【ネタバレ考察】『ホワイト・ボイス/SORRY TO BOTHER YOU』のラップシーンについて考える

ホワイト・ボイス(2018)
SORRY TO BOTHER YOU

監督:ブーツ・ライリー
出演:アーミー・ハマー、テッサ・トンプソン、ラキース・スタンフィールド、テリー・クルーズ、スティーヴン・ユァンetc

評価:40点

ヒップホップグループThe Coupのブーツ・ライリー初監督作にして、サンダンス国際映画祭で絶賛された謎の映画”SORRY TO BOTHER YOU”。今年のベストテンに選ぶ米映画メディアもチラホラいる本作を鑑賞してみた。

『SORRY TO BOTHER YOU』あらすじ

仕事にあぶれた黒人青年キャッシュは、電話セールス会社に就職する。最初は、まったく受注に繋がらなかった彼だったが、隣に座る先輩のアドバイスを実践してみたら面白いように受注を決めていく。しかし、この会社にはある秘密があった…

サイケデリックな皮肉が黒ーい笑いを誘う

”SORRY TO BOTHER YOU”とは、「お忙しいところすみません」というセールストークの枕詞。

主人公のあだ名がキャッシュ(現金)な青年は職を探している。ようやく、電話セールスの会社に採用される。最初はなかなか受注に結びつかなかったのだが、友人のアドバイスにより、内秘めたセールスの鬼が呼び覚まされるが、、、という話。

端的にいえば、スパイク・ジョーンズが『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を撮ったような作品だ。シュールなシチュエーションが全編を包む。恋人とベッドで一時送っていたら、いきなり壁が開き、通行人に丸見えとなる。電話セールスをするシーンでは、デスクが地面に沈み電話の先の家に転送される。

サイケデリックでごちゃごちゃして、ハイテンションな前半に対しガラリと作風を変え混沌としたサスペンスとなる。

そんなシュールな世界に皮肉を入れていく。その社会派とユーモアの塩梅の良さが、『ゲット・アウト

』や『ブラッククランズマン

』のようにアメリカでウケたのであろう。ただ、その皮肉がどうも浅い。

例えば、電話セールスが上手くいかないキャッシュに対して、同僚がこう言う。

「白人の声(white voice)で話すと良いぞ!」

という。声による差別を皮肉っている。

そして、その助言によりキャッシュは成功を収めていくのだが、声の下りは映画が進むほどどうでもよくなる。

また、キャッシュの彼女がゲリラアートに傾倒している下りがあるが、『ブラック・クランズマン』と比べると、集団と社会の関連性が斬り込めていない気がした。恐らくバンクシーをモチーフにしているのだろう。バンクシーはゲリラアートでもって社会に問題提起する。この前のシュレッダー事件は、アートと価値についての問題を人々に叩きつけた。本作のゲリラアートはただの愉快犯にしか見えなかった。

ラップのシーンのようなキレのある皮肉こそあれど、ハリボテ見かけ倒しな映画に見えてしまった。

ラップシーンはすごかった!

ただ、一箇所とても素晴らしい皮肉が込められたシーンがあるので語っておきたい。それは、キャッシュが成功者になりパーティーモンスターとなっていく場面。豪勢なパーティで主役のように振る舞うキャッシュに、周りの白人が「あんた黒人でしょ?ラップできるでしょ?魅せてよ!」とせがまれて、大勢の前でラップを披露するのだが、全然歌えない。悩みに悩んだ挙句「Nigger shit, Nigger shit, Nigger Nigger Nigger shit!」と叫び場を盛り上げる。

これは監督が、ヒップホップグループ、それも政治的社会的メッセージを歌に込めるThe Coupのブーツ・ライリーということを考えると凄まじいシーンだ。ラップというのは、いや歌というのは何かしらのメッセージが込められている。メッセージ無くして歌えない。キャッシュはセールスのプロ、この映画のようにキラキラしているのだが、中身は空っぽ。「黒人でしょ?」というバイアスによる煽りにすら何も感じない。社会に対する怒りも悲しみも何もないのだ。周りは差別に囲まれているのに。そして何も歌えない彼の口から出たのは、黒人に対する最悪な侮蔑の言葉「Nigger shit(黒ンボクソ野郎)」だった。

監督が本作に込めたメッセージがもっとも強烈に伝わってくるシーン。思わず爆笑してしまうが、その真理に怒りと悲しみが生まれてきます。

結局、映画としてはあまり好きではないのですが、2018年アメリカ映画界にとって重要な1本でした。

※Amazon Prime Videoに『ホワイト・ボイス』という邦題で配信中

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