【ネタバレ酷評】『お米とおっぱい。』は『十二人の怒れる男』が如何に映画的かを教えてくれた

お米とおっぱい。(2011)

監督:上田慎一郎
出演:高木公佑、鐘築健二、大塩武、山口友和、中村だいぞうetc

評価:15点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

カメラを止めるな!』で一躍スーパースターになった上田監督は過去に長編作品をとっていた!したまちコメディ映画祭in台東のイメージが強いので短編しか撮っていないと思っていたのだが、実はしっかり長編で下積みしていました。

小津安二郎が『お早よう』で日本映画屈指の劇中オナラ回数を誇っていたのに対し、本作はとにかく「おっぱい」を連呼する30秒に1回ペースで「おっぱい」を叫ぶ前代未聞な作品だ。それが地上波で流れる怪奇現象が起きたので観てみました。そしたら…あまりの酷さに絶句しましたので今日はネタバレありで報告していきます。

『お米とおっぱい。』あらすじ


「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督が2011年に自主制作で手がけた長編作品。互いに名前も知らない5人の男たちが、ある会議室に集められる。彼らには「おっぱいとお米のどちらかがこの世からなくなるとしたら、どちらを残すか?」という議題が与えられ、全員一致の結論が出るまで議論をしなければならない。わけもわからないまま、とりあえず議論を始める5人だったが……。2018年6月に「カメラを止めるな!」が劇場公開された際に、特別上映作品としてイベント上映された。18年12月15日に「カメラを止めるな!」ソフト化にあわせて、本作のDVDも発売される。
映画.comより引用

『12人の優しい日本人』が如何に傑作かわかる地雷作

正直、今年ワースト級の駄作だ。本作には映画的なものはありませんでした。上田監督が意識したであろう『12人の優しい日本人』はまだ映画的だったし、なんなら更にその元となった『十ニ人の怒れる男』の陰鬱な室内の空気感や、ナイフを突き立てるシーンのドラマチックな演出は演劇では表現できないものがある。

「お米とおっぱい、この世からどちらかを残すならどっち?」

という命題。全員一致の決が出た時、10万円の給料が支払われる。簡単に思われた会議が一人の「おっぱい」原理主義者によって混沌を極めるという極めて演劇的内容を映画的どころか演劇としても粗悪なものとなっている。

演劇的映画を《映画》として撮るメリットは何だろうか?演劇は、観客と役者の距離が近い。その場で生み出される空気というものが最大の魅力的だ。それは映画館での一体感とはまた違った空気を醸し出している。そんな演劇を映画にわざわざ翻訳する。そこには、《映画》でしかできない視点がなければいけません。『12人の優しい日本人』では、巧みなカメラワークで個性的な登場人物の特徴を捉える。それによって、「ジンジャーエール」のギャグがピリッと刺激的な笑いとなって観客に押し寄せてくるのです。『十ニ人の怒れる男』は有名なナイフ描写をはじめ、被写体へのフォーカスの深度でもって、白熱したディスカッションが観客の心を鷲掴みにして離しません。では、『お米とおっぱい。』にそれはあったのだろうか?確かに、カメラは動く、机やキャラクター、様々なものにフォーカスを当て、演劇では体感できない《視点》を描いている。しかしながら、全く興味を持続させることができてません。というのも、中学生が議論ではなく自分の論を押し通そうとして、対話が平行線になってちっとも進まないのだ。意見が覆される面白さがあるからこそこの手のディスカッション劇は面白い。『十ニ人の怒れる男』では、全員一致の有罪判決になりそうなところから、一人また一人と無罪派を増やしていく様が面白かった。しっかり論理的に議論し、牙城が崩されていく過程が面白かった。そういったものは、本作にはなかったのです。だから、いくらキャラクターやモノにフォーカスを当てても、全く興味を持つことができませんでした。

女性の視点がないことが最大の汚点

この手のディスカッション劇には多様なキャラクターが必要だ。確かに本作では、不良にひょうきん、まとめ役に真面目キャラと個性を集めているが、本作には決定的な人物配置のミスが存在しています。それは《女性》キャラクターだ。本作は10万円の賞金目当てで会議に参加する者の話だ。女性がいたっていいじゃないか!お金目当てならどんなことをする女性がいたっていいじゃないですか!しかも、女性が一番おっぱいを理解しているはず。女性目線のおっぱい観があるからこそ、議論が複雑化して解決が困難になり、それを突破する面白さが生まれてくるのに、女性不在で「グラビアがなくなっちゃう!」と叫ぶ野郎の痴話話を映すのはただただ嫌悪しか生まれません。ポリコレ云々の話ではないが、本作には決定的に女性目線がかけていました。

カメラの位置はそこでいいのか?ラストはあれでいいのか?

また、くだらない会議をカメラに撮られていることに気づくシーンがあるが、あのカメラの位置がおかしい。くだらなさを強調するなら、第四の壁を破って語りかけ、我々の見ている世界はカメラ越しにあることを強調しないといけない気がした。

そして一番憤りを感じたのはラストである。結局平行線を突き進む議論の終着点は「お米もおっぱいも好き」というものだった。もう議論は破綻である。お米かおっぱいどちらかしか生き残れない極限状態で、どちらを選ぶかというのがお題なのに、両方活かすという本末転倒な解答をこの作品は用意しているのだ。これで決定的に2019年ブンブンシネマランキング ワースト部門ランクインは確実なものとなりました。

就活映画として観ると若干面白いよ

本作は駄作だが、就活生、特にグループディスカッションを控えた就活生には観てほしい作品だったりします。短時間で、おっぱいやお米が消えた際の経済効果を見積もる、ファシリテーターを如何に奪取していくか、グルディスのテクニックが詰まっています。一応、最後にフォローだけしておきます。まあ、上田慎一郎監督は、他の映画監督に比べて純粋に映画を愛している方なので、もうこれ以上叩くのはやめておきます。


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