絵文字の国のジーン(2017)
The Emoji Movie
監督:トニー・レオンディス
出演:T・J・ミラー、ジェームズ・コーデン、アンナ・ファリス、マーヤ・ルドルフスetc
評価:40点
さて年末の追い込みだ!見逃シネマと題して、今年見忘れた作品を消化しているブンブン。もうすぐ『シュガー・ラッシュ:オンライン』が公開されるので、最悪映画の祭典ラジー賞で4冠を制し、2月にひっそり日本公開された『絵文字の国のジーン』を観ました。日本では、戦艦や刀剣いった無機物を擬人化する文化があるが、アメリカでは感情やゲームの中の世界といった概念を擬人化する文化がある。その一つの流れ、というよりかは『シュガー・ラッシュ』に対抗して作られたと思われる絵文字が主人公の映画がこれだ。アメリカで公開するや否や、批評家も一般客もボロクソに貶した地獄のような作品にブンブンは挑んだのであった…※ネタバレ記事です。要注意!
『絵文字の国のジーン』あらすじ
絵文字が暮らす世界テキストポリス。微妙な顔「ふーん」ことジーンは、仕事場に向かう。今日は初出勤だ。人間界の人々がスマホで、絵文字を送る際、テキストポリスでは専用機械で自分の全身がスキャンされる。各絵文字は自分が与えられた表情を粛々と維持することで、人間界にメッセージをお届けしている。「ふーん」は初出勤、緊張のあまり大失敗してしまう。それにより、狂気の笑顔スマイラーに消されそうになってしまう…意外と面白い
本作は、どう考えても劣化版『シュガー・ラッシュ』なのだが、そのポンコツさが意外に面白く、ブンブンの顔は「ふーん」になりませんでした。なんといっても、この映画の最大の魅力は、ディストピアに気づけぬ者の滑稽さにあります。テキストポリスでは、皆生まれつき与えられた表情しか許されていない。それ以外の表情をすると、役割が違うと周囲から冷徹な目で見られてしまいます。そんな国家を牛耳るのは、笑顔を与えられたキャラクター、スマイラー。徹底して自分の役に徹しているので、怒っている時も満面の笑み。そして国のトップとして、徹底的にルールを厳守する。少しでも治安を見出す者がいれば、クビにする。場合によっては、存在を抹消するのだ。そして、彼女の周りにいる取り巻きは、意識が低く、スマイラーの前ではYESマン。YESマンだが、自分の意見を持っていないので、騒動が起きたら、やんわりとスマイラーの顔色を伺うだけだ。行きすぎた監視国家の成れの果てを十二分に魅せてくれるので、ディストピア映画好きには心躍るものがあります。
そして、ポリコレやオマージュなどを完璧に物語に組み込むピクサー、ディズニー映画と比べ、SONYの滑りまくっているギャグとネタが実に滑稽でゲラゲラ笑いながら楽しめます。本作では、Dropbox等の実在のアプリケーションやIT用語がたくさん出てきます。しかし、その多くが他に代替可能なほど薄っぺらい引用になっている。例えば、Twitterは青い鳥が飛んでくるだけだったりします。また、『シュガー・ラッシュ』に愛を捧げているのか、ハイタッチと言うキャラクターが無意味にシュガー・ラッシュ!と連呼する場面があったりします。
もちろん、多少は意味を持たている描写もある。「ふーん」が自分のバグを治してもらうべくハッカーを探す。そして、闇アプリの中に入り込みトロイの木馬からハッカーを紹介してもらうという場面。トロイの木馬とは、一見健全そうなアプリに見えるが、その裏で個人情報を取得したりするコンピュータウイルスの一種だ。一見健全そうなアプリの内部に「ふーん」が入り込み、トロイの木馬を使って情報を抜き出し、非正規アプリを利用可能にするという意味の《ジェイルブレイク》と出会い、スマイラーによる追跡をアプリの狭間やバグを使って切り抜けていく。ここは、確かに考え抜かれた脚本だとは思う。しかしながら、ちと分かりづらいネタだ。
その癖、キャンディークラッシュの紹介描写についてはしっかり描く(ステマってレベルじゃねぇぞ…)。ピコ太郎が踊り狂っているYoutubeを長々と写したりする。力を入れるところ間違っているのではないだろうか?
そもそも、子どもの教育に悪い
さて、ある程度のポンコツさは想定内だし、今となってはそれを楽しむ映画であるのだが、この映画の功罪は、子どもに決して魅せてはいけないところにある。そもそも、上記のトロイの木馬描写。よくよく考えたら、子どもがジェイルブレイクを行い、非正規アプリケーションをインストールしたら、その中にトロイの木馬やらウイルス、マルウェアがうじゃうじゃいて、不具合を起こし日常生活に支障をきたすという内容だ。そもそも、人間目線でみたら完全なダメな話だ。
そして、この作品は冒頭で人間界の主人公は歩きスマホはするし、スマホ中毒故、勉学に身が入らない様子が克明に映し出される。そして、好きな子には、スマホを使ってでしか想いを伝えられない。同じクラスメイトなのに。これって健全なのだろうか?しかも、スマホがおかしいからと、いきなり初期化を行おうとする。それも秒でケータイショップの予約をし、バックアップもなしに初期化をしようとするのだ。おいおい、大切なデータあるでしょう。そして、驚くべきことに、初期化途中で、急に主人公は「やっぱやーめた」と初期化途中のスマホをケーブル抜く形でキャンセルするのだ。これにより、テキストポリスの住民は存在を消されなくて一安心する。感動のクライマックスを迎える。
おい、製作者よ。誰も疑問に思わなかったのか?学校で教わらなかったのか?初期化途中のスマホ、ケーブル抜いたら壊れるということに。それこそ、パソコンも電源を切る時は、ちゃんとシャットダウンの手続きを行い、無闇に電源ブチ切りしないでしょう。なんて乱暴な真似をするのだ。しかも、根本的な話だが、この絵文字ってOS標準なんだよね。LINEスタンプとか、写真とか、そういったものならともかく(まあクラウドにあがっていたりするものも多いのだが)、スマホを初期化することで、絵文字が死を覚悟するってそもそも無理があるのではないだろうか?
結局、「ふーん」は自分のアイデンティティをひけらかすように、想定外の表情をしまくるイレギュラーな絵文字として、人間界に主張し、人間界の主人公はそれを受け入れる。そして特に努力もせずに女の子と結ばれる。リアじゅう爆発しろとはまさにこのことだなと思いました。結局、ディストピアものとしてはそこそこ面白いが、この映画を褒めることで、子どもたちに絶大な悪影響を与えてしまうのでブンブンはR-18映画として、この映画をおすすめしようと思います(ただ、逆に反面教師としてこの映画は使えるかもしれない。ブンブンがもし情報科教員になったら、この映画を課題とし、テストで「この映画の人間界の主人公のスマホ運用について問題点を5つ挙げなさい」と生徒に記述させるだろう)。
無論、『シュガー・ラッシュ:オンライン』はこんな失態を犯さないと思うので、楽しみだ。
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