【ネタバレ考察】『アス/US』滑稽なのに何故怖いのか?

【ネタバレ考察】『アス/US』滑稽なのに何故怖いのか?

注意事項:本作は9/6(金)公開のジョーダン・ピール最新作『アス』のネタバレ記事です。日本公開は先ですが、既にご覧になった方に向けて公開します。未見の方は、どうぞ9月までお待ちください。急いでブンブンの記事を読む必要はありません。映画館で驚いてから、この記事に戻っていただければと思います。ってことで、Filmarksやネタバレなし評では非常に描きづらかった、本作の構造について語っていきます。とは言ってもアメリカ社会に対する皮肉に纏わる部分は町山智浩がしっかり語ってくれると思うので、ここではコメディにしか見えないのに背筋が凍ってしまう本作の怖さのルーツについて迫っていきます。

ネタバレなし感想は《【ネタバレなし】『アス』俺たちに”US”はない》をご覧ください。

『アス/US』は滑稽なのに何故怖いのか?

本作は、『ゲット・アウト』に引き続き顔芸映画であります。冒頭、少女がミラーハウスに入り込む。そこに映るドッペルゲンガーが目をかっぴらく場面は、おもわず笑ってしまいそうになります。そんな冒頭が物語るように、本作で登場する怪物”US(=わたしたち)”は、魅力的な程に滑稽です。ルピタ・ニョンゴ演じる母の前に現れる”US”は、『呪怨』における佐伯俊雄のように人間とは思えない掠れ声で語りかけてくる。官能的な眼差し、そして攻撃すれば、ひらりと交わし、後ろ向きで歩いて襲いかかる様や車で轢こうとすれば、屋根に飛び乗り暴れる様を点で観測すれば思わず笑ってしまいます。しかしながら、これがとてつもなく怖いのです。

何故、こんなにも滑稽なのに怖いのかと考えた際に、「コントロールできぬ狂気と触れてしまう」恐ろしさに徹しているからだと感じた。我々は、お笑い芸人のコントを観る。そのコントで「ボケ」にあたる芸人は、狂人を演じ、そこにツッコミを入れるところで笑う。それは、客席という絶対に安全な場所、内面は善人であるお笑い芸人に対する信頼があるからこそ笑いが生まれる。コントで繰り広げられる光景が、もし貴方が偶然乗り合わせた電車内で起きたら?何気なく入ったカフェで巻き起こったらどうなるか?きっと恐怖慄き笑いは生まれないであろう。『アス』の素晴らしいところは、画面の外という安全な場所、そして『ゲット・アウト』で勝ち取った圧倒的観客との信頼関係が構築されているにも関わらず、観る者を当事者にまで引き摺り込み笑えなくさせていくところだ。

観客を恐怖のどん底に引き摺り込むギミックとして取り入れる『ボディ・スナッチャー』的事態の拡充がそれを存分に盛り上げてくれる。

多くの家侵入ものは、ミニマルな空間での恐怖に留まる。しかしながら、本作は家族がそれぞれの”US”と戦い、白人知人の家へ逃げ込むところにツイストを挿入することで広がりを魅せていく。実は”US”の侵略は、主人公一家だけの話ではなかったのです。他の一家も”US”に乗っ取られ、この知人は激しい攻防の末敗北していたことが明らかとなります。ここで、ジョーダン・ピールのクラシカルながらも最先端な演出がキラリと光ります。エリザベス・モス演じる妻が、”US”の侵入に怯え、AIロボットに「警察を呼んで!」と叫ぶ。しかし、AIは誤解し、N.W.A.の”Fuck the police”を爆音で流し始めるのです。ホラー映画あるあるの「電話をかけても通じない」を2010年代ライズさせた名シーン且つ強烈なブラックジョークになっています。そして、得体の知れない不条理な”US”に合理的なAIも負けてしまうというシーンを挟むことで、観る者は強烈な絶望感に包まれることでしょう。そして、主人公家族はテレビをつけるとアメリカ全土で”US”が増殖し、手を取り合ってこの世を支配していく様子が映し出されるところで、もう涙目です。

うさぎの描写について

『アス』では、うさぎが象徴的に使用されます。冒頭、カゴに閉じ込められたうさぎを収めているのだが、これはどういう意味があるのだろうか?ブンブンは元うさぎ飼いだっただけに、ある考察が浮かんだ。それは「内弁慶」だ。うさぎというのは内弁慶で、家の中では強がっているのだが、たちまち外に出ると、鳥や犬に怯え、へっぴりごしになってしまうもの。冒頭、沢山の檻が映し出される。沢山の白兎の中にポツポツと黒うさぎがいて、檻の中で快適に暮らしている。これは、まさしく富裕層で何不自由ない黒人家族を象徴している。一度檻が開ければ、白うさぎという異端に取り囲まれていることに驚くことでしょう。実際に、彼らは”US”によって檻は壊され、外を彷徨えば、沢山いる”US”に怯えている。そして、うさぎはアグレッシブな生き物だ。目の前に異性が、いれば時に同性であってもマウントを取るほど貪欲だ。本作で描かれる、獰猛で勢いに任せて他者を乗っ取ろうとする様子をうさぎに象徴させているとも考えることができます。

最後に…

実は、『ゲット・アウト』と比べると非常に難解な作品でした。町山智浩の解説がなければ、何故”US”は手を取り合って人々を包囲するのかといったことや、裏に隠されている政治的なテーマは全然形を掴めないものでした。それもあって批評家評、一般人評共に『ゲット・アウト』程盛り上がっていない気もするのですが、個人的にはこの飲み込みづらさこそジョーダン・ピールの新境地と言えます。『HER SMELL』、『Queen of Earth』で輝いていたエリザベス・モスの狂気性も十二分に映画のアクセントとして引き出せていたので、大満足でありました。
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