『響 HIBIKI』平手友梨奈の平手打ちにときめくが…(韓国リメイク希望)

響 HIBIKI(2018)

監督:月川翔
出演:平手友梨奈、北川景子
アヤカ・ウィルソン、高嶋政伸、柳楽優弥etc

評価:45点

まさかのコアな映画ファンの心を鷲掴みにしたすき家デートプロパガンダ映画『センセイ君主

』から早1ヶ月。月川翔監督が新たな怪作を提げてやって来た!その名も『響 HIBIKI』。欅坂46の平手友梨奈映画デビュー作ということもあり公開前から話題になっていた。そして、東宝は何を血迷ったのか、TOHOシネマズでかかるありとあらゆる映画の上映前に平手友梨奈が不良の指をへし折る予告編をぶち込んだ。なんと驚いたことに、『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星

』の上映前ですら本作の予告編を流したのだ。当然会場は戦慄。幼児の何名かは号泣していた。そんな話題作『響 HIBIKI』に挑んできた。

『響 HIBIKI』あらすじ

柳本光晴の漫画『響 小説家になる方法』の映画化。とある高校の文芸部に少女が現れる。いきなり、男子部員の指を折り、女子部員の好きな小説を貶し始めた。そんな彼女が出版社に提出した小説が、編集者・花井ふみの目に止めり、いつの間にか1958年上半期の北川荘平 『水の壁』以来60年ぶりの芥川賞・直木賞ダブルノミネートを果たす…しかし…

平手友梨奈の平手打ちにときめくが…

面白い映画の棚とつまらない映画の棚があるとするならば、ブンブンは間違いなく本作を《面白い映画の棚》に入れるだろう。本作は文学だけでなく、映画や美術等の文化におけるミクロとマクロの関係を重厚に描いた作品。想像以上の奥深さに魅了された。主人公の鮎喰響は、小説を読むのが好きな高校生。彼女は、小説が好きで、試しに書いてみる。これは、自分の心の中に溜まりに溜まっていたものを吐き出す作業だ。この吐露した感情。分かる人にだけ分かってほしい。きっと出版社の人の誰かは分かってくれるはず。そう思って彼女は、原稿を出版社に送りつける。しかし、編集者・花井ふみが想像以上に彼女の作品に魅せられて、これを芥川賞や直木賞の候補に祭り上げようとする事態にまで発展する。本作で重要なポイントは、響にとって賞などどうでもいいことだ。出版社が売れる、売れない、面白い、面白くないでギャーギャー騒ぎ、それにマスコミが便乗して炎上していく。本人の気持ちなど一切考えずに、目の前を騒乱が駆け抜けていく様子をシニカルに描くことで、観る者をチクリと刺し、ギクリと後ろめたさを感じさせるドラマとなっている。

そして、今回映画デビューとなる平手友梨奈の様々な属性が残像として、観客の前をフワッと通り過ぎる演技がこの映画を骨太な作品に昇華させた。

彼女の演じる響は、中上健次のように野生の暴力性を宿している。自分が法だと言わんばかりに、容赦なく暴力を振るう。そして、文学には人一倍口煩く、例え大人であっても、有名人であっても躊躇いなく傷つける。一方で、彼女には「青春を謳歌したい」というお茶目な欲望があり、無表情殺気が突如不敵な笑みへと変わる。コスプレを楽しんだり、文芸部とのメンバーと親睦を深めたり、動物に萌えたりと青春をキュンキュン楽しんだりする。この《破壊》と《可憐》、《狂気》に《知的》に、《退廃》に《清爽》という側面を、チラつかせていく。それも予告なしに次々と魅せていく彼女は非常に魅力的だった。この平手友梨奈の残像演技がなければ、一人の天才に社会がかき乱されていく面白さは表現できなかっただろう。

こう聞くと、大傑作なように見えるが、実は非常に問題のある作品でもあった。月川翔が舵取りに悩んだおかげで、演出に中途半端さが目立ってしまったのだ。月川翔監督は、『センセイ君主』や『黒崎くんの言いなりになんてならない

