紙の花(1959)
Kaagaz Ke Phool
監督:グル・ダット
出演:グル・ダット、ワヒーダ・レフマンetc
評価:70点
今年はインド映画に力入れる!と言いながらも、最近はフィリピン映画に浮気中のブンブンです。そんなブンブンの弛んだ精神に喝を入れるかのごとく、動画配信サイトMUBIがレアもののインド映画を提供してくれた。その名も『紙の花』だ。日本ではプレミアがついており、なかなか手にする機会がない、インド映画史初期の巨匠グル・ダット。ボリウッドの娯楽映画の繁栄に一躍買った人物だ。日本でインド映画と言うと、サタジット・レイのアートアートした作品や、ラジニカーントの映画を思い浮かべるが、これらはボリウッド映画とは言い難い。本当のボリウッド映画はムンバイで製作されたヒンディー語の映画を示す(『ムトゥ 踊るマハラジャ』はコリウッド)のだ。なので、大昔のボリウッド映画を観たいとなったら、グル・ダットを尋ねよと言うわけだ。
っと言うことで、観てみました。
『紙の花』あらすじ
人気映画監督のスレーシュは、私生活では妻と冷え切っていて孤独を抱えていた。そんな中、シャンティと言う女性と出会い、自分の映画の主演に抜擢する。それが悲劇の始まりだった…グル・ダットの遺作はハリウッドへの愛に溢れたミュージカルだった
本作のオープニングが、やけにハリウッドクラシック映画の匂いを醸し出しており、「アレッ?観る映画を間違えたかな?」と不安になる。そして、大きな字で、《CINEMA SCOPE》という文字と《20th Century Fox》という文字が浮かび上がる。そう、これはアメリカの手が入ったインド映画だったのだ。そして、グル・ダット監督のハリウッド映画に対する愛に溢れた、そして自分の人生を走馬灯のように振り返る映画であった。
まず、この作品は老いた映画監督がトボトボと誰もいない撮影所に入るところから始まる。そして、「私は愛の世界を見てきた」「貪欲な世界にいた」と自分の人生を歌にして、虚無の撮影所から過去を覗き込もうとする。この一連のシーンが持つエモーショナルな塊が、観る者の心を鷲掴みにする。話としては、かつて名声を手にした男が、妻を失い、孤独を癒すように別の女に手を出してしまったが故にどんどん落ちぶれていくよくある話。正直、2時間10分もかけて描くには冗長すぎる気がする。監督の個人的な想いを吐露する自慰映画なので仕方がないのだが、中だるみが結構きつい。
それでもこの映画が面白いのは、往年の映画技術を自分のモノとして使いこなすグル・ダットの超絶技巧が素晴らしいところにある。冒頭のミュージカルパートはもちろんのこと、中央に差し込む光、二人の人物が多重露光によって分身していく様の美しさや、バズビー・バークレーの映画のように幾何学的動きをするコップと時計の重ねが織りなす場面等魅力的なシーンの連続に舌鼓を打ちます。
結局、グル・ダット入門としては、彼の過去作を観ていないと語りにくいところがある作品なのだが、ボリウッドミュージカルの原石を観ることができてよかったです。
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