判決、ふたつの希望(2017)
The Insult
監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャetc
評価:60点
第90回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、第74回ヴェネチア映画祭でカメル・エル=バシャが男優賞を受賞した話題作が日本で公開された。レバノン映画にも関わらず、TOHOシネマズ シャンテで連日満席が相次ぎ、上映館が拡大するほどヒットしている。予告編を観ると、そこまで興味が湧かなかったのだが、フリーパスで観て観ることにしました…
『判決、ふたつの希望』あらすじ
レバノン・ベイルート。キリスト教徒のレバノン人トニーが、工事をしていたパレスチナ人のヤーセルと揉め、暴力沙汰に…。裁判が行われた。小さな事件故にすぐに終わると思っていた…しかし、キリスト教徒のレバノン人とパレスチナ人の裁判ということで、弁護士が、市民が、マスコミがイデオロギーを巡る闘いとしてこの裁判を利用し始め、ついに大統領まで動いてしまう…これって、『カメラを止めるな!』盗作疑惑問題に似てるよね?
本作は、小さな小さなよくあるイザコザが、政治闘争の武器として使われ、当事者双方が困惑する話になっている。キリスト教徒のレバノン人トニーとパレスチナ人のヤーセル。カッとなりやすい二人は侮辱(=insult)しあい、暴力沙汰となってしまい裁判になる。暴力を受けたトニーは、「謝ってほしい金は要らん」。ただそれだけの気持ちで裁判が起きたのだが、双方の弁護士が右派、左派に別れている親子で彼らの政治的主張の為に事がドンドン大きくなっていく。そして、やがて大統領まで動く政治闘争に発展していく。そうなってくると、流石の当事者もドン引きして、手を引こうと思い始めるのだが、弁護士がなかなかゲームを降りさせてくれなくなる。自分たちの闘いが、社会の闘いに発展し、制御が効かなくなり、困惑していく当事者の様子、どこかで観たことがあるなと思ったら、『カメラを止めるな!』盗作疑惑問題
でした。
あれは、和田亮一という方が『カメラを止めるな!』のエンドロールに、原作:劇団PEACE『GHOST IN THE BOX!』(作:A 演出:和田亮一)と載せてほしいという懇願に対して、原案扱いという結果になり、怒った彼が社会に告発したというもの。話自体は、よくある権利のイザコザ。週刊誌が、マスコミが《盗作問題》として火炎瓶を投げ、炎上させまくり、当事者の小さな問題がコントロール不可能なレベルに大きな問題へと発展してしまった。和田亮一の文章を読むと、そこまで事を荒だてたかったのかと疑問に思うことから、非常にこの『判決、ふたつの希望』に近いものを感じる。
ある事象を盾に、自分の政治的主張を押し通す。これは誰しもが陥ることだ。ミクロな話をマクロに広げすぎて収拾がつかなくなる様子をジアド・ドゥエイリは意外なことに、ブラックコメディとして描いていた。タランティーノ映画の撮影助手としてキャリアを積んだ彼は、ただただレバノンが抱えている問題を重々しく描く凡庸な映画に陥ることなく、全力で映画として盛り上げる。弁護士が、自分の主張に溺れていって、裁判が乱れていく様子の滑稽さにニヤニヤし、そして本作でしきりに描かれる愚行に、《人の振り見て我が振り直せ》と自分の日頃の行いにギクリとさせられる。非常に見応えある作品でした。
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