【アカデミー賞特集】『女王陛下のお気に入り』ランティモス版『イヴの総て』がアカデミー賞最多ノミネートするとは!!

女王陛下のお気に入り(2018)
The Favorite

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルトetc

評価:75点

誰が予想できただろうか、アカデミー賞最多ノミネートに物語性を徹底して廃したVOD配信の白黒映画とヨルゴス・ランティモスのコスチューム・プレイが選ばれることに。今回鑑賞したランティモス最新作『女王陛下のお気に入り』は『Roma/ローマ』と並び、第91回アカデミー賞に置いて9部門10ノミネート(助演女優賞で2部門同時ノミネート)されました。いびつなフィックス撮影が特徴的な『籠の中の乙女』、童貞は動物にされちゃうぞ☆映画『ロブスター』のあのランティモスが到底大衆性とアート性のバランスが問われるアカデミー賞にノミネートされるとは考えにくいのですが実際はこうなりました。正直予告編を観る限り、Not for meだなぁという気しかしませんでしたが、ブンブンの師匠である寺本郁夫さんが3度試写会で鑑賞し、2018年のベストテンにて2位に位置付けました。また、映芸ジャーナルにて

閨房の支配による権力の強靭と脆弱を同時に暗示するランティモスならではの微妙で多義的なラストは、力の均衡のぎりぎりの危うさを、耐えがたいほど強烈に伝えてくる。

とキレッキレの文体で書いていた。これは観ないといけないと感じ、初日に観てきました。

『女王陛下のお気に入り』あらすじ


「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」で注目を集めるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、18世紀イングランドの王室を舞台に、女王と彼女に仕える2人の女性の入り乱れる愛憎を描いた人間ドラマ。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞し、女王アンを演じたオリビア・コールマンも女優賞を受賞した。18世紀初頭、フランスとの戦争下にあるイングランド。女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を動かし絶大な権力を握っていた。そんな中、没落した貴族の娘でサラの従妹にあたるアビゲイルが宮廷に現れ、サラの働きかけもあり、アン女王の侍女として仕えることになる。サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていた。戦争をめぐる政治的駆け引きが繰り広げられる中、女王のお気に入りになることでチャンスをつかもうとするアビゲイルだったが……。出演はコールマンのほか、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン、「ナイロビの蜂」のレイチェル・ワイズ、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のニコラス・ホルトほか。
映画.comより引用

映画史の底をリノベーションする第91回アカデミー賞

今年のアカデミー賞は映画史の底を掘り起こし、2010年代に見合う形でアップグレードさせたような作品が多い気がする。『ROMA/ローマ』はサイレント映画時代の純粋な好奇心を抽出したような作品だし、『アリー/スター誕生』は何度もリメイクされている『スタア誕生』をロックミュージシャンに置き換え、従来できなかった至近距離で主人公の内面に迫る手法を採用することで《今》この映画が存在する意義を強調させた。その文脈で語るのであれば、『女王陛下のお気に入り』はランティモス的肉体と異様なカメラワークでコーディングした『イヴの総て』と言えるであろう。『スタア誕生』が今リメイクされても古びないのは、アメリカ人が心に持つ理想的な物語が根底にあることだ。弱肉強食こそ総てであり、運や夢を掴む、例え愛する人が朽ちていってもそれを踏み台にして勝者になることこそがアメリカなのだという哲学が物語に潜んでいるからこうも愛されていると考えることができる。そう考えた際に、何故ランティモスの新作がアカデミー賞最多ノミネートを勝ち得たのかが分かってくる。本作は、根底に『イヴの総て』があります。『イヴの総て』とは1950年にジョセフ・L・マンキーウィッツが制作した作品で、アカデミー賞史最多ノミネート数(14ノミネート)を記録しています。田舎者の女優イヴがスター街道を上り詰めていくうちに、仲間やライバルを容赦無く蹴落とし、権力を味方につけまくるという内容となっています。

本作は全く同じストーリーです。田舎者のアビゲイル・ヒルが城に入る。最初は、姑ポジションのレディ・サラにいじめらているのだが、アン王女のツボを押さえていくうちにドンドン権力を集めていき、サラを蹴落としていく過程がどす黒い下ネタと笑いによって演出されています。そして、権力を集約していく際に時折エマ・ストーン演じるヒルが魅せる恐怖に引きつった顔というのが、『イヴの総て』における自分がスター街道をあがる際に他者を蹴落としたように、女優の卵が自分を蹴落とそうとしているのではと感じ怯えるイヴの姿とシンクロしていきます。

ただ、本作はさすがはランティモスただの『イヴの総て』リメイクだったりコスチューム・プレイだったりすることはない。広角レンズで歪に空間を撮ってみせる。これにより、観客は意識的に歪んだ世界に隠された心理を掴もうとする心が擽られます。そこに彼の十八番であるアヴァンギャルドなダンスが絡んでくる。肉体と肉体の交差が政治的裏工作の妙と絡み合い、他の映画では感じることのできないハーモニーを味わせてくれます。

そして、傀儡国家のようにヒルによってコントロールされていく王室は、今のアメリカ社会に通じるものがあるのではとうっすらと感じさせる。『バイス』がジョージ・W・ブッシュを傀儡的に裏で動かしたディック・チェイニーを揶揄し、ドナルド・トランプ政権の滑稽さを煽るスタイルをとっていたように、『女王陛下のお気に入り』も18世紀イングランドで起きていた出来事から、くだらないトランプ政権に臭い泥を投げつけたのではないでしょうか。

こうも政治的で一見重苦しそうなコスチュームプレイなのですが、それでもクスリと笑わせてくれ、観客のインスピレーションを掻き立てる。これは確かに凄い映画であった。

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