もくじ
1.結局どういう話だったの?
本作は、多くの人が「妹に愛を奪われた男の子くんちゃん。両親は自分のことを構ってくれず嫉妬に燃えていた。そんなある日、未来から成長した妹が現れ、彼女と時に困難を乗り越えることで成長する話。」だと思って観にいくことでしょう。ブンブンもあらすじで、展開の9割は分かったぞ!と息込んで観に行った。しかし、これが全く予想外、想定外の作品だった。当の未来のミライは意外と登場時間が少ない。寧ろ、いなくても物語が成り立つ程度の影の薄さに驚いた。
さて、どんな話だったか整理してみよう。まず、始まりは想定内。妹に愛を奪われた男の子くんちゃんの嫉妬に燃える日々が描かれる。そして、未来のミライちゃんが登場する。彼女は、「ひな祭り用のお雛様を片付けるの手伝って」と言い、仕事で忙しい父にバレずに雛人形を片付ける攻防が繰り広げられる。そして、そのシークエンスが終わると、ミライちゃんは退場。姿を消してしまう。では、くんちゃんは未来のミライちゃんとのふれあいで成長したのか?これが一切成長しない。再び、嫉妬に燃えるシーンが始まる。そして、くんちゃんが両親に愛想を尽かし中庭に幾たびに、時制と時空が歪んだ妄想の世界でのエピソードが展開されていく。じいじの若かれし頃、母の若かれし頃、未来の自分、そして地獄の東京駅。正体不明の映像が次々と展開され、ラストに、ふと赤ちゃんのミライちゃんと和解して映画が終わるのだ。
誰が想像できたことでしょうか?
一昔前のカイエ・デュ・シネマ ベストテンに挙がるような難解会話劇のような作劇だ。
2.くんちゃんこそがターミネーターだった件
てっきり、予告編の段階では、ミライちゃんは実はターミネーターで、将来嫉妬が原因で闇落ちするくんちゃんを処刑or更生しにやってきたのだと思い込んでいた。しかし、実際はその逆。くんちゃんこそがターミネーターだった。突如愛を奪われたくんちゃんは何度も嫉妬から闇落ちしそうになる。しかし、中庭で繰り広げる妄想世界での対話、独り相撲を通じて自分に折り合いをつけようとしていた。つまりは、くんちゃんは自分の心にある嫉妬を鎮め、家族との戦争を終結させようとしていたのだ。まさにターミネーター(=終結者)だ。
3.将来のイクメン必見最強子育てドキュメント
細田守監督が舞台挨拶で、「下の子が生まれた時にこの映画を着想しました。作り始めて実質2年。子供達は5歳と2歳になりました。なので、ほとんど自分が体験したことだと思います。」と語っていることから、これは実質ほぼBASED ON A TRUE STORY実話だ。
仕事では成功しており、いい家と、美しき妻を持ち、良き家庭を築き上げた建築家という設定の細田守監督。しかしながら、育児に関しては全然ダメ。どう赤子と接していいのか分からず、妻から怒られてばかり。妻はキャリアウーマンでさっさと育休を終わらせ、会社に復帰している。なので、日によっては主夫として家事と育児をこなす。朝早く起きて、くんちゃんを幼稚園に預ける。帰ってきて、ミライちゃんの世話をする。気がつけば13時。遅い飯を食い、くんちゃんを迎えに行く。ヘトヘトになりながらようやく、自分の本来の仕事に着手しようとするが、疲れで集中力が持たない。仕事をしなければいけないのに、全く手が動かないのだ。そんな中、くんちゃんから「あそぼ!」と言われてんやわんやだ。
よく、Twitter等で育児はサラリーマン生活よりハードだ!という話題が流れる。しかし、その実態はあまり伝わってこなかったりする。それが本作を観ると、いかに育児がハードかがよく分かる。細田守監督は、『おおかみこどもの雨と雪』で、狼男にヤリ逃げされ、奇形児2人を抱えるシングルマザーの子育て奮闘記というトンデモセクハラ倒錯的育児映画を作ってしまった猛省か、今回はホンモノの育児を魅せてくれた。そして面白いことに、妻が元々ズボラだったところから逞しい女へと成長した様子にもフォーカスを当てている。子どもを苦痛の末産みおろすという壮絶なイベント。それにより一皮剥けた妻は、まだ一皮剥けていない夫にフラストレーションを抱いている。「ちゃんとして!」とついつい夫に強く当たってしまう様子を生々しく描いている。このような育児パートを前半30分近くかけて描くことで、等身大の《育児》を捉えたろう!という監督の強い想いが反映された作品となった。なので、新婚さんや、育児を控えている人必見の教育ビデオとして非常に勉強になるものがあります。
4.《M》に目覚める、《快楽》に目覚める
予告編が公開するや否や、Twitterで、「ア◯ルに棒を突っ込んで、昇天し獣になるとは!」と話題になっていた。実際に観てみると、直接的な物語に関係なく、くんちゃんがア◯ルに棒(=尻尾)をぶっ挿し、昇天していた。どうやら、くんちゃんは妹に対する嫉妬から《M》に目覚めたらしい。それが顕著に現れるのは、ミライちゃんとのやり取り。言うことの聞かないくんちゃんに対して、ミライちゃんは「言うこと聞かないとハチさんゲームだよ!」という。ハチさんゲームとは、人差し指で相手の横腹をくすぐる罰ゲームのようなもの。ミライちゃんは、くんちゃんにハチさんゲームを仕掛けるのだが、彼は頬を赤くし、「ねぇもっとやって!」と懇願するのだ。なんと、この作品、くんちゃんが性癖との邂逅でもって成長する姿を描こうとしているのだ。多分、多くの人がドン引きするシーンであろう。そしてあまりの超常現象に理解不能であろう。
でも、妹がいるブンブンにとって、これはホンモノの心理的移ろいを捉えた貴重な場面だと感じた。妹が現れ、親の愛を失う。愛の喪失により、性欲が刺激される。幼稚園では出会いが少ないのであろう、この愛に飢えた男の行く先は仮想の女だ。「ミライちゃんが姉だったらなぁ」という心の深層部にある欲望が、未来のミライちゃんを生み出す。そして背が高く、肉体的に接してくるミライちゃんに興奮を覚えるのだ。一見、ティーンズ向け映画に見えて、非常に官能的な映画だ。
余談ではあるが、ブンブンの場合、妹から親の愛を奪われた為か、背の高く優しいお姉さんタイプの女性を好むようにようになった(芸能人なら、熊井友理奈、貴島明日香、松井愛莉、新垣結衣が好みのタイプだ)。
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