【Netflix考察】『アイリッシュマン』あるいはスコセッシのワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ

アイリッシュマン(2019)
The Irishman

監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Netflix製作ながら劇場公開も決まったマーティン・スコセッシ最新作『アイリッシュマン』をあつぎのえいがかんkikiで観てきました。上映時間3時間半あるということで、集中して観たいという気持ちから映画館で観てきました。最近、マーベル映画に対して、「あんなの映画じゃない」と発言し物議を醸したマーティン・スコセッシ。年老いても、『ヒューゴの不思議な発明』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、『沈黙 -サイレンス-』といった意欲作を作り始める彼が、遂に「昔はよかった」老害おじさんになってしまったのか?確かにマーベルに対して思うところはあれど、それは心の中にしまっておくべきなのでは?と表面的にみると感じてしまうものですが、本作を観ると彼がそう発言する意図がわかる作品でありました。本作は、言わば彼の遺言状とも言える作品だったのです。

『アイリッシュマン』あらすじ


裏社会のボスに長年仕えてきた殺し屋フランクが、秘密と暴力にまみれた自らの半生を振り返る。マーティン・スコセッシ監督が贈る、ギャング映画の新たな傑作。
Netflixより引用

アイリッシュマンあるいは、スコセッシのワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ

本作は、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルと20世紀の荒くれ映画を賑わせた大物俳優たちが全米トラック運転組合を巡るギャングの歴史を時代に併せた老い演技で魅せていくもの。『カジノ』や『グッド・フェローズ』といったギャングものの傑作を作ってきたスコセッシにとって集大成とも言える作品ではあるが、彼の得意とする目まぐるしいスピードで物語を展開していくテクニックは封印し、じっくりじっくりと抗争を描いていく。そこには、老体となったスコセッシが遺言状として『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を作りたかった想いがあるのだろう。

面白いことに、ギャングの為に肉を横流しする仕事から、組織の重要人物にまで上り詰める男フランク“The Irishman”・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)が主役の映画でありながら、彼は映画のほとんどを脇役として過ごしている。全米トラック運転組合の栄枯盛衰/世代交代という大きな渦の中で、フランクはそこらへんにいるサラリーマンのごとく自分の職務を全うするだけなのだ。アル・パチーノ演じるジミー・ホッファが、労働者の為にと活動をし、圧倒的カリスマ性で次々とやってくる刺客をかわしていくのだが、とある事件によって歯車が乱れ、彼は組織を私物化し始めるという物語がメインとして配置されている。そしてフランクは老いと共に段々といなくなる仲間たち、そして「昔はよかった」と懐古主義に走り老害となっていくフランクと自分を重ね合わせ、ある決断をするのだ。

まさしく、スコセッシがマーベルという存在を横目に自分の最後の立ち位置を決める姿にフランクというキャラクターを重ね合わせているのです。年を取ると、しがらみが増えて、自分の中で譲れないポイントが出てくる。しかし、一方で時代の流れに併せて決断することもできる。スコセッシの場合、Netflixというストリーミングサービスで映画を作るという決断をした。また、作劇もドラマシリーズのように40分毎にがらり物語が変わる2010年代的作劇となっている。この作劇は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』に始まり『The Goldfinch』と今の長尺映画の主流となっており、それに彼は乗っかったのです。

だからこそ、特に青春時代に『グッド・フェローズ』を始め『カジノ』といったスコセッシギャング映画を観てきた人にとって、いやいやスコセッシ映画ファンにとって本作は涙が出てくる。スコセッシの口から激動のギャング史、ハリウッド映画史を聞かされているようで、そのショット一つ一つが宝石のようにキラキラしていたのだ。またロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルといった大スターたちもすっかりおじさまになってしまい、そのずんぐりむっくりした身体で昔のようなギラギラした感触を取り戻そうとしているところを観るとこれまた涙が出てくる。

これは映画館で観て正解でした。

ちなみに、本作は『アイリッシュマン』というタイトルにも拘らず、アイルランド感ゼロじゃんと思うかもしれない。しかし、非常に上手いところでアイルランド要素が使われています。映画の終盤に出てくる緑のあるものに注目してください。緑はアイルランドのテーマカラーであります(『ブルックリン』でも効果的に緑色が使われていました)。イタリア・マフィアの集団に揉まれながらギャングとして生きた彼の中に眠るアイデンティティ、そして孤独を表すその緑色のあるものの使い方が非常に上手いので、これから観る人は注目してください。

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