』を観ると分かる通り、狂気のラブコメディを撮るのに長けている。今回も、その狂気の刃を見せようとしているのだが、《作品と社会の関係性》批評に真面目に向き合おうとしているので、コメディをやりたいのか、ガチなドラマをやりたいのかがどっちつかずとなっている。アヤカ・ウィルソン扮する響のライバル・祖父江凛夏との深刻な関係悪化の場面、非常に気まずいヒリヒリしたムードを出しながら、突然平手友梨奈がオフビートギャグをかましてきたりするので、水と油の洪水に巻き込まれたように心がざわつく。

また、本作は『バクマン。

』のようにキラキラ輝いている天才の脇で、陰日向ちを這い蹲るように頑張っている作家や、自惚れたライバル作家などが登場するのだが、彼らの人生が非常に薄っぺらく、ハリボテのように置かれているのだ。だから、「読んでもないのに、文句言うなよ」と作家が人々に言い放つシーンが浅く見えてしまう。『バクマン。』では、各作家がそれぞれの武器を最大限活かして締め切りと闘う姿がしっかり描かれ、人とは思えない超人作家ですら人としての心を持っている側面まで描いていたからこそ熱く心に残るドラマとなっていた。しかし、人を描くのに難がある本作は、結局、平手友梨奈の怪演に頼りっきりな作品止まりになってしまった。

もちろん、演出において月川翔の腕がキラリと光る場面がある。それは、響が書く小説『お伽の庭』の内容を劇中ほとんど語らないところだ。通常この手の映画だと、小説の中身をナレーションスタイルで朗読させがちだ。そうしないと、どんなに凄い小説なのかが観客に伝わりにくいからだ。しかし、本作は、役者の表情と間だけで如何に『お伽の庭』が傑作かを分からせる。どんな作品なのかも分からないが、北川景子なんかが目をかっぴらくところをみると、明らかに次元が違う作品なんだと分かる。この拘りの演出は非常に評価できる。

というわけで、非常に惜しい、勿体無い作品でした。今の時代グローカルリメイクが世界的に流行っているので、韓国でリメイクしてほしい。映画の骨格は面白いので、韓国の容赦ない暴力描写とバランス感覚のあるユーモア演出で『響 HIBIKI』を演出したら、きっと傑作として後世に語り継がれる作品となるでしょう。

おまけ1:芥川賞・直木賞両方にノミネートした作品があった

本作は芥川賞・直木賞両方にノミネートした少女の話。調べていたら結構、同時期ダブルノミネートするケースってあるようです。例えば、推理小説の巨匠・松本清張は1952年下半期に『或る「小倉日記」伝』という作品で芥川賞・直木賞にノミネートされており、芥川賞を受賞している。さらに、1951年上半期に注目すると、柴田錬三郎の『デスマスク』がダブルノミネートしている。また、劇中で言及でチラッと言及される60年前のダブルノミネートは1958年上半期の北川荘平 『水の壁』だ。以外にもダブルノミネートするケースは多いようです。ただし、ダブル受賞はできないんだそうです(映画界だと1953年にアンリ=ジョルジュ・クルーゾーの『恐怖の報酬』がベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭の最高賞をダブル受賞しています。通常、三大映画祭に同じ作品を出品することことすらありえません。)

おまけ2:ブンブンのオススメ芥川賞作品

ふと、芥川賞・直木賞受賞作品の一覧を見て、オススメしたい作品があった。それは、李良枝の『由熙』(第100回芥川賞受賞)だ。在日韓国人である彼女の苦悩を投影した作品で、韓国に留学するのだが、韓国の文化に溶け込めず、かといって日本人としてのアイデンティティもない主人公の葛藤が描かれている。韓国人でも日本人でもない、心の拠り所のない苦しみを、強烈な文体で表現しており、彼女の言葉を使うなら、《ことばの杖》を全力で振っているといえよう。我々が何気なく話す言葉も、彼女にとっては違和感があり、毎朝起きるたびに《あ》で話すのか《아》で話すのか、発音的にもほとんど同じ《a》の音一つ取っても悩んでしまう様子が辛辣に描かれている。大学時代、リービ英雄教授からオススメされて、読んで見たら目玉が飛び出るほど驚愕する文章に圧倒ノックアウトされました。まさしく、北川景子のように驚きを隠せない顔で読みました。興味ある方は是非チャレンジしてみて下さい。

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