チワワちゃん(2019)
Chiwawachan
監督:二宮健
出演:門脇麦、成田凌、寛一郎、玉城ティナ、吉田志織etc
評価:90点
先日、親友と映画を観に行きました。当初、シャマランの『ミスター・ガラス』だけにするつもりだったのだが、岡崎京子好きな親友が『チワワちゃん』も観るというので、急遽鑑賞しました。全くノーマークで、予告編すら観ていなかったのですが、これが翔んだ大傑作でありました。
『チワワちゃん』あらすじ
チワワちゃんが死んだ!何者かにバラバラにされて棄てられていた!チワワちゃんってどんな人だったっけ?パリピなグループのミキは、チワワちゃんの面影を求めて、仲間に会い話を聞くのだが…日本にも『スプリング・ブレイカーズ』をできる監督がいた!
『MATSUMOTO TRIBE』や『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』で注目を浴びた新気鋭・二宮健が、門脇麦、成田凌、寛一郎、玉城ティナと今注目されている役者を集めて岡崎京子の同名漫画に挑んだ意欲作。これが驚かされました。日本にも『スプリング・ブレイカーズ』のようなサイケデリックながらも、若者の孤独を深く深く掘り下げて描ける作家がいた事に。一見すると、中島哲也を思わせる映像ゴリ押し作品なのだが、彼の作品と比べ、しっかりキャラクターや物語と向き合っており、それが映画に奥行きを与えている。いきなり、とてつもなくクールなオープニングが観客に襲いかかる。サイケデリックな、映像のフラグメントが押並べられて行く。キラキラしているのだが、退廃に溺れていく若者が表現されている。そんな若者の前に、《チワワちゃん》が現れる。人懐っこくって、本当にチワワにしか見えない。そんなチワワを演じた吉田志織は、『心が叫びたがってるんだ。』しか出演していない新人女優だ。そんな彼女を発掘し、冒頭だけで魅力を120%引き出す監督の技巧に魅了される。
そして、金のないパリピ軍団に「あそこに600万円あるぞ!」悪魔の囁きが降りてくるや否や、チワワちゃんはお魚くわえたどら猫のように、建設会社の男が賄賂用に持ってきたその金を強奪して逃走する。そこでタイトルが出てくる。あまりのハイセンスなオープニングに胸ぐらを掴まれました。そして、チワワちゃんがバラバラに切断されたニュースと共に本題となる。
ミスリードする人が多そうなので、先に語っておく必要がある。本作は、ミステリーではありません。チワワちゃんの死の真相を暴くのが重要ではなく、チワワちゃんの死で持って青春の終わりを迎えたパリピの喪失感、虚無な世界を描く事に注力した作品なのだ。だから、劇中意味ありげな事件や闇がチラチラ見え隠れするのだが、結局それがなんなのかわかりません。それを明かす事には意味がなく、そういった事件に無関心になる若者像が重要となっているのだから。
過ぎ去りし青春の退廃
本作で描かれる退廃は、大学デビューしたての人が、勉強なんて知らん知らんと毎日飲み会どんちゃん騒ぎするのだが、段々と生産性のない現状に興醒めしていって、正気を取り戻す様子を捉えようとしている。主人公ミキは、パリピな世界に足を突っ込み、インスタグラムでフォロワーも稼ぎ、アマチュアモデルとして活動している。だが、彼女は自分の容姿に強いコンプレックスを持っている。そんな彼女の前にチワワが現れる。彼女は、頭が悪くて、KY。なんだけれども、底抜けに明るく人懐っこい性格故、周りの人はドンドン彼女の虜になっていく。チワワは、ミキにも懐くのだが、ミキはどこか嫉妬を抱いている。そして、段々と自分の世界がチワワに乗っ取られていく様子にもどかしさを覚える。だが、ふと嫉妬の対象がいなくなると、途端にポッカリ自分の心に大きな穴が空いてしまう。それを埋めるために、過去を集めていく。
パリピが祭から醒め、現実を見始める瞬間というのは、自分が中心にいると思っていた世界が瓦解した時だ。自分が「その他大勢」に過ぎないと分かった時の絶望感が現実に引き戻す。でも、現実を見たとこで、今まで歩いてきた轍は虚無でしかない。アイデンティティがなくて、苦しみ、自分らしさを求めるために過去の芳香にしがみつこうとするのだ。ミキが、バラバラになった仲間たちに会いにいくと、みんなそれぞれ人生のベクトルを定めていることが分かる。ペットショップで働いていたり、採用面接に行くためビシッとネクタイを整えていたりする。
観客は、前半の狂乱に包まれた祭のキラキラを知っているから、廃墟となり朽ち果てた世界に胸が締め付けられそうになるのだ。どこかで聞いたことありませんかこんな話?そう、『さらば青春の光』です。あの作品も、不良のままでいようとした者が気がつけば、周りに仲間がいなくなり寂しいおもいをする話でした。意地悪な事に、この映画は結局チワワちゃんの死の真相なんてこれっぽっちも分からない。その代わり、輝ける青春の象徴として君臨するチワワがあまりにキラキラしていて、失われた青春の姿に涙が溢れました。
ギャスパー・ノエの『CLIMAX』も観て欲しい
本作は、あまりに癖が強いのでFilmarksでは賛否が分かれています。もちろん、嫌いな人はとことん嫌いな作風だとは思う。そして、もしこの作品が気に入った人には、今年日本公開のギャスパー・ノエ最新作『CLIMAX』に是非挑んで欲しい。あれもサイケデリックな空間で朽ちていく者の青春を描いていて、素晴らしい作品でした。
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