【ネタバレ】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』完璧に70点を取ることの難しさ

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(2019)
Spider-Man: Far From Home

監督:ジョン・ワッツ
出演:トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ゼンデイヤ、コビー・スマルダーズ、ジョン・ファヴロー、ジェイク・ジレンホールetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

遂に公開されました『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』。MCUシリーズ前作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』とシリアスの極みだったのに対して、本作は完全なるヴァカンス映画。2000年代のスパイダーマンシリーズを彷彿とさせる、ゆるさと、いろんな社会問題に媚びない作風を予告編から感じました。実際に観てみると、それは概ね正しかった。本作の凄いところは完璧なる70点映画だったのだ。100点を取りにいって70点の作品に仕上がっている訳ではない。『エンドゲーム』の余韻を壊さないよう、傑作すぎず駄作すぎない塩梅で完全コントロールされていたのです。『スパイダーマン:ホームカミング』の時も感じたのだが、ジョン・ワッツ監督は、シリアスでスパゲッティコードのように複雑化したMCUという柵ジャングルの中で、飄々とスパイダーマンというキャラクターを動かしていく魔術師であった。

と同時に、毎回アメコミ民が「あれもネタバレ、これもネタバレ」とギャーギャー騒ぐものの、ちっともネタバレに感じない鈍感ブンブンですら、今回はネタバレ地雷原だとわかりました。ということで、本記事はネタバレ全開で書きます。また、『インフィニティ・ウォー』、『エンドゲーム』履修済み前提で書くので要注意。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』あらすじ


若手俳優のトム・ホランドが新たにスパイダーマン/ピーター・パーカーを演じ、「アベンジャーズ」を中心とした「マーベル・シネマティック・ユニバース」の世界に参戦した「スパイダーマン ホームカミング」の続編。「アベンジャーズ エンドゲーム」後の世界を舞台に、スパイダーマンこと高校生のピーター・パーカーが真のヒーローへと成長していく姿を描く。夏休みに学校の友人たちとヨーロッパ旅行に出かけたピーターの前に、元「S.H.I.E.L.D.」長官でアベンジャーズを影から支えてきたニック・フューリーが現れる。一方、ヨーロッパの各都市をはじめ世界各国には、炎や水など自然の力を操るクリーチャーが出現。世界に危機が迫るなか、ニックは「別の世界」からやってきたという男ベックをピーターに引き合わせる。監督は、前作に続いてジョン・ワッツが務めた。ベック役に「ナイトクローラー」のジェイク・ギレンホール。
※映画.comより引用

これはバチェラーパーティ映画だ!

「バチェラーパーティー」という言葉を知っているだろうか?新郎が独身最後の日々を同性の者と過ごし、風俗に行ったり、酒を飲みまくったりと独身生活でしかできないようなことをしてケジメをつけるアメリカの習慣のことだ。『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』がそれを扱った代表作として君臨しています。本作は、トム・ホランド演じるピーター・パーカーがアイアンマン亡き世界で、ヒーローとして大いなる力を背負う前に通過儀礼として遊びつくす様子が描かれる。非常にバチェラーパーティーを彷彿するものがあります。よくよく考えてみたら、トム・ホランドスパイダーマンは常に組織という大海原を漂流し、自分の意思で大いなる力をコントロールしていたことはなかったように思える。なんだかよくわからないまま、『シビル・ウォー』に参戦し、アイアンマンには絶妙な距離を開けられる。そしていつの間にかサノスとの戦争に巻き込まれ遥か彼方宇宙で戦ったはいいものの、指パッチンでもって5年間存在が消されてしまう。そして知らず知らずのうちに地球へ帰還してみれば、憧れのアイアンマンは鬼籍に入っていた。そう、彼はほとんど振り回されてばかりだったのです。それが、次期アイアンマンと世間から期待され、アイアンマンの形見であるハイテクメガネを継承され、自分は本当にヒーローとしてやっていけるのか?と悩み、自分の道、及びポストエンドゲームの軌跡を切り開いていく。まさにFAR FROM HOME(祖国から遠く離れて)な世界を本作は魅せてくれました。なので、MCUの10年史の締めくくりとして重要な作品となっている。

