【YIDFF2019】『エクソダス』アジア千波万波奨励賞受賞!アッバス・キアロスタミ息子も凄かった件

エクソダス(2019)
Exodus

監督:バフマン・キアロスタミ

評価:85点

 
イラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミの息子バフマン・キアロスタミの新作『エクソダス』は、YIDFF公式サイトでは小さく紹介されていた程度だったものの、1回目上映から話題を呼んでいた。今回、2回目上映に参加したのですが劇場立ち見が出る程の盛況となっており、口コミの凄さを感じたところであります。

山形駅徒歩5分のところにあるミニシアター《フォーラム》では、アジア千波万波プログラムが開催、アジアから未知なる秀作ドキュメンタリーが連日上映されてました。

この日の上映は、200席の座席が全て埋まり、立ち見が出るほどの大盛況。イラン映画の巨匠アミール・ナデリ監督も観にきていました。マニアックな作品がこうも盛り上がるところに嬉しさを感じます。さて、そんな『エクソダス』について書いていきます。

『エクソダス』あらすじ

アフガニスタンへの帰還を望み国境の出国管理施設に押し寄せる出稼ぎ労働者たち。家族や仕事、それぞれに事情を抱えた人々が織りなすレゲェ調「出イラン記」。
※山形国際ドキュメンタリー映画際公式サイトより引用

倫理の壁を越える/そこに見えるもの

まず、このバフマン・キアロスタミのキャリアについて紹介しよう。1978年テヘランに生まれた彼は、父と同じ道を歩む。日本では、実質今回が初紹介となる彼であるがキャリアは1996年の『Morteza Momayez: Father of Iranian Contemporary Graphic Design』からと長い。『10話』、『トスカーナの贋作』、『ライク・サムワン・イン・ラヴ』で父の右腕として編集に携わる傍ら、専らドキュメンタリーを製作し続け、2005年にはサダム・フセイン死刑執行確定後のイラン情勢を描いた中編『Ziarat』でナント国際映画祭スペシャル・メンションを受賞します。

さて、そんな彼が捉える現代の《出エジプト記》こと『エクソダス』は2010年代世界の話題の中心にあった移民問題の最前線を追った作品だった。

イランは、アメリカの経済制裁によって通貨の価値が大幅下落した。本作は、イランからアフガニスタンへ不法移民として渡る際の玄関口であるイミグレーションで起こる騒動をフレデリック・ワイズマンさながらの乱雑さで配置し、その均等なモザイクで問題を捉える作品だ。

監督に質問したところ、本作に登場するイミグレーションは人口調査をはじめとするパスポート審査を正規で受けていない者がアフガニスタンに入国するための施設となっており、正規ルートでパスポートを取得している者が、飛行機や陸路等一般ルートでアフガニスタン入りすることは禁じられている故、厳しく入国希望者を審査しているという背景がある。

2010年代、『ワールド・ウォーZ』、『アス』、『パラサイト 半地下の家族』と全てを失った移民が豊かさを求めて雪崩れ込んでくる様子を示唆したような作品が沢山作られている。また、『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』、『ヒューマン・フロー 大地漂流』のように、戦争紛争云々よりも、豊かさを求めて移動するニュアンスが強い経済移民の恐るべき生命力と不気味さを捉えたドキュメンタリーも話題となった。

移動する者は、故郷に愛想を尽かす。そしてどこでもいいから移動を希望する。《移動すること》が目的となっており、異動先に何をもたらすのかは二の次三の次なので、受け入れる側は慎重にならないといけない。下手に受け入れれば、デンマークのように暴動は起きる。また、EU各国のように、大きな負担となる。倫理と合理の狭間で蠢くこの《絶望の国のエクソダス》問題は厄介なのだ。

ただ、その厄介の究極の混沌に身を置く者を捉えた作品は意外とない。撮影許可を撮るのが難しいせいだろう。あるいは、被写体の肖像権的問題もあるだろう。

この『エクソダス』は、被写体の許可なく撮影するというドキュメンタリー作家として恐ろしいほどの倫理破りを行なっている。それだけに安易に賞賛してはいけない作品なのであるが、そうでもしなければ捉えることのできない最前線の問題や経済移民の心理というものがそこには存在した。

1日に700人、多い時で5000人が通過するこのイミグレーションには個性的な人が沢山やってくる。偽装結婚を働いてアフガニスタンへ行こうとする者、国に失望する者、時には女を求めて口八丁手八丁、書類不十分なのにイミグレーションを突破しようとするのだ。中には、会社の上司に無理やり連行され、アフガニスタンへ送られようとする者がいる。

ただ、イミグレーションの職員も人間だ。いつ、出国希望者に暴力を振るわれるのか分からない、法が整備されていないのでキャパシティを超える人々を選別しないといけない。これらの人々は厄介な問題を抱えているケースが多く、毎回面倒臭い議論をしないといけない。それだけに、声は高まるが、彼らにも良心はある。結婚証明書のない家族に対して、子どもの顔が父と似ていることを確認するだけで特別に通過させたりするのだ。

映画はイミグレーションの出国希望者サイドと職員サイドを切り返して映しているだけ、エピソードを並べているだけなのに面白いところにワイズマンの面影を感じ、またバフマン・キアロスタミの才能を感じました。日本公開して欲しい作品です。

なお余談ですが、本作の主題歌に使われている曲はボブ・マーリーの『エクソダス』です。中々ユニークですね。

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