだけの青年のアイデンティティが崩壊する過程を彼の心の視点で描いていく。

だから過去、現在が入り乱れ、観客は浮遊する物語に錯乱する。2つの国のアイデンティティを持った者は誰しも『ブルックリン』のように2つの故郷を持てるわけではない。1つの故郷すら持てないのかもしれない。まさしく、どんづまったエチオピアの慟哭に動揺されっぱなしな一本でした。

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16.The Summer of Sangailė

監督:アランテ・カヴァイテ
出演:Julija Steponaityte, Aiste Dirziute, Jurate Sodyte etc

空を自由に飛びたいな。

誰しもが幼少期に想うであろう、空という未知なる自由の憧れ。それと思春期の迷いを超融合させたこのリトアニア映画は、今年観た中で強烈な青春映画であった。これまたヴァカンスを媒体としており、ヴァカンスならではの明るさ、楽しさが、陰鬱とする少女の横を流れていくところに、思春期の迷いの強い具現化を感じ取った。アランテ・カヴァイテ監督は、日本ではほとんど知られていない監督ですが、2020年も活躍を期待したい監督の一人である。

17.ヴァン・ゴッホ~最期の70日~(VAN GOGH)

監督:モーリス・ピアラ
出演:ジャック・デュトロン、アレクサンドラ・ロンドン、ベルナール・ル・コクetc

ゴッホ映画は、アラン・レネに始まり、ヴィンセント・ミネリ、ジュリアン・シュナーベルやさらには黒澤明がマーティン・スコセッシ主演に映画化したりと奇才を魅了し続けているジャンル。その中で画家出身監督、モーリス・ピアラが描くゴッホは異様であった。なんたってゴッホ映画あるあるを全て無視するのだ。

耳切りがち
ゴーギャンに会いがち
ひまわり魅せがち
サロンに行きがち

といったことを悉く無視する。

そして、ゴッホが絵を書くところはなかなか映し出されず、劇中で提示される絵は『ピアノを弾くマルグリット・ガシェ』、『花咲くアーモンドの花』などとマニアックなところをついてくる。このように、ゴッホ映画あるあるを否定していくことで、ゴッホが孤独であったとか彼は狂っていたという一般的なイメージを覆していった。この本質に迫る手法に痺れました。

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18.バリエラ(BARIERA)

監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:ヨアンナ・シュチェルビツ、ヤン・ノヴィツキ、タデウシュ・ウォムニツキetc

イエジー・スコリモフスキが描く『不思議の国のアリス』は制作当時のポーランドに漂う不自由さを、ランダムに貼られたヴィジョンで紡ぎ出す。男は自由を得て走るのだが、鏡が延々と男を同じ場所に留めてしまう。ポーランドがスターリン時代の強烈に抑圧された社会から穏健な共産主義に変わり、国民の生活も落ち着いたかに見えた。しかし、平和と自由が訪れたポーランドにも依然と抑圧はあるんだ。とスコリモフスキは溢れんばかりのアイデアからくるシュールさで画面に刻み込んで魅せた。

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19.ハレー(HALLEY)

監督:セバスチャン・ホフマン
出演:Alberto Trujillo、Lourdes Trueba etc

メキシコのゾンビ映画は、貧富の格差が拡大し、産業革命時代の長時間労働時代に戻ってしまい他人に無関心となった現代を象徴した社会派ゾンビ映画の傑作である。身体が朽ちていくものの、ひたすら自分の身体に防腐剤をまき、他者の微かな心配までも受け流す。一方、彼は地下道で倒れようとも、電車内で体調悪そうにしていようとも誰も助けてはくれないし、目すら合わせてもくれない。これは、決してメキシコだけの問題ではない。寧ろ、今の日本を表していると言える。本作は、かつてイメージフォーラムフェスティバルで上映したっきりの作品だが、日本公開してほしいなと祈るばかりである。

20.青空エール

監督:三木孝浩
出演:土屋太鳳、竹内涼真、葉山奨之、松井愛莉etc

フォルトゥナの瞳』で松井愛莉の魅力の引き出しに失敗した三木監督。実は『青空エール』では完璧に魅力を引き出していました。

松井愛莉はCMや写真と点のメディアで観ると最高に美しく映るのですが、映画となると笑顔がなくなった時に翳りを魅せる特徴がある。また演技自体も上手いとは言えないので、映画にはなかなか登場しない。本作は演出が難しい松井愛莉の魅力を土屋太鳳との対比で引き出している。土屋太鳳扮する主人公は自分に自信がない陰キャラだ。そこの横に松井愛莉の底抜けの陽を投影する。身長差もあるので、明らかな陰影のコントラストが形成されます。

そのコントラストを下地に土屋太鳳の成長譚が描かれる。これにより、彼女の愚直な成長が強調され、応援したくなります。

また、松井愛莉を刺身のタンポポのように配置するのではなく、彼女を物語中盤でチアリーダーに変身させることで、これ以上にない華やかな物語となります。

最後に

中学時代から映画にハマり早10年以上経ってしまいました。ひたすらに自分の好きを追い求めた結果、周りに自分の好きな映画を観ている人が限りなく少なくなってしまいました。しかし、同時に「〇〇を観ていない奴が映画好きを語るなと言う」マウントマンが如何に井の中の蛙なのかがよくわかるようになりました。映画の世界は果てしなく広い。マウントする前に、膨大な映画の洪水から、映画の世界に入りたい者へ道を作るべきだと最近強く想う。寧ろ、映画道を突き進めると「まだアレを観ていない」ことがとてつもなく羨ましく感じるのです。ということでブンブンは引き続き、自分の好奇心を追求し、刺さる人に刺さる未知を紹介していこうと思います。

来年は、全編丸画面の謎映画『Lucifer』、王兵の840分映画『原油』、最近クライテリオンから発売されたヴィム・ヴェンダース『夢の涯てまでも』などに挑戦していこうと思います。

それではまた!
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