なんといっても、冒頭でホイットニー・ヒューストンの『I will Always love you』が流れ、アイアンマンやキャプテンアメリカなどといった劇中の故人に対して謝辞を送る展開は、「これでシリーズはひと段落しますよ」と言いたげだ。MCUを追っていた者は鳥肌ものでしょう。

しかしながら本作は『エンドゲーム』の余韻を壊さないように70点のクオリティをひたすらに維持します。特記すべきは、ピーター・パーカーがクラブ活動の一環で欧州を巡る話が軸となっているのだが、それがディズニーチャンネルで放送されるテレビシリーズみたいなノリとなっている。確かにピーター・パーカーが想いを寄せる相手MJ役のゼンデイヤはディズニーチャンネル製作のドラマ『シェキラ!』出身だ。恋に焦がれて、波のように寄せ合い引かれをチャラチャラと繰り返す様はアメリカの学園ドラマを思わずにはいられない。そして、ギャグがいちいち緩くて、時には滑ったりします。ネッド・リーズとベティ・ブラントのいちゃつきギャグがくどかったりします。ただ、この『エンドゲーム』との落差に油断していると、とんでもないトラップにあっと驚かされるのです。

ジェイク・ギレンホール起用という素晴らしい人選

本作は、ジェイク・ギレンホールがいなければ駄作になっていたであろう。彼がミステリオを演じたからこそ、ミスリードが上手く決まりました。指パッチンによって、多元宇宙の門が開かれ、エレメンタルズという新たな敵が出現する。それを制圧しようと、ミステリオが現れる。彼はドクター・ストレンジのように気高い装備に身を包んでいるのだが、表情には弱々しさがあり、親愛なる隣人のような人物である。ピーター・パーカーは、ヴァカンスがニック・フューリーにジャックされたせいでMJになかなか想いを伝えられない上、エレメンタルズとの戦いで功績を収めることのできない重圧から、アイアンマンの形見であるメガネを「僕は、相応しい人にメガネを与える橋渡し人なんだ」と勝手に解釈し、ミステリオにあげてしまうのだ。

しかし、実はミステリオこそ全ての黒幕で、アイアンマンによってクビにされたり業績を横取りされた仲間たちを集めて、ポストアベンジャーズなる組織を創ろうとしている野望に満ち溢れたヒーローだったのです。そして、彼は最新テクノロジーでエレメンタルズというモンスターをでっち上げていたことがわかってくる。ここで初めて、ミステリオを演じているのがジェイク・ギレンホールだということを思い出す。彼は『ナイトクローラー』でゲスなジャーナリストを演じた男だし、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』では狂ったデモリッションマン(=破壊屋)になった男だ。犬のように忠実そうな顔をしているが、一度牙を剥けば、狂気で観客の心を鷲掴みにする俳優なのだ。忠実さと狡猾さ両方の顔をでき、尚且つMCUに参戦していない俳優は彼しかいなかった。そこを的確に仕留め、起用していくあたり素晴らしいと感じました。

大いなる責任を背負うスパイダーマン

そんな『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は結局のところ、ピーター・パーカーがスパイダースーツに着せられている状態から、自らの意思で着込んでいき、大いなる責任を引き受けるまでの物語となっている。彼は、祖国アメリカから、遠く、それも時すらかけてしまった世界、いく先々修羅場のオデッセイを彷徨い、ミステリオが生み出した幻影の中で自問自答する中で、高校生という分厚い壁を破っていく。MJにも恋心を伝え、ヒーローとしての確固たる信念を創造する。

これは、社会人数年がたち、ようやく「社会人」としての自己を確立していくプロセスとよく似ている。だから、決して出来がいい作品とは言えない。なんなら、終盤のミステリオの焦り具合と、最後の最後でニック・フューリーはタロスの擬態でしたというトンデモオチは酷いと思うのだが、それでもブンブンの心には刺さりました。

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