ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を※映画祭題:ブラ物語(2018)
The Bra
監督:ファイト・ヘルマー
出演:プレドラグ・”ミキ”・マノイロヴィッチ、ドニ・ラヴァン、パス・ベガ、チュルパン・ハマートヴァ、マヤ・モルゲンステルンetc
評価:ブラジャボー(5億点)
日本には、『化物語』『傷物語』、はたまた『俺物語』といった○○物語というタイトルが横行している。そんな《物語》界隈に異次元からトンデモナイ傑作がやってきた!その名も『ブラ物語』だ!
ドイツ人の監督がアゼルバイジャンで撮り、俳優に何故かドニ・ラヴァンがいる。
そして、全編セリフなしで、なんとシンデレラにおけるガラスの靴をブラジャーに変えたという作品。この時点で、遊戯王に例えるならば初手でエグゾディアが全て揃ってゲームに勝利しているようなもん。ポーカーでは初手でファイブカードだ。ただ、中身を観るとこれまた斜め上を行く傑作だった。
※ネタバレ記事です。(結末に触れています)
『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』あらすじ
列車を走らせると、村人の服やボールが引っかかってくる。それを運転手は毎回返しに行っていた。ある日、青いブラジャーが引っかかっているのを発見する。赤面しつつも彼は返しに行くことを決意する。しかし、ある女性の家にブラジャーを返しに行ったら、ブラジャーが大きすぎて彼女の胸にフィットしなかった。果たしてこのブラジャーの主は誰か?運転手はまるでシンデレラにおける王子様のように、ブラの持ち主を探す旅に出た…抱腹絶倒!ブラジャーに泣かされるとは?
一昔、いや、ふた昔も前の映像さながらのフィルムのザラザラ感、退廃した画を前に、列車の運転手の淡々とした生活が映される。列車が出発すると、犬小屋から少年が出てきて、笛を鳴らしながら「みんな逃げてー」と線路を駆ける。線路ではこともあろうことか、ボードゲームをしていたり、線路を横切る形で洗濯物が干されている。まるで怪獣のようなボロ電車、慌てる人々、表情と切り返しだけでサスペンスが生まれる。ハッと息を飲む。バスター・キートンやハロルド・ロイドの映画のようなハラハラドキドキと抱腹絶倒な笑いが会場を包む。
しかし、これは序の口。列車の運転手は、ドニ・ラヴァン扮するMr.ビーンさながらの奇人運転手の面倒を見ながらも今日も元気に列車を走らせる。いつも通り、列車に何かが引っかかっているのだが、それは青いブラジャーだった!顔を赤らめながらめ、運転手は真面目で紳士。ブラの持ち主を探す旅に出るのだ。ここからはシンデレラストーリーなのだが、まさか出落ちに過ぎないと思われたガラスの靴→ブラジャーの置き換えが、ここまで考えているのか!と思う程に手数が多い。単純に、ブラジャーがフィットするかどうかは当然やるのだが、いちいち現れる女性が曲者揃いだ。それに対して、なんとかしてブラジャーを処理しようと齷齪する運転手がなんとも可愛らしい。
そして、物語はツイストにツイストを重ね思わぬ展開でグランドフィナーレを迎える。
』のように一周回って半世紀、100年前の映画はカッコイイと啓蒙する映画や『オール・イズ・ロスト』や『Arctic
』のようにサバイバル映画の演出技法として使われる。しかし、本作はキートン時代のコメディを踏襲しつつも、素朴で純粋な笑いの表現の極みとしてこの技法が使われる。尚且つ、ブラジャーを扱い、女性が裸になるシーンが多いのに厭らしく見えない。
そして、ラストも『シンデレラ』を脱構築し、意外な終わり方をする。旅の道中で出会った、犬小屋に押し込められている少年と意気投合し、苦労はあれどようやくブラジャーの持ち主だと思われる家にたどり着く。少年は「ノックする?」と運転手に訊く。彼は、「いいよ、きっとここだから、そっと干しておこう」と物干し紐に青いブラジャーを干す。そして家を追い出された少年に「俺と一緒に来るか?」と言い、一緒に帰るところで映画が終わるのだ。
そう、これは単なるブラジャーの持ち主を探す話ではなかった。孤独な男がクライマックスに孫ができる、一人ではなくなるという話だったのだ。映画を振り返ると、この映画には孤独が満ち溢れていた。運転手は、毎日村に列車に引っかかったモノを返却しに行っているのに、村人は《嫌な人》と疎む。同僚は、変人だし、誰にも寄り添えない。そんな彼が年の差大きく離れた少年と親友になるのだ。素朴ながらも、涙が出てきた。ファイト・ヘイマーの神業にすっかりノックアウトされました。
ってことで、評価はブラジ、、、ではなくブラヴォー!5億点です!!
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