万引き家族(2018)
仏題:Une affaire de famille
英題:Shoplifters
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、
松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、
佐々木みゆ、高良健吾、
池脇千鶴、樹木希林etc
もくじ
評価:70点
第71回カンヌ国際映画祭で今村昌平『うなぎ』以来の日本映画パルムドール受賞を成し遂げた作品『万引き家族』。本当は来週公開だったのですが、パルムドールを受賞したとのことで6/2,3に先行上映が行われました。最近の是枝裕和映画が苦手なブンブンでも、本作ばかりは期待が高まる。ってことでTOHOシネマズ新宿で観てきました。『万引き家族』あらすじ
東京の下町。家主である初枝の年金と僅かな稼ぎで暮らす家族がいた。この家族は、貧困故、足りない生活費は万引きをすることで補っていた。そんなある日、団地の廊下で震えている少女・ゆりを治が《万引き》してしまう…『万引き家族』カンヌ国際映画祭を完全攻略!
最近の是枝裕和監督は、海外に媚びた作品作りで有名だ。それ故に、賛否が極端に分かれている監督の一人である。そして今回の『万引き家族』は、予告編の時点で、明らかにカンヌを攻略しに掛っている作品だった。そして、見事にパルムドールを受賞したことで、2000年代以降カンヌ国際映画祭を象徴する作品となった。
カンヌ国際映画祭は、社会派映画の祭典であるベルリンに対してアート映画の祭典だとよくいわれるが、2000年代以降のカンヌ国際映画祭はベルリン以上に社会派映画の祭典となっている。
ここで、2000年代以降のパルムドール受賞作品一覧を見ていただきたい。
2000年代以降のパルムドール受賞作品
2000年:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
2001年:『息子の部屋』
2002年:『戦場のピアニスト』
2003年:『エレファント』
2004年:『華氏911』
2005年:『ある子供』
2006年:『麦の穂をゆらす風』
2007年:『4ヶ月、3週と2日』
2008年:『パリ20区、僕たちのクラス』
2009年:『白いリボン』
2010年:『ブンミおじさんの森』
2011年:『ツリー・オブ・ライフ』
2012年:『愛、アムール』
2013年:『アデル、ブルーは熱い色』
2014年:『雪の轍』
2015年:『ディーパンの闘い』
2016年:『わたしは、ダニエル・ブレイク』
2017年:『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
2018年:『万引き家族』
2018年はパルムドール対策映画だらけだった
多くの受賞作品が貧困や性的マイノリティー、移民等を扱った社会派ドラマである。それ以前の『セックスと嘘とビデオテープ』、『ワイルド・アット・ハート』、『バートン・フィンク』、『パルプ・フィクション』が受賞していた時代と比べると圧倒的にアート映画が少ない。2000年代以降のパルムドール受賞作で、完全なアート映画といえるのが『ブンミおじさんの森』『ツリー・オブ・ライフ』の2作だけだ。そして2018年のカンヌ国際映画祭は、この受賞の法則に従い、パルムドール対策された作品ばかりがコンペティションに集まっていた。
・『EN GUERRE』→労働者対企業の対決を描く
・『PLAIRE, AIMER ET COURIR VITE』→同性愛者を描く
・『LES FILLES DU SOLEIL』→クルド人女性戦士を描く/女性監督作品
・『Capharnaüm』→レバノンの貧困を描く/女性監督作品
・『BlacKkKlansman』→KKKと闘う黒人警官を描く
・『THREE FACES』→イラン政府に監視されている映画監督のゲリラ映画
・『ZIMNA WOJINA』→戦争映画
・『LAZZARO FELICE』→イタリアの貧困を描く/女性監督作品
・『万引き家族』→貧困映画
・『AHLAT AGACI』→貧困映画
・『AYKA』→貧困、女性の出産
それを押し切って、是枝裕和の『万引き家族』が受賞したのだ。つまりは、徹底して対策されたカンヌ国際映画祭向け映画であり、2000年代以降のカンヌ国際映画祭を代表とする作品に躍り出たのだ。それだけに、本作は間違いなく今年の映画ベストテンにランクインし、同時にワーストテンにもランクインするだろう。特に映画芸術はワーストテンに本作を入れるであろう。
想定外の炎上
日本人の「万引き家族」を日本人が賞賛することこそ世界の恥ではないかな?
沈黙するのが国家の品格だよ。 https://t.co/CBZ3Ty24uF
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2018年6月1日
ただ、想定外のことが今起きている。毎回是枝裕和映画は叩かれているのだが、今回はあまりに酷い叩かれかたをされている。折角日本映画21年ぶりの快挙にも関わらず、「日本を万引き大国のようにみせやがって」とか「在日監督め」とか自分の差別的意識を捻じ曲げて映画を、監督の人格を否定するような罵声がTwitterを飛び交っていたのだ。しかも、それに便乗してか高須クリニック院長こと高須克弥までもが自身の知名度に乗じて炎上に加担していた。これには流石にブンブン、憤りを感じた。確かに、本作がパルムドールを獲ったことで、普段映画を観ないような人の耳にもこの映画の情報が流れてくる。映画が対して好きではない差別意識の強い人が、間接的な差別表現として本作を媒体にしているだけにすぎない。
しかし、「店を営んでいて、よく万引きに悩まされている。だから万引きを美化する本作が嫌いだ。」なんて言葉を聞くと、日本は映画というフィクションをフィクションとして捉える余裕がなくなっているのではと思えてくる。日本文化の勝利を喜び、応援する人がいない状況から、今の日本が陥っている貧困、特に心の貧困が浮き彫りとなっている。そして、映画を観ずしてこうも火炎瓶を投げつける様をみると心が締め付けられるように痛い。
それに、実は言うと、前回パルムドールを獲った日本映画『うなぎ』は、殺人を犯した男が出所し立ち直るまでの話だ。さらに言えばその前のパルムドールを受賞作品した日本映画『楢山節考』は姥捨山の話だ(どちらも今村昌平監督作)。「日本を万引き大国だと思わせやがって!」という人は、是非ともこの2作を観てほしい。
今や潔癖症、神経質になってしまった日本に問いたい。
道徳的、政治的正しさを遵守して映画を作って人々を動かせるのか?
確かに、ディズニー映画のように成し遂げている作品もあるが、映画は観客が知らない世界に連れて行くものである。自分の常識とかけ離れた世界と邂逅させ、考えさせる。そして現実世界を見る目を変化させるものだ。現実では犯罪を犯すとお縄に掛けられ、社会的地位を失ってしまうものが映画だと許される。つまり映画は、あえて道徳的、政治的正しさを破って観客に異物感を与えることで心を揺さぶり、行動させることができるメディアでもあるのだ。
だから『万引き家族』は、犯罪を通じた擬似家族の絆という異物、違和を通じて観客が表面的にしか知らない日本の貧困の深淵と対峙させ、考えさせるのだ。
何故、本作がパルムドールを獲れたのか?もちろん、是枝裕和監督の圧倒的マーケティングセンスによるものも大きいのだが、カンヌという物価が高く、セレブな空間。そこで特権階級さながらの立場にいる人々が、今立っている世界とは真逆のどん底を魅せられたことで、背徳感を感じ、「貧困をどげんかせんといかん」と痛感させられたからであろう。
では、詳しく『万引き家族』の中身について分析していくとする。
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