存在のない子供たち(2018)
Capharnaum
監督:ナディーン・ラバキー
出演:ナディーン・ラバキー、ゼン・アル・ラファ、ヨルダノス・シフェラウetc
評価:75点
第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたレバノン映画『存在のない子供たち』。カンヌ上映時、東京テアトルのNISHI THE WILDさんが絶賛していたので、てっきり配給も東京テアトルかなと思っていたのだがキノフィルムズが購入(一応、ヒューマントラストシネマ渋谷でも公開されます)。日本公開夏 シネスイッチ銀座他にてに決まりました。ブンブン、一足早く鑑賞したので感想を書いていきます。
『カペナウム』あらすじ
長編デビュー作「キャラメル」が高い評価を得たレバノンの女性監督ナディーン・ラバキーが、貧しさゆえに親からまともな愛情も受けることができずに生きる12歳の少年の目線を通し、中東の貧困・移民問題を抉り出した人間ドラマ。中東の貧民窟で暮らす12歳のゼインは、貧しい両親が出生届を提出していないため、IDを持っていない。ある日、ゼインが仲良くしていた妹が、知り合いの年上の男性と強制的に結婚させられてしまい、それに反発したゼインは家を飛び出す。仕事を探そうとしたがIDを持っていないため職に就くことができない彼は、沿岸部のある町でエチオピア移民の女性と知り合い、彼女の赤ん坊を世話しながら一緒に暮らすことになる。しかしその後、再び家に戻ったゼインは、強制結婚させられた妹が亡くなったことを知り……。2018年・第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。
※映画.comより引用
カンヌ受賞、アカデミー賞ノミネートと快挙を成し遂げた作品であるのだが、ブンブンは観る前から地雷映画なのではと不安でした。というのも、仏批評家の間では有力メディアがこぞって低評価をつけていたのだ。リベラシオンでは物語を正当化するのに奮闘しているだけだと斬り捨てており、テレラマでは奇抜な脚本が煩わしいと嘆いている。カイエ・デュ・シネマでは本作を貧困ポルノと認定している。
確かに本作は、非常に際どい作品だ。
いきなり、少年が原告として法廷に立ち上がるショッキングな描写から始まる。どうやら、彼は原告であり被告でもあるようだ。自分の両親がしっかり子どもたちの面倒を見ないので、親を訴えているのだが、どうもこの少年自体が犯罪を犯しているらしい。そして法廷の証言と共に、そこに到るまでの過程が描かれていく。そして、この少年の回想録パートが前半厳しいものを感じた。
『フロリダ・プロジェクト』のアレクシス・サベ以上に、少年の目線で激しく動くレバノン出身の撮影監督Christopher Aounの腰が心配になってきます。『カペナウム』が捉えるのは少年の目から見た、レバノンの古今の凄惨さ。それは戦争によるものではない。例えば、ゼインは家出をし、エチオピア移民の家に転がり込む。その移民は、貧しさ故にゴミを漁って食事を入手しようとするのだが、「お前にあげるもんはねぇ、出ていきやがれ」と追い出されてしまう。そして髪を切って鬘用に提供し、僅かなに銭を稼ぐ。裁判では、少年を擁護しようとするのだが、裁判官に「ちゃんとしたアラビア語で話せ」と言われてしまう。そんな彼女の子守としてゼインは暮らし始める。赤子のオムツを取り替え、赤子を鍋の手押し車に乗せて町を歩く。すると、如何にレバノンの大人たちは不寛容であるかが見えてくる。意地悪で、子どもたちなんかに目もくれない。仕事をしようにもIDがないので全然職にありつけない。だからこそ、長い旅の末家に戻った時、ゼインに宿る憎しみが増幅されていく様に説得力があります。
確かに、この作品は中東枠で評価されることを拒んでいるように、極端な展開が待ち受ける。
しかしブンブンには心には刺さった。
場所は違えどブンブンはキューバのスラムを見て、あまりのショックにカメラを止めるのを諦めた。ゴミや糞尿が散乱し、砂塵が舞う中、人々は粛々と日常を過ごす。子どもたちは放置され、路傍に落ちたモノで暇をつぶす。あの衝撃の記憶がフラッシュバックしたのだ。いや、これは貧困ポルノかもしれないが、それでも我々が見えているようで見えていないレバノンの視点をしっかり描き切った良作だと思います。
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